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皇国の宣言

 その瞬間ソーマの頭にあったのは、疑問であった。

 何せ唐突に城内が騒がしくなったと思ったら、玉座の間が燃えているという話が聞こえてきたのだ。


 しかもヴィクトリアの姿も見えないのだという。

 その二つを無関係のことだと考えるのはさすがに難しいだろう。


「むぅ……我輩まだ何もしていないであるぞ?」

「この状況ではシャレになってないんだから黙ってなさい……!」


 アイナの叫びに肩をすくめるも、実際のところ現状で最も怪しいのはこの国の人間ではないにも関わらず城内に留まっているソーマ達だろう。

 街に行けば他にも他国の人間など幾らでもいるだろうが、城内で他にいるという話は聞いていない。

 どう考えても容疑者の第一候補であった。


「まあ我輩達が下手人ならばとっくにここから逃げ出しているであるが、そんなことは言っても聞き入れてはもらえんであろうしな」

「でしょうね。そう思わせるのが目的で留まってる、とか言われたらそれまでだもの」


 ちなみに現在ソーマ達がいるのは、ソーマ達に割り当てられた客室である。

 話を耳にした直後に情報を集めるために動き出し、一通り回った後で戻ってきたのだ。


 情報を集めている最中刺すような目で見られていたことを考えれば、ここが最も安全だと考えたのは間違いではなさそうである。


「ふーむ……皇帝が健在ならば色々と取り成してもくれたであろうが、今となってはそれも無理な話であるしな」

「というか、皇帝の姿がないからこその現状でしょ? 玉座の間が燃えたってだけなら、騒ぎにはなるかもしれないけど、それほどではないだろうし」

「確かにである」


 出歩いて確認してみた限りでは、随分と城内は混乱しているようであった。

 情報が錯綜しており、事実と憶測、それと願望が入り混じって語られているようだ。


 だからこそソーマ達も情報収集が出来たのだが、現状確定しているのは、玉座の間が燃えているということと、火の勢いが強すぎてそこに近寄る事が出来ないということ。

 それと、皇帝の姿が見えないということだけだと思われる。


「ふーむ……しかし、そもそも何故玉座の間が燃えているのであろうな? 皇帝が姿を消したのと無関係だとは思えないものの、どう関係があるのかも分からないであるし……」

「それも気にはなるけど、結局あたし達はこれからどうするのよ? そのうちここにも誰か来るでしょうし……」

「うーむ、下手人がそれまでに捕まってくれれば一番なのであるがなぁ……」


 無論、可能性が低いことは承知の上である。


 そもそもの話、下手人がいるかも分からないのだ。

 玉座の間が燃えているのは何らかの事故のせいかもしれないし、皇帝が姿を消しているのも単に街に出ているからかもしれない。

 二つが無関係だとは思えずとも、実際には無関係の可能性だってあるのだ。


 しかし何にせよまずは、ソーマ達の身の振り方をどうするかだが――


「ここから逃げる、ということはなしであるな。下手をすると我輩達に擦り付けられてしまうかもしれんであるし」

「そうなったら、準備が云々とか言ってる暇なく戦争でしょうね」

「それを避けるためにここに留まっていたというのに、その引き金を引くことになるとかシャレにならんであるしな」


 その選択をする可能性があったのは事実ではあるが、少なくとも未だそうしてはいない。

 自分で決めたことならばまだしも、誰かの手によって勝手に決められてしまうことだけはごめんであった。


「しかしそう考えると、それを望む他国の仕業、という可能性もあるのであるか……」

「分が悪すぎじゃないの? それバレたら皇国と聖都の両方に喧嘩売ることになるのよ?」

「まあ、そんなことをしそうな国もなさそうであるしな……」


 話に聞いたことのある昔のベリタスあたりならばやりそうではあるが、あそこは今それどころではないはずだ。


 そもそも現状、皇国と聖都が頭抜けすぎており、他国とは圧倒的な差がある。

 双方が疲弊してくれるところを望んでいるところは多いだろうが、危険な賭けに出るような国があるとも思えない。


 となれば――


「可能性が高いのは――」


 と、ソーマが答えを導き出そうとした、その時のことだ。


『――諸君。誇り高きユピテル皇国の諸君! 私は其方達に話したい事が……そして、話さなければならないことがある……!』


 外から、そんな声が響いてきたのであった。













 皇城の中で最も高く、周囲を見渡せる場所に、その男は立っていた。

 今からほんの少し前、皇帝と呼ばれる人物が立っていたのと同じ場所に立ちながら、男――近衛の隊長であったその者は、眼下を睨みつけるように眺めつつ口を開く。


『突然のことで申し訳なく思う。だが、今この時でなければ駄目だったのだ。今この時――皇帝に手を下した、この時でなければこそ……!』


 当たり前のことではあるが、男がいる場所と街の間では相応の距離がある。

 こんなところで声を張り上げたところで、ほとんど聞こえはしないだろう。


 だが男は確実に届いていると確信して話をしているし、事実それは正しくもあった。

 男は魔法に似た力を用いて、街の隅々にまで声が届くようにしていたからだ。


 とはいえ、無論相手からの反応までは分からないわけだが、それに関しては気にする必要がない。

 反応がないわけがないからだ。


 故に、男は胸を張って声を張り上げていく。


『私の名は、ランベルト。無論、大半の者が誰だと思いはするだろうが……だからこそ、敢えて私はこう名乗ろう。ランベルト・Y・アルカナム、とな……!』


 その名乗りは、きっと多くの者に衝撃を与えたことだろう。

 皇帝の血を継ぐ者は、ヴィクトリアしかいないはずだからだ。


 しかし実際にはそれは正しく、また誤りでもある。

 男の――ランベルトの名乗りは間違ってはいるが、ランベルトが皇帝の一族であることは事実だからだ。


 だが、ランベルトには皇帝を継ぐための資格が足りていなかった。

 それはとあるスキルであり、歴代の皇帝は皆そのスキルを持って生まれたのである。


 ランベルトはそれを持たず、ヴィクトリアは持っていた。

 だからランベルトは皇帝の血を継ぐ者として認められる事はなかったのだ。


 とはいえ、今回の事はそれを恨みに思ってのことなどではない。

 しっかりとした、理由あってのことであった。


『私のことなどは、どうでもいい。だが、皇帝は看過をすることは出来ないことをしてしまったのだ。だからこそ、私は今日立つことを決めたのである……!』


 その言葉は、果たしてどのように皆の耳には届いただろうか。

 湧き上がる感情は果たして、興味か、疑惑か、あるいは拒絶か。


 しかしどれでもいいことであった。

 この話を聞き終えた時、皆がどんな感情を抱くことになるのかを、ランベルトは確信していたからだ。


『さて、では何故こんなことになってしまったのかだが……諸君は、魔王という存在のことを覚えているだろうか? そうだ、今から二十年ほど前に、各国が討つべく立ち上がることになった存在だ』


 疑問を放ちながらも、まるで知っていて当たり前のように話しているのは、それが当然だからである。

 他の国ではどうかは知らないが、この国では魔王の名は知っていて当たり前なのだ。


 何故ならば――


『そうだ、我々が見過ごした存在だ……! 他国が手を取り合い、打倒の為に力を合わせていた中、我々が何もしなかった相手だ……!』


 そう、それこそが、この国で魔王の名が知られている理由だ。


 要するに、彼らはそれを恥と捉え、戒めとするために言い伝えてきたのである。

 実際には魔王討伐隊などと言いながらも内ゲバをしていたわけではあるが、そんなことは彼らには関係がない。


 彼らは当時も大国であったにも関わらず、何もしなかった。

 そのことに違いはないからだ。


『そしてこれまた諸君は知ってのこととは思うが、その魔王が再びこの世界に現れた。しかも今度は、あの聖都を味方につけたのだ……!』


 この辺の情報は、皇国が積極的に知らせた情報である。

 聖都と戦になる可能性がある以上は、知らせないわけにはいかないのだから当然だ。


 だが。


『実のところ、この情報は正しくはない。何故ならば……皇帝もまた魔王と手を結ぼうとしていたからだ……! そもそも聖都に彼の者の身柄を引き渡すよう要求したのもそのためなのだから……!』


 これは捏造ではなく、事実だ。

 ランベルトはヴィクトリアから直接その話を聞いているために、知っていたのである。


 しかし。


『これは言うまでもなく我々に対する背信だろう……!』


 そう、これは間違いなく背信だ。

 この国の者達は、誰一人として否定することなく頷くに違いない。


『何故ならば、彼女はそれを黙っていたのだ……! 我らを信じなかったのだ……!』


 皇帝はこの国の頂点に立つ者である。

 皇帝はその資格のある者のみが継ぐことの出来る立場である。


 だが同時にそれは、民の皆から認められてこそ、成ることの出来るモノであった。

 ならばこそ――


『そう、ならばこそ、我らに皇帝は不要……! 無論、魔王なども不要である……!』


 ランベルトは、皆の心が一つになっていることを感じていた。

 故に、その言葉を叫ぶ。


『さあ、誇り高き皇国の民達よ……! 今こそ我らが立つべき時である……! 我らの手で以て、この世界を滅ぼそうぞ……!』


 遠くから、しかし確かな声が届いてくるのを、ランベルトは感じていた。

 それは力強い……肯定を意味する、熱狂に至るほどの歓声だ。


 その声を聞きながら、ああ、やはり自分は間違っていなかったと、そんな感慨に耽るように、ランベルトはぎゅっと拳を握り締めたのであった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

報告が少し遅れてしまいましたが、コミカライズ版売れ行き好調なようで、重版決定したようです。

これも皆様の応援のおかげです、本当にありがとうございます。

ただ、書籍の四巻の方なのですが、諸事情(主にイラストレーター様が忙しくて)により発売遅くなってしまいそうです。

三巻に続いてお待たせすることになってしまいますが、多分発売はされるので、しばしお待ちいただけましたら幸いです。

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●GCノベルズ様より『元最強の剣士は、異世界魔法に憧れる』の書籍版第六巻が発売中です。
 是非お手に取っていただけましたら幸いです。
 また、コミカライズ第五巻が2021年5月28日に発売予定です。
 こちらも是非お手に取っていただけましたら幸いです。

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