元最強、魔法などに関する情報を得る
正直に言ってしまうのであれば、それほど驚きはなかった。
神とは言っても、あくまでもサティアは管理者である。
そして管理者とは、自ら世界を作り上げるのではなく、既にある程度出来上がった世界を引き継ぎ、管理していく者だ。
サティアが関わっていないことがあるのは、むしろ当然だろう。
それに確か以前、魔導を始めとした理の管理は本来自分の役目ではない、などとも言っていたはずだ。
ならば尚更、サティアが作り出したものでなかったのだとしても不思議はなかった。
ただ、そう納得出来はするものの、一つ疑問もある。
かつて学院で聞いた話によれば、魔法というものは比較的新しい技術なはずだからだ。
まあ、新しいとは言っても、人類が魔法を使うようになって五百年程度は経過しているはずだが、剣術などに至っては数千年前から使われているなどとも言われているほどなのだから、十分新しいと言ってしまっても構うまい。
そして五百年前となれば、ちょうど邪神が暴れていたとされる時期である。
人類どころか世界を壊そうとしていた邪神が、まさか人類のために魔法を作り出したりするとは思えない。
となると、可能性としてあるのは――
「……魔法は、この世界に最初からあった、あるいは少なくとも人類へと伝えられる以前から存在してはいたものの、知られてはいなかった、ということであるか?」
「いや、魔法ってものがこの世界に誕生したのが今から約五百年前だってところは合ってるんだよ。ただ、ボクが作り出したものではないってだけで」
「……ちょっと待つのじゃ。つまり……貴様以外の者が魔法を作った、と?」
ヒルデガルドは自分で口にしていながらも、信じてはいないようであった。
それはそうだろう。
世界に新しい概念を作り出すというのは、神の専売特許だ。
元神であるからこそ、ヒルデガルドはそのことをよく理解しているに違いない。
つまりそれが事実ならば、当時サティアでも邪神でもない、第三の神がいたということになる。
しかしそんな話は聞いた事がなかった。
「キミ達が何を考えているのかは大体分かるけど、勘違いだって言っておくよ。だって魔法を作り出したのは、邪神を討伐するために呼び出した異世界の英雄の一人なんだから」
「英雄の一人が……? 人類に魔法を伝え広めたのは、始まりの魔法使いだってことになってるはずだけど……」
「ああ、それも間違ってはいないよ? だってその二人は同一人物だからね」
「……つまり、魔法を作り出した英雄が、自分の手でその魔法を世界にばら撒いた、ということであるか? ふむ……時期的に考えて、てっきり魔法も汝が邪神対策として広めたのかと思っていたのであるが……」
「まあ、さっきの話から連想してそう思うだろうな、とは思ったけど、それは考えすぎだね。そもそも彼が魔法を人類に広めたのは、邪神が滅んだ後だし」
「ほぅ……? それも初耳なのじゃな……」
ソーマも初めて聞くことではあるが、邪神は何とか滅ぼせたものの、その代償として当時は世界中がボロボロだったと聞く。
ということは、魔法は復興の役に立つとでも考えて広めることにでもしたのだろうか……?
「えーっと……言葉を選んで言うけど、彼は英雄ではあったけど、決して聖人ではなかった。むしろどちらかと言えば変人だったって言うべきかな?」
「言葉を選ぶとか言ってなかったであるか?」
「これでも選んだんだよ? だって彼が人類に魔法を広めたのは、その方が魔法が発展していきそうだから、っていう理由だからね。彼は魔法のことだけを考え、どうすればより良い魔法を作れるようになるだろうかと、そんなことを四六時中考えてるような変人だったのさ」
「ふむ……十分以上の才があり、それのみにのめり込むような人物だった、ということは分かったのじゃが、それだけで世界に新しい概念を作り出すことは出来んじゃろう? それは神にしか出来んことじゃからな。その辺はどうやったのじゃ?」
「神にしか出来ないって言うのなら、その人も神になった、とかかしら? 人から神になれるのかは知らないけど」
「んー、惜しいと言えば惜しいかな? 実際彼は神になれるだけの資格はあった。だけど彼はそれを断っているんだよね。そんな面倒なものを背負うよりも、もっと魔法の研究を進めたい、とか言って」
「……さっきから思ってはいたんだけど、何となくソーマと話が合いそうな人ね」
「そうだね、多分合ったんじゃないかな?」
「まあ、既に会う事は出来ないだろう人物のことはどうでもいいのである。それよりも、結局その人物はどうやって魔法をこの世界に作り出したのである?」
「それは単純だよ。当時この世界にボク以外の神は存在してはいなかったからね」
「……貴様が作り出した、と? しかし貴様さっき自分では作り出していないとか言ってた気がするのじゃが?」
「確かにボクはこの世界で魔法っていうものを使えるようにはしたけど、そのための理論とかは全部彼からの借り物だったからね。さすがにそれでボクが作ったとか言えるほどボクの面は厚くないさ」
サティアの言葉に、一応矛盾はなかった。
確かに自分が考えたものではないというのに、それを自分の手柄のように語るのは、面の皮が厚すぎるだろう。
とはいえ。
「で、何故わざわざそんなことを話したのである? ぶっちゃけ知らなくとも問題はない……ああいや、待つのである。そういえば、汝先ほど許可が云々とか言っていたであるな?」
「さすがだね。うん、つまりはそれこそが、ボクがキミ達に魔法に関することの大半を話せない理由なのさ。彼の理論を借りた以上は、魔法に関する権限は大半が向こうにあるからね。そういう契約を結んでもいるし、だからボクがキミ達に話せるのはボク自身が自分で気付けたほんの少しのことだけなのさ。しかも一度あまりにも使いづらいからって仕様変更が入ってるしね。尚更ボクの話せることは少ないと思うよ」
「ふむ……色々納得なのである」
要するに、簡単に言ってしまえば、魔法について説明しようにもよく分かっていないから不可能だということだ。
厳密には多少異なるようではあるし、色々とそれはそれで事情がありそうではあるも、今のところそっちに関しては気にする必要はあるまい。
どうせ直接魔法には関係してこないだろうことだ。
今分かっていることは、一つだけ。
どうやら確かに魔法に関することは色々聞きたくとも無理そうだということであった。
「しかしそうなると、どうしたものであるかな。今の話は今の話で興味深くはあったであるが……」
「まあ、あんたにとって有益そうな情報はこれ以上もらえないでしょうね。それよりも、何か気になってることとかを聞いた方がいいんじゃないの? あんた色々本読んでたって話だし、一つや二つぐらいなら何かありそうな気がするけど?」
「ふむ……確かに色々と読んだではあるが、気になってること、であるか。とはいえ、特に思い当たるものは……いや、そういえば、一つだけあったであるか」
「へえ……なら、問いかけてみたらどうだい? ボクは心が広いからね。答えられることなら答えようじゃないか」
本当に心が広い者はそんなことを言わない、と一瞬思ったものの、口に出すことはしなかった。
わざわざ機嫌を悪くする必要はあるまい。
それに、ちょうどいい機会と言えばちょうどいい機会ではある。
いつか聞こうとは思いつつ、中々その機会が訪れる事がなかったのだ。
何せ事が事であるがゆえに、気軽に口に出してしまってもいいのかどうかが分からなかったのである。
しかし今ここならば、そんなことを気にする必要もないだろう。
「ふむ……では折角なのであるし、お言葉に甘えるとするであるかな」
「そうするといいよ。それで、キミが気になってることってのは一体何なのかな? まあ、何となく予測は出来る気がするけどね」
「おそらくその予測は正しいであろうな。――我輩が気になっていることというのは、法術に関することである」
当然と言うべきか、ソーマは法術に関しても色々と調べてはいる。
だが聖都側から検閲が入っているらしく、具体的な情報が得られることはなかった。
見つかる情報といえば、法術とは、神への祈りによって奇跡を起こす神の御業である、ということ。
そしてそれがどれほど素晴らしく、時に困難を打ち破り、時に悲劇を覆す、まさに神の愛が成せる奇跡であるのか……などという美麗賛辞が続くものだけであり、具体的にどうすれば使えるようになり、どんなことが可能なのか、という情報はまったく手に入る事がなかったのである。
そこから多少なりとも進展があったのは、エレオノーラから渡された書物を読んだからだ。
さすがに聖都にあるものは検閲が緩いのか、あるいはエレオノーラが敢えてそういった書物を選んだのかは分からないが、幾つかの具体的な使用方法と効果が分かったのである。
しかし、そのための前提条件というものがあるらしく――
「法術を使用するには、聖神教へと入り、神に認められる必要がある。つまりは、汝を本気で崇め信じれば、我輩でも法術を使用出来るようになるのであるか?」
よくある誘い文句であり、謳い文句だと言ってしまえばそれまでではあるが、実際にこうして神というものが存在し顕現しているのだ。
ならば、あるいは、という可能性までは否定出来まい。
だがある意味予想通りと言うべきか、サティアの答えは首を横に振るというものであった。
ただ、それだけですまなくもあったが。
「ああうん、それは無理だね。アレは言っちゃえば起動方式が違うだけの魔法だし。魔導スキルが必須なことに変わりはないから、君には無理かな」
「……今さらっと問題発言が聞こえた気がするんだけど?」
「聞かれた相手次第では問答無用で異端審問が開かれそうじゃな……」
同時に漏らされた情報に、アイナとヒルデガルドが呆れとも驚きともつかない顔で呟く。
おそらくソーマの顔も同じようなことになっているだろう。
そうなのではないか、という予測は立ててはいた。
法術を使用するには常に決まった聖句が必要であることや、発現する現象は基本的に同一のものである、などといった情報を得ていたためだ。
だがまさか神自身に肯定されるとは予想出来るわけがあるまい。
「まあ、元々法術と魔法を違うものとして見せたい、っていうのは聖神教の立場を強固にし、特別視させるためにエレオノーラが考えたものだからね。ボクとしてはそれほどそこに拘りはないし……それに、そのうち公にもされるんじゃないかな?」
「ふむ……そういえば、近年聖神教に入ると魔法が使えるようになる、などとも言われているのであったか?」
「それもエレオノーラが流させている噂だね」
さすがにサティアがそれ以上言及することはなかったが、そうして少しずつ双方を近づけさせ、自らで気付くようにしている、ということだろうか。
しかしそれにどんな意味があるのか、と考えた瞬間に思い出したのは、先ほど聞いた話であった。
聖神教は少しずつ自らが与える影響力を小さくしていっている、というものだ。
法術と魔法が根を同一とするものだということが分かれば、聖神教の特別性が薄れる。
それは間違いなく影響力の低下も意味するだろう。
魔法に関する噂は、聖神教の信徒を増やすためだと考えていたが、そうなるとその意味するところはガラリと変わってくる。
一時的に信徒が増える事になったとしても、最終的には真逆の効果を持つ噂だということになり――
「……色々と考えているのであるなぁ」
「ま、仕方ないさ。今まで誤魔化してきたツケが回ってきてるって感じだしね。頑張ってるのは主にエレオノーラだけど」
「ふむ……ちなみに、連想して思い出したのであるが、なら呪術はどうなっているのである? アレも魔法の同種なのであるか?」
「いや、呪術は……うーん、どうしようかな。まあついでだし、話しちゃってもいいかな?」
「何の話なのじゃ?」
「必要になるのはもう少し先じゃないかな、って話さ。まあともあれ、呪術はどちらかと言えば、魔法ではなくボクの力の方に近い……というか、ぶっちゃけボクの力の同種だね」
「……貴様の力、じゃと……? それはつまり……」
「……神の力、ってことよね?」
肯定するように肩をすくめるも、サティアの顔には僅かな苦みのようなものが広がっているように見えた。
だがその意味を捉えきる前に、サティアはさっさと続きの言葉を放つ。
「さっきの雑談でも少し触れたけど、髪や瞳の色と本人の才能との相関はボクが意図して取り入れたこの世界の仕様であり、広まっている噂は正しい。だけど、白に関してだけはちょっと意図していたものとは違った伝わり方をしちゃってるんだよね」
「白……つまりは、魔女、であるか」
反射的に友人の顔が頭に浮かび、それに被せるようにサティアが頷く。
彼女と同じ色彩を持つ神の瞳は、真っ直ぐにソーマへと向けられていた。
「うん。まあ、黒とは反対に、白は何の才能も持っていない、というのは正しいんだけどね。ただ、それはあくまでも人類の基準から見た場合の話。本当は、転じて人の身では測れないという意味も持っているのさ」
「……貴女と同じように、かしら?」
「そういうことだね。なんだけど……どうして今のようになっちゃってるのかは、正直把握できていないんだよね。まあ、魔王のせいで一部で黒髪黒瞳が嫌われたように、そうなるに足る何かはあったんだろうけど」
「貴様は本当に肝心なところで使えんのじゃな……」
「ふむ……しかしそうなると、確かに幾つかの部分で納得がいくであるな。呪術がどうにも効果の割に対価が吊り合っていないと思っていたのであるが……」
「うん、本来ボクが使うべきものだから、ってことだね。というか、実はアレ対価としては合ってるんだよ。ボクだから合わせられるとも言うんだけど」
何やらまだ色々と隠しているというか、話していないことがありそうではあるが、ソーマはそれ以上追及することはしなかった。
時間がかかりそうなのと、何よりも今はまだ話してくれなそうだからである。
サティアはどうにもそういうところがあるのだ。
色々と考えているがゆえのことではあるのだろうが……まあ、こちらは協力者だとはいえ、教わる立場でもある。
そういう方針で行くというのであれば、従う以外はあるまい。
それにあくまでも、今はまだ、だ。
友人が関わっている以上は聞かないという選択肢はなく……何となくではあるが、再び何かで関わることにもなるのだろうなという漠然とした予感のようなものもある。
きっとそれまでには、サティアも話してくれるだろう。
一応その程度には信用しているのである。
さて、しかしそれはともかくとして、このままでは話が終わってしまいそうだ。
折角の機会だから他にも何か聞いてみたいところだが……他にも何か今この時でなければ聞けないようなことなどあっただろうか。
最近読んだ書物、過去に調べたあれこれ。
そういったものを思い出し、考えながら……ふと目を細める。
果たしてどうなることやら、などと呟きながら、ソーマは過去と未来の両方へと思考を巡らせるのであった。




