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元最強、神の授業を受ける

「さて、それじゃあ新しく仲間も増えたことだし、今日も今日とて張り切ってお勉強をするとしようか」


 明るく放たれた言葉とは裏腹に、その場に充満していたのは呆れと戸惑いの感情であった。

 もっとも、それも当然ではあろうがと、呆れ側に属しているソーマは溜息を吐き出す。


「まあ勉強に関して異論はないのであるが、アイナがまだ戸惑いから抜けられていないようなのであるが?」


 言いながら視線を向けてみれば、アイナはその表情だけではなく、全身で戸惑いを表現している。

 先ほどの腕試しという名目の何かが終わった直後、何事もなかったかのようにサティアの部屋にまで戻り、第一声が先ほどのものであったのを考えれば、当たり前のことでしかなかった。


「えっと……結局あたしはなに? 仲間として認められた、ってことでいいの……?」

「まあこの流れで認めないとか言い出したら我輩がぶっ飛ばすであるから、それに関しては気にしなくて問題ないと思うのである」

「そもそも本当に必要だったのかも分からんものだったわけじゃしな」

「本当に必要なことだったんだけど……まあいいさ。その時が訪れれば、キミ達もボクの言いたかったことを理解してくれるだろうしね」


 何やらサティアがわざとらしいまでの怪しげな発言をしてきたが、ソーマはそれを肩をすくめただけで流す。

 出会ってからまだ日は浅いものの、サティアが本当に神なのだろうな、ということは誰に言われるでもなく理解していることだ。


 ならば何か企んでいることがあるにしても、それは最終的にこちらのためとなるのだろう。

 その程度の信頼は、ソーマは神というものに対して持っているのだ。


「うーん……ボクに対する信仰じゃないのが気になるっていえば気になるけど、まあさすがにそこまで言うのは贅沢かな」

「貴様は一体何の話をしてるのじゃ……?」

「こっちの話さ。で、まあ、さすがに冗談だよ? ちゃんとある程度の話はするって。キミ達に任せてもいいんだけど、その辺を説明するのはボクの義務だろうからね」


 そう言ってサティアは、今度こそ本当にしっかりとアイナに説明を始めた。


 世界の現状のこと、悪魔のこと、ソーマのこと、皇国とのことに、これからのことなど。

 随分簡易的な説明ではあったものの、一から説明していたらいくら時間があっても足りないのでそんなものだろう。

 何か分からないことがあったら、その時に改めて説明すればいいことだ。


 とはいえ、さすがに即座に理解するには情報を与えすぎたのか、アイナの顔から相変わらず戸惑いは消えていない。

 ただ、その瞳に納得の色もあることを考えれば、必要最低限の情報の把握は出来たようだ。


「……世界とか規模が大きすぎて即座には何も言えないけど……でも要するに、またソーマがよく分からないことに巻き込まれてる、っていうか、自分で首突っ込んだってことでしょ?」

「いや、今回は我輩巻き込まれたで間違ってない気がするのであるが?」

「とはいえ、首を突っ込むことを決めたのも事実じゃろう?」


 その通りではあったので、肩をすくめて返す。

 以前ヒルデガルドにも言った通りのことである。


 どうせこれは放っておいてもいつか自分の目の前へとやってきてしまう問題だ。

 ならば積極的に関わっていった方が結果的には早く終わるだろうし、そうしなければ致命的なところで大切なものを取りこぼしかねないという漠然とした予感のようなものもある。


 何よりも、今更だ。

 で、ある以上は、望むものを手に入れるためにも、首を突っ込まないという選択肢はなかった。


「まあとりあえずは、それさえ分かってれば十分よ。それで、あたしでも何か出来ることがあるんでしょ? なら、ソーマには色々と借りも溜まってるし、ここら辺で一旦返済することにするわ」

「へえ……ちなみに、それは本心からの言葉なのかい?」

「……本心以外の何だって言うのよ?」

「いいや? ただの確認さ。……くっく、いや、ソーマ君は愛されてるようで何よりだよ」

「そうであろう? 羨ましいであるか?」


 その返答は予想外だったのか、サティアは数度目を瞬いた後で、苦笑のようなものを浮かべる。

 気のせいでなければ、その瞳には羨望のようなものも浮かんでいた。


「本心から羨ましいと思うよ。ボクも沢山の愛を受ける身ではあるけど……残念なことに、本当に欲しかった相手からのものだけは貰えなかったからね」

「ま、神たる身ではよくあることじゃな。もっとも、今の我には無縁のものじゃがな……!」


 そう言いながらヒルデガルドが不器用なウインクなどを披露してきたが、ソーマは華麗にスルーした。

 腕試しやら何やらをやったせいもあって、それなりに時間が押している。

 余計なことをしている暇はないのだ。


「我にとっては余計ではないのじゃが……!?」

「キミ以外の全員にとっては余計っていうか無駄だからね。ともあれ、さて、それじゃあ今度こそ本当に今日の『授業』を始めようか。皇国がすぐに動き出すことはないだろうけど、あまり余裕があるわけでもないからね」


 異論はなかったので、一人騒ぐヒルデガルドを放置し、適当な位置に置かれている椅子へと座る。

 同じように座りながら、周囲を軽く眺めているアイナはどことなく興味深そうだ。


「『授業』って、要するに学院で受けてたのと同じようなことをやるってことよね? こういったところでやったことはないから、ちょっと変な感じがするわ……」

「最初の頃はそう感じるかもしれんであるが、要するに慣れの問題であるからな。すぐに慣れると思うのである」


 そんなものかしらね、などと言いながらアイナはさらに周囲を眺めているも、正直なところその気持ちは多少ソーマにも分かることであった。

 この部屋は装飾品などが豪華であるとはいえ、結局のところはソーマ達の泊まっている部屋と大差ないのだ。

 そんなところでやるのか、という思いは、確かに少しだけある。


 ちなみに『授業』とは、そのままの意味だ。

 要するに、サティアだけが知っているような世界の真実やら常識などについてを教わる時間のことである。

 授業以外の名称が思い浮かばないためにそのまま使っているだけであり、別に何らかの隠語というわけではないのだ。


 それでも、何せ教わる内容が内容であり、さらには教わる相手が相手である。

 神から世界の真実を教わるなど、もっと荘厳な雰囲気の中で行われるものなのではないか、という思いがあるのは分かる話だ。


 しかし、幾ら神とはいえ、所詮サティアなのである。

 きっとアイナもそう遠くないうちに違和感は薄れ、こんなものかと思うようになるに違いない。


「むむ……? 今なんかボクのことを馬鹿にするような気配を察知した気がするんだけど?」

「気のせいであろう。というか、あまり余裕がないと言ったのは汝であるぞ? 時間が勿体無いからさっさと始めるのである。あと、いい加減ヒルデガルドも座るがいいのである」

「ぬぅ……なんか段々我への対応が雑になってる気がするのじゃが?」

「因果応報というものであろう」


 そうして適当にヒルデガルドの相手をしていると、サティアも確かにその通りだね、と呟き頷く。

 今日は随分と始まるまで紆余曲折あったが、ようやく始まるようだ。


「じゃあ今度こそ本当に始めるとして……うーん、内容はどうしようかなぁ」

「貴様それ毎回言っているのじゃな。というか、どうせ今回も既存の情報の復習なのじゃろう?」


 ヒルデガルドが胡乱げな目を向けながらそう言ったのは、実際これまでに数度あった授業の全てが既に知っている情報の確認と復習……認識のすり合わせとでも呼ぶようなことしかやっていなかったからだろう。

 正直なところソーマも割とそう思っていた。


 だが。


「いや、もう大体の部分ですり合わせは終わったからね。ここからは基本的にはキミ達にとって未知の情報になると思うよ?」

「ほぅ……?」


 元から真面目に話を聞く気ではあったが、その言葉にさらにやる気が高まる。

 知らないことを知るということは何であれ楽しいものであり、しかもその情報はサティアを始めとした限られた者達しか知らないというのだ。

 何かに使えるかもしれないということも含め、ソーマの好奇心を刺激するには十分過ぎるものであった。


 そして。


「えーと、そうだなぁ……よし、アレにしようか。最初に知る未知の情報って意味でも、きっと一番相応しいだろうしね。うん、というわけで――キミ達は大断絶、あるいは空白期というものについて知っているかい?」


 そんな言葉と共に、ある意味でのサティアの初めての授業が開始されるのであった。

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