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元最強、少女達の救出に向かう その1

 森の中を、二つの人影が駆けていた。


 もっともその速度は、常人の目にはほとんど映らないほどのものだ。

 或いは見たところで、風が過ぎ去ったのだと感じるだけかもしれない。

 だがそんな速度で駆けながら、ソーマ達は何の問題もなく言葉を交わしていた。


「で、全力で走るのはいいんだが、こっちに向かってるのは根拠あってのことなんだろうな?」

「勿論なのである。まあ正直我輩も本当に役に立つ事があるとは思っていなかったわけではあるが……何事もやっておくべきであるな」

「あん?」


 ソーマが目指す方向の目印としているのは、地面に刻まれ、上空へと伸びている証であった。


 ただこれは少々特殊なものであり、ソーマにしか見えていない。

 その理由は単純で、それは魔法によって作られたものであり、それを見る条件をソーマだけしか満たしていないからだ。


 その基点となったものに関しては、すぐに気付いた。

 ソーマがいつもよりも遅れていつもの場所に向かうと、そこにアイナの姿はなく、代わりとばかりにそれはそこにあったのだ。

 地面に刻まれた、基点となる証と、そこから僅かに感じるアイナの魔力。


 そしてその正体こそは、ソーマが思いつきで口にした戯言――誘拐された時にそれを知らせる用の魔法なのであった。

 いや、色々と適当に言っていたらアイナが実際に完成させてしまい、攫われた時の合図だけではなく、こうして追跡まで可能になったのである。


「……何やってんだお前らは?」

「こうして実際に役に立っているのだからよしなのである」


 しかしどんな状況だったのかは分からないが、ちゃんと使えているのだからアイナも大したものだ。

 これがなければ、如何なソーマといえども捜索するのはかなり難しかったに違いない。


「ところで、それが魔法で今も発動してるってことは、そのアイナって娘は生きてるだけじゃなくて意識があるってことか……」

「いや、生きてるのは間違いないであるが、意識があるのかは分からんのである」

「はあ……? 普通魔法ってのは、意識が途切れると発動中の魔法でも効果は切れるもんだぞ?」

「そう聞いたであるが、これはそれで切れられては困るであるしな。攫われるということは、意識を失う可能性も高いであるし、すぐに辿り着く事が出来ない場合、寝て切れてしまったらやはり駄目なのである。だから意識的に解除しなければずっと継続するようにしたのだ」

「その娘がか?」

「ふむ……主なアイデア出しは我輩であったが、それを形にしたのはアイナであるしな。アイナでいい気がするのである」

「そんな聞いたこともないのを形にするのもあれだが、何でお前はそんなアイデア出せてんだよ……」

「何でと言われても、思いついたからとしか言えんであるが……」

「ったく、本当に相変わらずだよ、お前は……」


 そう言ってカミラから溜息を吐き出されるが、ソーマとしては自覚がないので首を傾げるだけだ。

 たとえそれが世界に名を残しかねない、革新的なものであったとしても、である。


 まあそもそもソーマの目標は魔法を使えるようになることなので、それが分かっていたところで反応は変わらないだろうが。

 ともあれ。


「で、それがあるから追跡出来てるし、攫われたことに気付いたってのも分かったが、それでリナが攫われたのも気付いたのか?」

「いや、それを知ったのは偶然なのである。というか、我輩それを知ったのは屋敷に戻ってきてからであるしな」


 そもそもアイナが攫われたのが分かり、その追跡が可能だということが分かりながらもソーマが即座に追いかけなかったのは、即座に追いつく事が不可能だということも同時に分かったからだ。


 アイナが使用したこの魔法は、色々とソーマが提案したため、かなり幅広い状況に対応出来るようになっている。

 例えば、空間転移された場合の対処などもその一つだ。

 その場合は、基点と現在地とを結ぶ空間に、ある一定の間隔で目印を打つようになっていた。


 まあ基本的には魔法を使用した場所と時間を基準とし、そこから一定の時間経過した場合、現在地に目印を打つようになっている。

 それは光の柱のような形状であり、非物質でもあるため、建物の中に居たとしてもそれを遮ることは出来ない。

 さらには十メートル以上の高さにも設定したため、何処に居たところで見失うということはない、という仕様なのである。


 そして経過時間をトリガーとしているため、目印の並ぶ間隔は普通バラバラだ。

 特に森の中であれば一直線に移動することは難しいので、必然的にそうなる。


 だが目に見える範囲の目印は、全て一直線に、一定間隔で並んでいた。

 これは一直線に一定の速度で移動していった……というわけでは、ない。

 何せその中の一つが、木の中に埋もれているのだ。


 間違いなくアイナ達を攫った誰かは、空間転移で移動したのだろう。


「空間転移、か……魔法でならば上級以上、何らかの魔導具でも使ったんだとしても、そんなものを持ってる以上やはり只者じゃなさそうだな」

「ま、ともあれそういったわけですぐには追いつけないと判断したため、一旦戻ってきたのである」


 わざわざ空間転移を行うぐらいだ。

 まさか近場に移動するとも思えず、捜索には時間がかかる可能性が高いと判断したためでもある。


「長時間留守にすることの報告のため……ってわけじゃなさそうだな」

「まあそれも考えなくはなかったであるが、主には金銭的な理由であるな」


 ソーマはそういったものを一切持っていない。

 その必要がなかったのだから当然だが、捜索に数日もかかるようなことがあればそれでは問題だろう。

 別に寝るのは最悪野宿でも構わないが、さすがに飯を食わないというのは無理である。


 というわけでカミラに金を貸して貰おうと思ってソーマは一旦屋敷に戻ったわけだが、そこでリナの姿も見えない、という話を耳にしたのだ。

 そこで状況を察せないほど、ソーマは鈍くなかった。


「ふむ……その二つを偶然で片付けるのは、さすがに無理があるか」

「ほぼ同時に別々の場所で偶然二つの誘拐事件が発生した可能性と、二人が一緒に誘拐された可能性。そのどっちの可能性が高いかと問われたら、少なくとも我輩は後者と答えるのである」

「私もだな。まあ、とりあえず色々と納得がいった。ならばこのままおまえに付いていけばいいってことか。……にしても、少し意外と言えば意外だな」

「うん? 何がである?」

「いや、結構冷静そうだからな。焦るとまでは言わないが、もう少し怒りとかを見せるもんかと思ってたんだが……」

「ふむ……冷静そう、であるか。そう見えているのであれば、問題なさそうであるかな」


 そう言いながら、ソーマは肩をすくめた。

 そろそろ感覚が麻痺しつつある拳を、握り締めながら、だ。


「……おまえ」

「ま、我輩もまだまだ修行不足といったところであるな」


 自分が居さえすれば。

 今日に限ってくだらない用件で、時間をずらしさえしなければ。

 そんなことを考えてしまう自分に、僅かに自嘲の笑みを浮かべる。


 たとえそれが事実だとしても、起こりえなかった仮定に意味などはない。

 それが分かっていながら、気を抜けばそこら辺の木々に八つ当たりをしてしまいそうになるあたり、どう考えても修行不足でしかなかった。


「私としてはそっちのが好ましいと思うし、安心もしたがね――っと」


 そうして状況の確認が終わったところで、まるで狙い澄ましていたかの如くソーマ達の周囲から木々の姿が消えた。

 森の反対側に抜けたのである。


 つまりそこは既に、魔族達の住む場所だということであった。


「ふむ……まあ当然ではあるが、特に変わったところはないようであるな」


 そこに広がっていたのは、ただの平野であった。

 むしろのどかと言ってしまってもいいぐらいに、伝え聞いていた魔族の住む場所というもののイメージとはかけ離れている。


 まあ今更ではあるのだが――


「とりあえず問答無用で襲われる、とかいうことはないのであるよな?」

「こっちとあっちに見た目の違いなんかないからな。余計なことを喋ったりしなけりゃ大丈夫なはずだ。もっとも問答無用で襲ってくる賊みたいなのがいれば分からんし、魔物も居るだろうから、安全ってわけでもないだろうけどな」

「ふむ……」


 その時はその時で、襲い掛かられたら撃退するだけなので、特に問題はない。

 問題があるとすれば、それは情報収集が可能かどうか、ということなのだ。


 このまま一直線に救出に向かってもいいが、せめて到着の目安ぐらいは欲しい。

 それによって食料をどうするかなども決まってくるからだ。


「となると、まずは近くで情報収集をしたいところであるが、それでいいであるか?」

「ああ、それで問題ないと思うが……」

「……?」


 そこでソーマが首を傾げたのは、そう言いながらカミラが苦笑を浮かべたからだ。


「いや、先導するとは言われたし、実際ここまでそうなってるが、まさかそんなことまで提案されるとは思ってなかったからな。そういったところは私がフォローする必要があるかと思ってたんだが……どうやら必要なさそうだ」

「いや、我輩もこういうことはあまり詳しくないであるから、そのうちお世話になると思うであるが……」

「そのうちって時点で大分あれだけどな。ったく、相変わらず頼もしいというか、末恐ろしいやつだよ」

「ふむ……そんなものであるか?」


 さすがに自分が子供らしいなどとは思っていないソーマだが、それでもそこまでとは思っていないのだ。

 アイナやリナなどもかなり早熟であるし、それも一因ではあるだろうが。


 ともあれ。


「ま、とりあえず街やら何やらを探すか。場所が場所だし、さすがに誰も住んでないってことはないだろ」


 領土の境界線である以上、そこを監視する人員が必要だし、いざという時のことを考えれば相応の戦力も必要だろう。

 そうなれば、村などというよりも町などと呼ぶべき場所があると考えるのが自然である。


 そしてそんな場所であれば、周囲の情報を得るのもそう難しいことはないはずだ。


「うむ……では、行くとするであるか」


 のんびりしている暇はないが、焦ったところで、それはそれで逆効果となることが多い。

 それを分かっている二人は、焦らず慎重に、だが迅速に、目的の場所を探し始めるのであった。

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