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学院と魔法 その2

 その瞬間そこに並んだ顔は、引き攣った顔、と表現するのが最も正しいだろう。

 ただし一部を除けば、の話ではあるが、そこに関してもさすがに平静ではいられなかったようだ。


 驚きの顔があることに満足し、もう一度カリーネが笑みを浮かべると、苦笑が返ってきた。

 助言をしてもらった分ぐらいはこれで返せただろうか、などと思いながら一つ頷き、続きを口にする。


「魔法と呪術と法術、これらはまったく別のもののようでいて、実のところそれほどではないのよねー。だって引き起こされる現象だけを比べれば、大差ないんだもの。魔術に関しては、そういう意味では差があるから、別扱いされるのも当然なんだけどー……そうやって考えていくと、広義的な意味では、これらのものは同種のものだと考えてもおかしくないのよねー」


 瞬間、教室内で本日最大のざわめきが起こった。


 それはそうだろう。

 今のカリーネの発言は、異端審問にかけられれば有罪とされてもおかしくはないものだ。


 勿論その部分だけを切り離して考えれば、という話ではあるし、幾らでも言い繕うことは出来るものの、その程度には危険な発言だったということである。

 だがそれを承知のはずなのに、何も気にしている様子がない、というのも彼らが盛大に驚いた理由の一つではあるのだろうが。


 ちなみに最前列にあったのは、どちらかと言えば呆れの方が近かっただろうか。

 しかしそれもやはり気にすることなく、どころかさらに口元の笑みを深めながら、続けていく。


「とは言っても、今の主流はそれを認めないという流れになっているし、今後も認めるというようなことが起こることはないでしょうねー。だって各方面に喧嘩を売ることになるものー。個人的に言ってしまえば、研究をしようっていうのならばそのぐらいの気概があって欲しいとは思っているのだけどねー」


 当然のこと、それは不可能だと分かっての発言だ。

 さすがに聖都と正面から殴り合うのは馬鹿げている。

 法術と魔法を一纏めにしてしまうというのは、そういうことだ。


 もっとも、最近聖都の方では法術だけではなく、魔法も取り込もうとしている節がある。

 あっちがやる気ならこっちでも、と迎え合えばいいとカリーネは思うのだが、そういうわけにもいかないのだろう。


 何せ向こうは間違いなく第五の王が出張ってくるが、こちらは第七の王の力を借りれるかは分からないのだ。

 いや、というか、普通に考えれば借りられないだろう。


 第五の王が聖都のことを最優先に考えているのに対し、第七の王が最優先としているのはラディウスという国だからだ。

 いくら同じ魔導士とは言っても、魔法の研究をした結果聖都に喧嘩を売った、とかいう理由で助けてくれるはずもないのである。


 むしろ第五の王と事を構えるということを考えれば余裕で見捨てられるだろうし、逆に見捨てない理由がない。

 それはほぼ聖都とラディウスとで事を構えるということと同義だからだ。


 さらには、それは聖神教と敵対するという意味でもあり、かなりまずいことになるだろう。

 信者は聖都以外にも世界各地にいるし、それを口実にして他国が横槍を入れてこないとも限らない。


 とはいえ、ラディウスと敵対するということは、第七の王だけではなく第一の王とも敵対するということなので、聖都側としてもなるべく避けたい事態のはずである。

 七天を二人相手にして戦争をしたいなどと考えるのは、ベリタスぐらいだろう。

 しかも、最近ではそろそろ内乱が発生しそうだという話もあるので、元という但し書きが付く。


 何にせよ、そういうことなので、双方の利害の一致により、自分達の首が差し出される未来しか見えない。

 研究を進めるためには気概も必要だが、何よりも生きていなければ研究することは出来ないのだから、まずは自分の命を大事にする必要がある、ということだ。


 と、脇道に逸れていった思考を軌道修正しながら、カリーネはさて何の話をしていたのだったかと記憶を探る。

 すぐに広義的な意味でとその主流での扱いということを思い出し――


「まあでも、研究という名が付く以上は、喧嘩を売るわけにはいかないから主張を捻じ曲げる、というわけには当然いかないわけよねー。だから勿論それらの間には明確な差があるとされているし、一応それには一理はあるわー」


 呪術に関しては、改めて言うまでもないだろう。

 魔女の使うものであるのだから、魔法とは違うものであって当然だ。


「以上……で終わっちゃうとさすがに工夫も何もないわねー。もっともそれで認められちゃうのが現状なんだけどー……それでは授業にならないのでもう少し詳しく話すとするわねー」


 まだ強くなるのか、とばかりにざわめきが大きくなるも、カリーネが口を閉じることはない。

 こうなるのは予測済みだし……ある程度は覚悟も出来ている。


 自分の授業というものはこういうものだということを示すためにも、カリーネは先を続けた。


「個人の心情はさておき、研究者として考える場合、先ほども言ったように両者に明確な違いがなければ別のものとすることは有り得ないわー。つまり、魔法と呪術にはそれが存在する……少なくとも、そうだと主流派の中では考えられている、ということねー」


 そう考えないのは既に主流云々というよりは異端とか言うべきだろうけど、などと考えながらもさらに言葉を重ねる。

 或いはこれを聞かせることそのものが新しい異端を作り出す切欠となってしまうのかもしれないが、その時はその時だろう。


 授業も研究も、少なくともカリーネの中ではそういうものである。

 だから臆すことは有り得ない。


「まず呪術は、使用するのに対価を必要とする、とされているわー。でもぶっちゃけてしまうと、これはある意味魔法もそうなのよねー」


 さすがにぶっちゃけすぎであろう、という呟きが聞こえたものの、声援代わりだと思うことにして続けていく。


 魔法を使う際の対価とは、つまり魔力である。

 それを対価として扱うのであれば、確かに構造的には呪術と魔法は近似となるのだ。


 とはいえ、呪術の場合はもっと直接的ではあるが。


「呪術の場合は、魔物から取れる素材や、名のある草花――それ単体で効果のあるものや、薬の材料となるものねー、そういったものを使用するわー」


 ただ、それだけならば、単純に魔力の代わりにそれらを用いたと捉えることも可能だ。

 魔物や名のある草花などは魔力を帯びていることも多い。

 それこそ広義的な意味にはなるが、同種のものと見なすことも可能だろう。


「だからそう見られていないってことは、そうだとするには明らかにおかしいから、ということになるわねー。……ええ、正直に言ってしまえば、それに関してだけは私も同意するわー。呪術は、対価とそれによって生じる現象が、明らかに吊り合ってないのよねー」


 例えるならば、角ウサギから取れる角一つを使えば、都市破壊級の魔法を使うことが出来る、と言えばそのおかしさが分かるだろうか。

 勿論これはただの例えでしかないが、実際そのぐらいおかしいのは確かなのである。


「ちなみに、対価とするには何でもいいわけではなく、ある程度の法則が存在しているらしいんだけど、詳しいことは不明なのよねー。はいそこ、明らかにがっかりした顔しない。これは仕方ないのよ、だって呪術のことなんて調べられるわけがないのだからねー」


 呪術を調べるということは、つまりは魔女を調べるということだ。

 いや、研究ということを考えれば、魔女に協力してもらう、ということになるだろうか。


 何にせよその光景を誰かに見られてしまえば、即刻異端審問にかけられても文句は言えないだろう。

 ついでに言えば問答無用で有罪の上死刑となるに違いない。


 尚、だというのに、何故ある程度のことならば分かっているのかと言えば――


「まあ、魔女を捕らえるためにはまずは魔女のことを知る必要があって、それはつまり呪術を知るということだものねー。他人から白い目で見られようとも、誰かがやらなければならないことで、その研究成果が何らかの偶然で流れてくることがあっても、よくあることよねー」


 要するに、そういうことだ。

 詳しいことは誰も知らないし、知らないということになっている。


 そこを無駄に詳しく掘り下げようとしたら、それもまた異端審問にかけられるだけのことだ。


「ちなみに、自身の寿命とかいう目に見えないものを使ったりも出来るとか、まるで生贄として捧げるように、何らかの命を用いればより効果の高い呪術が使えるとかいう話もあるけどー……この辺は確認が取れたわけじゃないから、流言飛語の類でしょうねー。まあよくあることだけど、気をつけるようにねー。そういったものに踊らされるようでは、いい魔導士にはなれないわよー」


 そんなことを言っていたら、最前列の一部が動揺したように顔を強張らせたのが視界の端に映ったが……考えてみれば、生贄という言葉は相応しくなかったかもしれない。

 もう少し配慮すべきだったかと反省する。

 ならばそもそも魔女の話をするなという声が聞こえたような気もするが、それは聞こえなかったということにしておく。


 ともあれ。


「さて、というわけで次は法術になるわけだけどー……そういう観点から見ていくと、こっちはある意味でもっと不可解になるのよねー。それに関しても、同意しておくわー」


 というのも、法術には対価となるものが何もないように見えるからだ。


 少なくとも術者の魔力が使われていないのは間違いなく、また呪術のように何らかの対価を用いるわけでもない。

 ただ神へと祈ることで、何らかの現象を引き起こすのだ。


 見方によっては、神への祈りというものを対価としているとも言えるのかもしれないが……さすがにそれは対価にならないだろう。


「なんて言えば、それこそ聖都を敵に回すことになってしまうでしょうけどねー。彼らにとっては、まさにそれを対価とすることで神の奇跡を得ている、ということにしているのだからー」


 だが研究者からの視点で見れば、それはやはり有り得ないのだ。

 この世界の基本法則である、等価交換の原則に従っていない。

 むしろ本当に神へと祈っただけで奇跡が起こるのならば、魔女よりも余程性質が悪いだろう。


「だからこそ、研究者の間では、実は通説とされているのはこちらなのよねー。まあ当然ではあるわけだけどー」


 魔女は釣り合わないとはいえ、明確に何かを差し出してもいるのだ。

 対して法術は何かを差し出すことすらないのに、そこに奇跡を起こす。


 それでは道理が合わない。

 だからこそ研究者は、実際にはそこで目に見えない、今の自分達には分からない何かが使われていると考えているのである。


「とはいえ、そんなことを声高に叫べば、聖都に喧嘩を売ることになるわけだから、実質的には法術を研究することは禁止されているわけだけどねー」


 そしてそういうわけで、魔法と呪術と法術は、非常に似通っているにも関わらず、別種のものとされているのであり――


「それは酷く不毛というか、勿体ないと思うんだけどー……まあ、そもそも研究者ではなくただの講師でしかない私が言ったところで、説得力がないかしらねー」


 カリーネはそう言って苦笑を浮かべることで、言葉の結びとすることにしたのであった。

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