元最強、再会した少女に確認をする
「では改めて……割と久しぶりであるな、アイナ」
「何でわざわざ割とってつけたのよ……普通に久しぶりでいいでしょうが。……まあでも、久しぶりね、ソーマ。正直、こんなとこにいるなんて思ってもいなかったけど」
「それはこっちの台詞でもあるがな」
ジト目を向けてくるアイナに、ソーマは肩をすくめた。
まあ言いたい事は分かるものの、こっちにだって言い分はある。
何も好きでここにいるわけではないのだ。
もっとも、その部分は既に簡単にではあるが伝えてあるので、わざとではあるのだろうが。
村長と思われる家の前で偶然アイナと再会してから、多少の時間が経過していた。
窓の外では空に漆黒が広がりつつあり、夜の訪れがすぐそこにまで迫っていることを示している。
そして窓の外、という言葉からも分かる通り、現在ソーマ達が居るのはとある家の中だ。
ただしそれは村長の家などでなければ、宿などでもない。
何とここはアイナの家なのであった。
厳密にはアイナ家のものと言うべきか、別荘に近いもののようだ。
大きさ的には周囲の家と大差はないが、四人で泊まるには十分過ぎる。
さすがに食糧の備蓄などはないようだが、それも貰ってきたので問題はないだろう。
そんなことを考えながら家の中を見回していたら、アイナが何かを諦めたように溜息を吐き出した。
「……ま、いいわ。詳しいことは後で聞かせてもらうとして……こっちもこっちで予想外ね」
そう言ってアイナが視線を向けたのは、シーラだ。
まあそれも無理ない感想ではあるし、同感でもある。
他人事であったならば、きっとソーマも同じことを思ったことだろう。
ちなみに他に人の姿がないため、シーラは今フードを外している。
頷きの形に頭が動いた拍子に、金色の髪がさらりと流れた。
「……ん、正直私も予想外だった」
「まあ多分色々なことがあったんだろうことはよく分かるわ。ソーマが居たんならそうならないわけがないし。とりあえず、改めて久しぶりね」
「……ん、久しぶり」
先ほども簡単には再会の挨拶を交わしたのだが、場所が場所故にすぐ移動することになったのだ。
ソーマが同じことをしていたのも、それが理由であり――
「ところで今心外なことを言われた気がするのであるが? 我輩が居たから色々なことがあっただろうとはどういうことである?」
「どういうことも何もそのままの意味でしょ? それとも何、変なことは何もなかったとでも言うつもりなの?」
「……色々あった」
「いや、それは確かに事実ではあるが……別に我輩が居たからというわけではないであろう?」
「……そうでしょうか? ソーマさんが居なければわたしもシーラも今ここにはいなかったでしょうし、ここの前に訪れた街でのいざこざに巻き込まれることもなかった、ということを考えれば、やはりソーマさんが関係しているとも言えるのでは?」
と、フェリシアが会話に入った瞬間、若干アイナの様子が挙動不審になった。
軽い自己紹介は済ませたはずだが、どうやら未だに人見知り気味なのは治っていないらしい。
もっとも、一月二月程度で治るかという話でもあるが。
あとは……フェリシアの外見も、関係あるのかもしれない。
何せシーラとは違い、フェリシアはまだフードを被ったままなのだ。
必要以上に気にしてしまうのは、ある種当然でもあるだろう。
「まあそう言われればそう言えなくもないであるが……それは少々こじつけが酷くないであるか?」
「そうですか? ……シーラはどう思います?」
「……ん、ソーマだし仕方ない?」
「解せぬ……」
「日頃の行いのせいってことでしょ。それにしても、やっぱりあんたはいつも通りだったみたいね。そっちも大変だったみたいで……えっと、フェリシアさん、でよかったかしら?」
「フェリシア、で構いませんよ? この口調は癖みたいなものですし、あまりさん付けされるのは慣れていませんから。……その、こういう存在ですし」
一瞬、躊躇うような間があいたものの、思い切ってフェリシアはフードを外した。
その下から現れた白い髪と赤い瞳に、アイナは僅かに息を呑む。
さすがに、その意味するところに気がつかないわけがない。
だがアイナは小さく息を吐き出すと、すぐに躊躇いの空気を霧散させる。
あるいはそれは、納得であったようにも見えた。
「……そ。じゃあ、フェリシアと呼ばせてもらうわね。あたしのことは好きに呼んでもらって構わないわ」
「分かりました。では、アイナさんと。……それと、ついでと言うわけではないのですが、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「いいけど、何? ……まあ、大体分かるけど」
「はい。……その、アイナさんは、気にしないのでしょうか? わたしが、その……」
「魔女でも、ってこと? 気にならない、って言えば当然嘘になるでしょうね。実際今でも気にしてはいるし。でも、気にする必要はないと思っているわ」
「それは、何故ですか?」
その言葉に、何故だかアイナの視線がこちらに向けられた。
呆れたような溜息と共に。
「そこの馬鹿が一緒にいるんですもの。どうせそこの馬鹿が何かやらかして、一緒に旅することになったんでしょ。なら、気にする必要はないわ。……だって、自分で経験済みだもの」
「……なるほど。納得しました」
そう言って、二人が何かを分かり合ったような視線を互いに向けているのは若干気になったものの……そんな二人の姿に、ソーマは密かに小さく息を吐き出す。
それは安堵のものであり、二人が問題なくやっていけそうなことにだ。
大丈夫だろうとは思っていたし、だからこそ事前にフェリシアにもそう伝えてはいたのだが、それでも万が一ということは有り得たのである。
しかしそんな懸念は杞憂であったようだ。
そのことに、ソーマはこのままラディウスに戻っても大丈夫だろうという自信を深め、その口元を緩めた。
と。
「それにしても、ソーマさんから話は聞いていましたが、本当に話に聞いていた通りで安心しました」
「え? ソ、ソーマがあたしのことを……?」
「はい。ここまで旅をしている最中、時間だけは沢山ありましたから」
「……ん、私はあまりお喋りが得意じゃないし、ソーマが主に色々話してた」
それは事実ではあるが、話半分というところでもある気がする。
確かにソーマは暇を潰すために色々と話をしたものの、それはフェリシアもであるし、何だかんだでシーラもそれなりに話をしていた。
最終的にはソーマとフェリシアが四割ずつで残りがシーラ、というところではないだろうか。
とはいえ敢えて否定するようなことでもないので、黙って聞いておいた。
「そ、その……具体的に、ソーマはあたしのことをどんな風に言ってたのか聞いてもいい? ほ、ほら、やっぱり自分がどう言われてたのかってのは、気になるし?」
「そうですね……」
そこで一瞬フェリシアが視線を向けてきたのは、言ってもいいのかという確認のためだろう。
故にソーマは肩をすくめておいた。
別に陰口のようなものを叩いていたわけではないし、伝えられたところで困るようなものではないからだ。
……多分。
「色々ありましたから、一言に纏めるのは難しいのですが……それでも敢えて一言で言うのでしたら、面白い人、でしょうか?」
「……ちょっとソーマ、あんた一体どんな話をしたのよ……!?」
「いや、落ち着くのである、アイナ。我輩別にそんな話をした覚えは……割とあるかもしれんであるな」
「……ん、とりあえず、からかうと結構面白いって話はしてた。……主に私が」
「シーラ……!?」
「なるほど……確かにこれは、話に聞いていた通りですね」
「ちょっ、フェリシアまで……!?」
「まあ、半分冗談の話は置いておきまして……」
「それって半分本当だったってことな気がするんだけど……?」
そう言ってアイナがジト目で睨んでくるも、フェリシアは何処吹く風といった感じだ。
意外とと言うべきか、そんなことも出来るらしい。
「真面目に答えますと、優しく、しかしそれだけでなく、自分の芯がある人、といったところでしょうか。もっとも、話を聞いた限りの、わたしの感想でしかないのですが」
「そ、そう……ありがとう、と言っておくべきなのかしら?」
「何かそれも違うような気もするのですが……どういたしまして、と答えておきます」
そう言って何処かぎこちなく、それでも笑みを交し合う二人は、それなりに距離を縮める事が出来ているようだ。
さすがに一気にとは難しいようだが、その様子にソーマは満足を覚えた。
「それにしても……」
と、そうしていると、アイナがフェリシアの姿を眺めながら、ふと首を傾げた。
その視線に込められたものは、不思議そうなものを見るような目であり――
「あの……やっぱりこの髪の毛とか気になりますか? それでしたら、フードを被っていますが……」
「ああ、ごめん、そういうことじゃなくてね……シーラとフェリシアって姉妹なのよね? それも、結構歳の離れた。姉妹っていうのは言われてみれば納得も出来るんだけど、歳が離れてるようには見えないな、と思って」
「なるほど、そういうことですか……ですがそれは、ちょっとわたし達からすると分かりにくい感覚かもしれませんね」
「……ん、兄さんと比べると、もっと離れてるし」
「ふむ……正直我輩もあまり気にしたことはないであるな」
「いや、あんたは気にしなさいよ。あんたはこっち側でしょうが」
そうは言われても、その事実は分かっていながらも、あまり気にすることだと認識してはいなかったのだ。
あるいはそれは、もっと遥かに生きていた存在などを知っていたからかもしれないが。
が、そこで次の言葉に繋げたのは、それをいい機会だと思ったからだ。
アイナに再会してから、ずっと聞こうと思っていたことなのだが――
「そういえば、姉妹と言えば……アイナには、姉妹とかいるのであったか?」
その意図するところは、明白だ。
シーラやフェリシアも気付いたようで、一瞬息を呑むも、アイナはそれに気付かなかったようである。
こちらに視線を向けながら、眉をひそめ首を傾げていた。
「はい? いないわよ? だって一人っ子だもの……というか、前に言ったことあるわよね?」
「うむ、聞いた覚えはあるのであるが、念のためである。偶然にもここにいる中で一人っ子はアイナだけであるし、忘れてたとかあるかもしれんであるし?」
「いや、忘れるわけないでしょうが。あんたは何言ってんのよ……」
さすがに苦しい言い訳ではあったが、だがやはりこれで、確定だ。
魔王の娘を自称したスティナは、アイナの姉ではない、ということである。
しかしそうなると、何故そんなことを言ったのか、ということになるが――
「あ、でもそういえば」
「む? やはり生き別れの姉とかがいるのであるか?」
「だからいないって言ってんでしょ。いないけど……家族同然に育った、姉みたいな人はいたわね」
「ほぅ……?」
「とはいえ、もう大分会ってもいないけど。数年前に独り立ちするって言って出て行ったっきり会ってないのよね……今頃どうしているのかしら」
少し遠い目をしたアイナは、おそらくその人物のことを思い出しているのだろうが……ソーマ達はそれどころではなかった。
そういうことかと、納得がいったからだ。
もっとも、それならばやはりそうだと言えばいい話な気もするが……説明が面倒だからそれで通した、ということだろうか?
それにしては若干腑に落ちない点があるものの……それに関しては、考えても分かることではないだろう。
確認しようにも、本人がこの場にいないのだから。
しかし疑惑が晴れたような、それでいて深まったような、何とも言えない気分である。
先ほど別れたばかりの少女のことを思いながら、ソーマは瞳を細めつつ、小さく息を吐き出すのであった。




