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決意と覚悟

「やれやれ……ギリギリセーフ、というところであるな」


 そう言って溜息を吐き出しながら、ソーマは周囲を見渡した。


 所々が破壊され、物が散乱している部屋に、真新しくこびり付いた血液。

 そして通路には宿の主人とスティナが倒れており、二人とも割と重症だ。

 入り口近くに宿の娘が転がされていたものの、そちらは特に怪我らしい怪我もなかったので、こっちに来るのを優先したのだが……どうやらこの分では正解だったようである。


 大体の事情を察したソーマは、そんなことを思いながら再度溜息を吐き出した。


「なん、で、ここに、いやがる、です……?」


 と、声に視線を向けてみれば、よろよろとスティナが身体を起こそうとしているところであった。

 明らかに無理をしていい傷ではないだろうに、無駄に無茶なことをするものだ。

 先ほどとは違う意味での溜息を吐き出しながら、とりあえず近付くと、先に治療を施してしまうことにした。


「ふむ……何故、と言われてもであるな……まあ、何となく嫌な予感がしたから、というところであるか?」

「……オメエが、言う、と、本当、っぽく、聞こえる、から、厄介、です」

「ま、真面目に答えるならば、ギルドで偶然会ったシーラ達に話を聞いたから、であるがな」


 それで気になったから、残りはシーラ達に任せ、ソーマはここにやってきた、というわけである。

 まあ、そこで嫌な予感がしたのでここに急行したのだから、先の言葉も厳密には冗談や嘘というわけでもないのだが。


 そうして言葉を交わしながら剣を振り被ると、スティナは軽く目を見開いた。

 だがその直後、こちらが何かを言うよりも先に、納得したように頷く。


「……ま、そう、ですね。ここで、ついでに、やっちまう、のが、後腐れ、なくて、いいです。別に、んなこと、しなくて、も、放っと、けば、勝手に、死ぬと、思う、ですが」

「勝手に明後日の方向に納得されても困るのであるが、まあもう面倒だから説明するよりも先に実行した方が早そうであるな」


 ――剣の理・龍神の加護・一意専心・明鏡止水・虚空の瞳:秘剣 慈愛の太刀・真。


 剣を振り下ろした後、不思議そうな顔で自分の身体を見下ろすスティナは置いておき、宿の主人の傍にまで向かうと、同じように剣を振るう。

 一先ずこれで大丈夫だろう。


 それから剣を仕舞いながらスティナの元に戻ると、スティナは何が起こったのかは理解したようだが、不可解とでも言いたげな表情を浮かべていた。


「……オメエ確か魔法は使えないとか言ってなかったですか?」

「うん? その通りであるし、魔法などは使っていないであるが、何を言っているのである? 今使ったのもただの剣技であるしな」

「スティナとしては、オメエが何を言ってるんです? って感じなんですが……まあ、いいです。オメエが無茶苦茶なのは今更ですしね」

「ふーむ?」


 顔は不可解そうなまま、それでも何かしら納得はしたようだ。

 溜息を吐き出しながら、スティナがゆっくりと立ち上がる。


 とはいえ今度はソーマの方がいまいち納得がいっていないのだが……まあ、今はそんなことを言及している場合でもない。

 一先ず話を進めることにした。


「とりあえず、今回の件の下手人は倒した……というか、殺された、ということでいいのであるか? おそらくは先ほどの魔物に」

「それで合ってるです。それっぽいこと言ってたですし。つーかこっちはまだ何も言ってないのによく分かるもんですね」

「ま、半分は状況からの推測と、あとの半分は経験則ってところであるかな」

「この程度のことからそこまでの結論に至れるなんて、どんな経験してきてやがんですか……」

「別に大したことはしてきていないであるがな」


 それに経験とは言いつつも、多少は聞いた話なども混ざっている。

 どちらにせよあまり自慢出来るようなことでもないだろう。


「ともあれ、ではあとはシーラ達次第、ということであるか。まあ向こうは心配ないであろうが」

「そうとは限らない、と言いたいとこですが、オメエが言うと多分そうなんだろうと思えてきちまうのが、本当になんていうかアレですね」

「それはただ我輩を買い被ってるだけだと思うであるがな」


 そう言って肩をすくめながら、さてと呟く。

 とりあえず今回のことの結論だけは分かったが、さすがにそれだけではアレだ。

 結局どういうことだったのかということを知るため、互いの情報を確認し合いたいところだが――


「ギルドからも求められるであろうし、向こうで確認した方が早そうであるか。シーラ達にも話すべきだということを考えれば、二度手間三度手間になるであるし」

「そうですね、ついでに本当に上手くいったかの確認も出来るですし。ただ……コイツらはどうすんです?」


 その言葉と共にスティナが視線を向けたのは、未だ意識の戻っていない宿の主人だ。

 あとは、コイツら、と言っているあたり、あの幼女のことも含めているのだろう。


 確かに、もう大丈夫だろうと思ってはいても、このまま放っておくのはちょっとアレだ。


「ふむ……ま、この人達も事情を知っている可能性がある、ということも考えれば、話を聞いておくべきではあるし、連れて行くであるか。おそらくはギルドも同じように考えるであろうしな」

「まあ、それが無難ですか」


 問題があるとすれば、このまま運んでしまうか、起こしてから一緒に移動してもらうか、というところであるが……まあ、まさか否とは言うまいし、起こしてしまった方がマシだろう。

 移動している最中に、ある程度話も聞けるかもしれないし。


 そう結論付けると、幼女の方へと向かうスティナを横目に、ソーマも主人を起こすためそちらへと向かうのであった。








 結論を言ってしまうのであれば、宿の主人はソーマにもギルドにも、何も話すことはなかった。

 訳も分からず唐突に襲われ、娘が攫われそうになった、などと一貫して語っていたが……まあ、それが嘘なのは誰の目にも明らかだ。

 それにしては、その姿があまりにも堂々としすぎていたからである。


 それでもそれに関して誰も言及する事がなかったのは、問い詰めたところで話すことはないと判断されたからだろう。

 もちろんスティナが話せばその限りではなかっただろうが、スティナにはそんなことをしてやる義理がない。

 だから……いや、おためごかしはやめておこう。


 スティナはそんな主人の姿に、感銘を受けたのだ。

 そこには、間違いなく覚悟があった。

 このことで自分がどんな目に遭おうとも、娘だけは絶対に守ってみせる、という。


 あるいは、ソーマ達もそれを感じ取ったからこそ、詳しいことを聞こうとはしなかったのかもしれない。


 何にせよ、それはスティナにあることを考えさせるには十分なものであった。

 それは今であり、過去であり、未来だ。

 自分がやっていること、やってきたこと、やろうとしていること。

 それと、やらなければならないこと。


 半ば無意識のうちに、スティナは懐へと手を伸ばしていた。

 そこにあるのは、とある魔物の素材だ。

 ここでソーマと出会う前、集めていたものであり――


「ふーむ……さて、どうしたものであるかな」

「ん? ああ、戻ってきやがったですか」


 と、聞こえた声に視線を向けてみれば、ちょうどソーマ達が戻ってくるところであった。

 さりげなく腕を下ろしながらその様子を眺め、ふと首を傾げる。

 先の言葉もそうだが、どうにも何かを悩んでいるように見えたからだ。


「で、どうしたんです? 何か面倒なことでも言われたとかですか?」

「……別にそういうわけじゃない」

「そうですね……少し腑に落ちないところはありましたが、どちらかと言えば良い話だったと思います」

「じゃあソーマは何を悩んでんです?」


 ちなみに現在スティナ達が居るのは冒険者ギルドだ。

 そしてソーマ達が行っていたのは、余程のことがなければ冒険者には立ち入ることが許されていない応接室である。

 そこで今回の件について話していたはずなので、何か面倒なことでも言われたのかと思ったのだが、違ったらしい。

 では一体どういうことなのだろうか?


「ま、それについては宿に向かう道すがら話すのである。ここで立ち話をしているのも何であるし、かといってここでじっくり話すようなことでもないであろうからな」

「まあ、それもそうですね」


 本来ならばほとんど人がいないだろう時間帯だが、今は状況が状況なためか、ギルドにはかなりの数の人が集まっている。

 冒険者がいれば、今回のことについて話を聞きたがっている旅人や、街の人もいるようだ。


 そんな状況でギルドの奥から出てきたのだから、注目を浴びないわけがないだろう。

 視線こそ向けられていないものの、周囲からは明らかに意識が向けられていた。


 別に秘密にしておくように言われたことではないのだろうが、わざわざこんな中で話すことではないのも確かである。

 先に戻った彼らがどうしているか若干気になっていることでもあるし、宿に向かうことに異論はない。

 シーラ達はそのことを先に聞かされていたのか、特に何かを言うこともなく、そのままスティナたちはギルドを後にした。


 一先ずの片がついてからある程度の時間が経ったはずだが、まだ街中の空気は何処となく緊張感が漂ったままだ。

 まあ、未だ街は封鎖されたままだし、ギルドからの正式な告知もない以上、当然なのかもしれないが。


「それで、どんなことを話したんです?」


 そんな中を歩きながら、スティナはソーマへと水を向けた。

 ソーマはまだ何かを考えている様子ではあったものの、それで何かの結論に至ったのだろう。

 一つ頷いてから、その口を開いた。


「ふむ……どんなことと言われても、まあ大体今回の件で分かったことの確認、というところであるな。もっとも、分かったこと自体がほとんどないわけであるが」

「まあ、情報を持っていそうな人達を捕まえてはきましたが、まだ目覚めてはいないようですしね」

「……ん、でもその辺のことは、ギルドの仕事」

「ですね。そもそもスティナ達が呼ばれたのは、他にも何か知ってる可能性があるから、ということだったんでしょうし。まあスティナは行ってねえわけですが」


 ソーマ達が応接室へと呼ばれたのはそういった理由によるものであり、スティナが行くことがなかったのは、その必要がないと思ったからだ。

 正直今回の件について、スティナは今更確認するようなことはないし、先ほども言ったようにギルドに何かを伝える義理もそのつもりもない。

 面倒だし、自分の知ることは既にソーマに話していると言って、行かなかったのである。


 尚、ソーマに話したのは当たり障りのないところだけだ。

 あの娘がどんな存在であるのかや、自分に繋がりそうなことは一切話していない。

 その理由は宿の主人達のためではなく、自分のためである。


 中途半端に話してもしもこちらの正体がばれてしまったら、自分も今回の件に関わっていたのではないかと疑われる可能性があるからだ。

 ないとは思うものの、万が一の場合を考えるのは必要なことである。

 特にそういったことに妙に鋭い人物がいる以上は、尚更だ。


 ただそのせいでスティナもあの娘が何であるのかを知ることは出来なくなったわけではあるが……まあ、知る必要があるかと言えば、別にないことだ。

 それに、何となく想像は付いている。


 かつてスティナは聞いたことがあるのだ。

 誰が言っていたのかは忘れたものの、以前の反乱の際、生体兵器を使う予定だったと。

 もっともそのほとんどは製作段階で失敗し、唯一の成功例も決行する直前に裏切り者に奪われたとかいう話ではあったが……つまり、そういうことなのだろう。

 スティナにとってはどうでもいいことである。


 ともあれ。


「で、じゃあ結局のところ、何が問題だったんです?」

「その話そのものには何の問題もなかったであるな。分かったのは、あの幼女が何故か狙われたということと、魔物の騒ぎを起こしていたのも同一人物だということ、あとはその者は既に死亡済み、というぐらいであるし。ああ、若干魔道具の扱いをどうするかは揉めたと言えば揉めたであるかな」

「何で揉めんです? あれはそのまま残されてたから、ギルドに渡すってことにしたじゃねえですか」

「……ギルド側が中々受け取ろうとしなかった」

「向こうも向こうで面倒を嫌った、ということでしょうね。まあ、明らかに厄介な代物ですし」

「かといってこちらで管理してろと言われても、責任など負えんであるしな。まあ何とか向こうに押し付けることに成功し、次の話へと移行したわけであるが……」

「次の話? ってどういうことです?」


 最初聞いた話では、今回の件についての確認をする、ということだけだったはずだ。

 それ以上の何かがあり、それが問題だった、ということだろうか?


「いや、次の話はそのまま次の話であるな。一先ず解決したようだが、じゃあこれからどうするか、という話である」

「具体的には、街の封鎖の解除はいつするか、といった話ですね。もう解決したとは思いますが、まだ万が一ということも有り得ますし」

「まあそれに関しては生きてるやつから聞き出さねえとどうしようもねえですしねえ……ただ、それってギルドが考えることですよね? 何でそんな話されてるんです?」

「……ついで? ……悪く言えば少しでも責任転嫁出来るように?」

「……ここのギルド大丈夫なんです?」

「ま、それは我輩達が気にすることはないであるし、今まで大丈夫だったということは、大丈夫だということなのであろう」


 とりあえずそれに関しても無難にかわすことは出来たようだ。

 封鎖の解除も明日行われる……というか、今日までということになったらしく――


「それで我輩達はどうすべきかを考えている、というところであるかな」

「……なるほど。そういうことですか」


 つまりソーマは、この件に最後まで関わるかどうかを悩んでいる、ということなのだろう。


 ほぼ終わっているとはいえ、生き残りの尋問があるし、他にも何かまだあるかもしれない。

 その懸念がなくなるまでここに残るか、それともこれで自分達の仕事は終わったとして明日早々にこの街を後にしてしまうか。

 どちらにすべきかと、そういうことだ。


「そっちの二人はどう思ってんです?」

「……ん、ソーマに任せる」

「まあ、どちらにも理はありますからね。どちらとも言えませんから、ソーマさんにお任せしようかと」

「んー……ならまあ、あくまでもアドバイスの一環として言ってやるですが、明日出ちまっていいと思うですよ?」

「ふむ……その心は?」

「スティナ達は結局のところここでは部外者ですしね。ここまでやったら十分過ぎるですし、あとはもう任せちまっていいと思うです。まあ、やることがないってんなら別ですが、やることがあるんですよね? なら尚更もういいと思うですし、そっちを優先すべきだと思うです」


 肩をすくめながらのそれは、一応本心だ。

 二重の意味で、だが。

 実際にそう思っているということと、そうして欲しいと思っている、という意味で。


 共に旅をすると約束した以上、ソーマ達の動向はスティナのそれと同義だ。

 だから自分のため、自分の目的を果たすために、そうして欲しかったのである。


「うーむ……ならそうするであるかなぁ。今回の件に協力した礼として、ギルドからは十分すぎる謝礼金貰ったので、もうここで金稼ぐ必要もなくなったであるし」

「そうですね、そうするといいです。……スティナも、そうするってもう決めたですし」


 最後の言葉だけは口の中だけで転がし、スティナは視線を前方に向けた。

 そこにあるのは、未だ騒がしい人々の群れだ。

 それに目を細めながら、小さく息を吐き出す。


 全てが上手くいくだなんて、そんな今更で都合のいい話などがあるはずもない。

 毒されたところで何かが変わるわけがなく、変わったようにも思えたそれらは、本当は何一つ変わってなどはいないのだ。

 過去は変えられず、今は自分の手を離れ、未来はとうの昔に定まっている。


 選べるのはたった一つだけ。

 ゆえにスティナは覚悟を決めたという、それだけのことである。


 そうしてこれからのことを考えながら、スティナは宿へと向かうため、路地裏へと通じる脇道へと、足を向けるのであった。

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