元最強、明日の予定を決める
夕食をとり終えたソーマ達は、そのまま一先ずソーマの部屋へと集まることとなった。
報告は終わったものの、明日の予定についての話がまだだったからだ。
別にそのまま食堂で話していても構わなかったと言えば構わなかったのだが、普通に考えれば迷惑だろう。
そのため今日もまたここに集まることになった、ということである。
とはいえ。
「今日は結果的には空振りに終わったわけであるからなぁ」
「まあ、何の情報も得られてねえ以上、そういうことになるですねえ」
「つまり明日も同じように、ということですか?」
「……ん、そうなる」
もちろんまた空振りに終わってしまう可能性はある……どころか、今度こそ本当に何も見つからない可能性はそれなりに高いだろう。
何せギルドが街を封鎖している以上、この街から出るにはギルドを訪れなければならないのだ。
まさか自分達が怪しいと思っていないほど間抜けではないだろうし、そんな中でノコノコ出歩いたりしないだろうことも同様。
既にその事実が周知されていまっていることを考えれば、尚更である。
それを考えると、今日が千載一遇のチャンスだったと言えるのかもしれないが……まあ、言っても仕方のないことだ。
それだけ相手が慎重だった、ということなのだろう。
こうなると相手は引き篭もってしまうかもしれないが、それにも限度はあるし、この街にはどうやらギルドも知らなかっただろう外への抜け道が存在しているようだ。
そこから外に出ようとする可能性は十分にある。
もしあの黒いローブ姿の男が今回の件に関わりがあり、向こうもそれを悟ったとしても、抜け道が一つとは限らない。
いや、一つしかないと考える方が不自然だろう。
何にせよ今の状況でも外に出れる可能性はあるということだ。
つまりは、仮に明日が無駄に終わってしまったとしても、それは本当の意味で無駄ではない。
相手が行動を起こすまで、こちらはジッと待てばいいだけなのだ。
おそらくは、ギルドも同じ考えのはずである。
抜け道のことも、きっと承知の上だ。
まだフェリシア達から聞いた話を伝えてはいないが、今日のことを考えるにその程度のことは推察できているだろう。
ならばギルドに任せておけばいいという話ではあるのだが、そうなるとこっちが手持ち無沙汰になってしまう。
ギルドがやる気になっているのだから後を任せてしまって……とは、さすがにいかないだろう。
それでいいのならば最初からそうしているという話だ。
それに、街中の捜索はともかくとして、外に関しては多分ギルドでは無理である。
外にも何かの手掛かりはなさそうだというのは今日で判明したが、それよりも重要なのは危険な魔物の駆除だ。
確かに街の住人は外へは出ないが、数は少なくともこの街に外からやってくる人もいるからである。
そういった人達が襲われてしまうのを防ぐためにも、外の見回りは必要なのだ。
「それがソーマの役目かっつったら、違う気がするですがね」
「ま、他にやれる人がいないのであれば、仕方ないであろう。それに、これの調子を確かめるにもある意味ちょうどいいであるしな」
そう言ってベッド脇に立てかけられている剣へと視線を向ければ、それにつられたように三人もまたそちらへと視線を向ける。
そしてそこでようやく、気付いたようだ。
「ああ、そういえば、修繕に出していたんでしたか。既に取りに行っていたんですね」
「……どんな感じ?」
「ギルドから戻って来る時についでに寄った感じであるから、本当に受け取っただけなのであるが……見てみたところ、期待通り……あるいは、それ以上かもしれんであるな」
「……なら、新しく作るっていう剣も、期待大?」
「うむ……正直、かなり期待出来ると思っているであるな」
本人もこれを修繕したことでよりやる気が増したなどと言っていた。
多分すぐに取りに来ることは出来ない、ということも伝えたのだが、ならその分ジックリと時間をかけられてちょうどいいなどと言っていたぐらいなのだ。
否が応にも期待感は高まろうというものである。
「時間をよりかけるということは、その分お金もかかりそうですね……いえ、下世話な話ですが、少し気になってしまいまして。もっとも、いいものが出来るのでしたら、ソーマさんはあまりそういったことを気にしなそうですが」
「それは事実なのであるが、その心配はない、とのことである。ただの自己満足だからと言っていたであるな」
「どんな人物なのかが簡単に想像できるような話ですねえ……つーか、実際のところ幾らぐらいになりそうなんです?」
「さて……値段は言われなかったであるからな。満足いく出来になるかも分からんし、値段は出来てから決める、などと言っていたであるし」
「それはそれで、困るような気がするのですが? 要するに、その人の気分次第、と言うことも出来るわけですよね?」
「ぼったくられる可能性もあるわけですしねえ」
「その心配はないと思うであるがな。まあ、十分な金額は用意するつもりであるし、足りなければ適当にギルドの依頼でも受けて稼ぐだけである」
とはいえ、言ったように特にその心配はしていない。
おそらくは、相場に材料費が足された程度しか請求されないだろう。
むしろ出来次第では、その金額にこちらが不満を覚える可能性すらある。
この程度しか払わないなど有り得ない、と。
「……ちなみに、余ったら?」
「対価というのは、与えられたものに対して、どれだけの価値を見い出したか、ということであるからな。我輩が満足するのであれば、まあ、手間賃などのことも考えて、多めに出すようなこともあるかもしれんである。おそらくは長期間保管してもらうことになるであろうしな」
「もうその時点でどうなるのかは分かりきっている気がしますが……?」
「さて、気のせいであろう?」
呆れたような目で見てくるスティナとフェリシアに、肩をすくめて返す。
ソーマはただ、正当な対価を支払うと言っているだけである。
何の問題もなかった。
「ま、それはともかくとして、そういうわけで、明日も今日と同じ、ということでいいであるか?」
「異論はありませんが……せめて一工夫程度は入れたいような気もしますね」
「ふむ……というと?」
「……明日は早めにやってみる、とか?」
「ああ……それはありかもしれねえですね。ギルドの方も、まだ確証には至ってねえでしょうし、今のうちに……ってのは十分考えられる気がするです」
「なるほど……一理あるであるな。あまり早いと門が開かないのであるが……まあ、それまで我輩も見回りをすればいいだけであるか」
「となりますと……本当に朝早く、それこそ明け方ぐらいに始めた方がいいでしょうか?」
「……ん、いいと思う」
「今から寝ればちょうどいいぐらいですか……どうせやることもねえですし、問題はねえです」
そういうことになった。
まあどちらかと言えば、フェリシアの言葉が皆の本音だろう。
折角なのだから、そのまま同じではなく、何か一工夫を。
本当に何かが起こると思っているわけではなく――
「……さて。どうしたもんであろうなぁ……」
「ソーマさん? 何か気になることでも?」
「うん? いや……ギルドも同じことを考えていた場合、我輩達が不審者扱いされそうであるな、と」
「あー……今日の感じだと、その可能性もありえそうではあるですねえ……」
「……その時は、その時?」
「ま、やましいところがあるわけでなし、問題はないとは思うであるがな」
見た目は実際相当に怪しいが。
そんなことを言いながら、肩をすくめ……窓の外へと視線を向ける。
本当に、どうなるやらと、ソーマはその向こう側を見据えるように、目を細めるのであった。
「結局戻ってこず、か」
薄闇の中に、ポツリと呟きが落とされた。
それから男は周囲に視線を向けるも、そこにいつもの顔はない。
代わりとばかりに居る人物の顔を眺めながら、目を細める。
「そうですね……外で何かあった、ということでしょうか?」
「それは間違いないだろうが、問題はどんな理由でなのか、というところだな」
元々の理由は、今回のことが上手くいっているのか、ということの確認のためであった。
最初こそ自らの目で確認しに行き、成功していることを確かめたものの、それ以後は魔導具が作動していることしか確認していなかったのだ。
しかしそれではいざという時問題が発生するかもしれないと、わざわざ確認に行ったのである。
そのまま魔物に襲われてしまった、というのならば問題はない。
腹心である人物の命が失われてしまったのは痛いは痛いが、その場合は自分達の計画が漏れる心配はないからだ。
最悪なのは、誰かに見咎められ怪しいと捕らえられてしまっている場合である。
その時は、今回の自分達の行動がばれてしまう可能性があるからだ。
「あの方は、自分の命惜しさに我々のことを喋るような方ではないと思いますが……」
「分かっている。だが、自分の意思とは無関係に自白させられてしまえば、どうしようもあるまい」
それを防ぐために、自身を昏睡状態にさせる薬を仕込んでいったはずだが、その効力は丸一日といったところである。
もし本当に捕らえられてしまっているのだとしても、目覚めるのは事が全て終わってからだと思うが……。
「……如何なさいましょうか? 中止……には、なさいませんよね?」
「もちろんだ。計画に変更はない。そもそも小娘の形をしたものを一匹攫うだけだ。人手も戦力も十分足りているだろう?」
「はっ……では、念のため、時間を早めますか? 今からでしたら、まだ間に合うかと思いますが」
「ふむ……」
何気なく窓の外へと視線を向ければ、そこは夜の闇に沈んでいる。
それが明けるまで、まだ数時間はあるだろう。
本来の計画では、襲撃は夜明けと同時であった。
街が目覚めきっていないその時刻が、最も有効だと思ったからだ。
だが。
「いや……敢えて遅らせよう」
「遅らせる、ですか? 何故……?」
「確かあの宿には、今日も泊まっている物好きがいるんだったな?」
「はい、そのはずです。確か……最低でも三人、ということでしたが」
「……最低? それはつまり、しっかり確認はしていない、ということか?」
「は、はい……その、三人の中の二人はローブで全身を覆っている、如何にも子供だったということでしたので……も、申し訳ありません!」
「……まあ、いい。あんな場所に泊まろうとする物好き達だ。どうせ大したことはないのだろう」
だが、数は数だ。
余計な騒ぎを起こされないとも限らない。
こちらが万全であればそれも無視するのだが……戦力的には二番手がいなくなってしまったのだ。
男一人で十分だと思ってはいても、念には念を入れる必要があった。
「そういうことでしたか……承知いたしました。それでは、皆に知らせてきます」
「ああ、任せたぞ」
「はっ……」
頭を下げ、去っていく部下の姿を眺めながら、男は小さく息を吐き出す。
一瞬だけその後姿に目を細め、だがすぐに窓の外へと視線を向けた。
「あいつと喜びを分かち合えそうにないのは残念だが……まあ、仕方のないことか。……なに、今までと同じ事が、繰り返されただけだ。そう、それだけのことで……だが、それもこれで最後だ」
呟きながら、男は懐に仕舞いこんでいるものを握り、力を込める。
そして。
「これさえあれば……そして、アレを手土産にすれば、より確実に……! ……待っていろ、元勇者。今度こそ、オレ達が……!」
何かに挑みかかるように、視線の先の彼方を睨みつけるのであった。
昨日第五回ネット小説大賞の最終結果が発表され、この作品が金賞受賞となりました。
これも皆様の応援のおかげです、いつもありがとうございます。
これからも頑張って更新を続けていきたいと思っていますので、今後も引き続き応援していただけましたら幸いです。




