表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
164/391

元最強、互いに報告しあう

 ソーマが宿に戻ってきたのは、外とギルドの間を三回ほど往復し終えた後のことであった。


 わざわざ外を一周するごとにギルドに寄ったのは、情報交換をするためだ。

 まあ、一周目の時に偶然手土産とするものが見つかった、というのも要因の一つではあるが、何よりも現状互いに分かっている事が少なすぎる。

 少しでも得られるものがあればと、そういうことであった。


 もっとも、結論から言ってしまえば特に向こうから得られるものはなかったのだが……どちらにせよ一周目の時は手土産の関係もあって一度寄る必要があったのだ。

 さらには礼儀として最後にも寄るべきだったことを考えれば、大した手間が発生したわけでもない。

 気にするようなことでもないだろう。


 ともあれ、そうして戻ってみれば、既にシーラ達は宿に戻っていた。

 となれば互いの成果についての報告を行うべきだが……外ではそろそろ日も沈もうかという頃合である。

 食堂で夕食をとりつつ、ということになったのは、そういう理由によるものであった。


「……ま、とりあえずこちらとしてはそんなところであるかな」


 とはいえ、ソーマが報告するようなことはほとんどない。

 都合三周、最後はそこそこ街から離れた場所まで歩いてみたものの、何か変わったようなことは見つけられなかったのである。


 精々が、昨日得られた推論が補強出来たという程度のこと――昨日に引き続き、似たような魔物を街の周辺で見かけたという程度のことだ。

 これで今回のことはほぼ人為的に引き起こされたものだという確信が得られたものの、それがそれほど重要かと言われるとそうでもないだろう。


 元よりそれは確定したこととして動いていたのである。

 それを解決するための手掛かりでも得られたのでなければ――


「あ、いや……手掛かりとは言えぬまでも、何もなかったと言ってしまえば語弊があるかもしれんであるな」

「え、何か見つけたんですか?」

「見つけたというか結果的には拾ったというか、という感じであるか……?」


 それは一周目の時のことであった。

 街を出てから一度も魔物とすらも遭遇せず、これはさすがに暇すぎるなどと思い始めた矢先のことだ。

 人の気配と魔物の気配、その両方を察知したのである。


 推論通りであるならば、その何者かは危険な状況であるかもしれない。

 少し急ぎ向かうと……そこには、少々予想外の光景が広がっていた。

 動かない魔物と、そこから少し離れた場所に黒いローブ姿の人物が立っていたのだ。


 魔物は倒されたのかと一瞬思ったが、感じる気配からそうではないということが分かる。

 ならば刺激しなければ大人しいタイプのものなのだろうと判断し……そうなれば問題はローブ姿の人物だ。

 どう考えても怪しいものの、正直ソーマ達も人のことは言えない。

 何か理由があるのかもしれないと思いつつ、さてどうするかと思っていると、こちらが声をかけるよりも先に向こうが気づいた。


 これは都合がいいと、何をしているのかを尋ねようと思ったのだが……何故かその人物は舌打ちをするとおもむろに襲い掛かってきたのだ。


「で、もちろん撃退しやがったんですよね?」

「何故もちろんなどと言ったのかは解せんのであるが……まあ、結論から言ってしまえばその通りであるな」

「……その人は、何故襲った?」

「さて、それは我輩も気になったところではあったのであるが……」

「え、まさか、勢いあまって殺してしまったんですか……?」

「だから汝らは我輩のことを何だと思っているのである?」


 そもそも殺すどころか、意識を失わせるつもりすらなかったのだ。

 単純に無力化だけしておこうと思い、軽く地面に叩きつけ――


「……勢いあまって弾き飛びやがったです?」

「最早何も言わんであるが、むしろその方がよかったかもしれんであるな。分かりやすいという意味で」

「……どういうこと?」

「直後に意識を失うと、何をしようとも目覚めなかったのである」


 仕方なく、明らかに怪しかったため、ついでにギルドへと持っていったのだが、最後に寄った時すら意識が戻ることはなかったのだ。

 ちなみに手土産とはその人物のことだが、そんな状況だったため、厳密には手土産足りえたのかは微妙なところだろう。


「それは、頭をぶつけたから、ということですか?」

「いや、叩き付けたのはうつ伏せに、しかも腹のみが地面に叩きつけられるように狙ったであるからな。その可能性はないはずである」

「すげえ痛そうなんですが……それはともかく、じゃあ何で急に意識を失ったんです?」

「それが分かれば苦労はしないのであるが……地面に叩きつけられた瞬間、口元が動いていたような気がしたのであるよな。ついでに、何かを飲み込むような感じも」

「……薬?」

「の、可能性が高いであろうな」


 どんな手段を用いるにしろ、自白させるには相手の意識があるのが前提となる。

 だからそれを封じるために自身を仮死状態にさせたり眠ったままにさせる、などというのは稀に行われることだ。


 もちろん一般人には遠い世界の話ではあるが――


「余計怪しくなったですね」

「うむ、もうその時点で半ば自白したも同然であるな。ただ、それはつまり、そうと判明してしまったとしても、それ以上の情報の流出をどうしても防ぎたかったということであるし……しかもどうしたところで、いつかは目覚めてしまうものである」

「つまり、近日中に何かをしようとしていた、ということですか?」

「あるいは今何かをしており、近日中に撤退予定だった、とかであるな」


 何にせよ全てが終わった後ならば、ばれてしまっても問題はない、ということだ。

 そしてそれに該当しそうなことを、ソーマ達は知っている。


「……今回のことに、関係あり?」

「少なくともギルドではそう判断したようであるな」


 それを根拠として、今回のことを人為的なものと確信を深めたようだ。

 もっとも最初からそう判断していたからこそ、今回の街の封鎖という手段を強行したのだろうから、あくまでもその補強として周囲への説得の材料とするためなのだろうが。


「ところで、三人とも今の話に妙に食いついていなかったであるか?」

「それは……その話をする前に、その黒いローブの人物が何処で見つかったのかを聞いてもよろしいでしょうか?」

「ふむ、構わんであるが……そうであるな、確かあれは街の南……より正確には、南西に一キロほどいったところであったかな?」


 ソーマの言葉に、三人は顔を見合わせると、頷き合った。

 そして首を傾げるソーマに向けて、口を開く。

 今日彼女達が体験したことと、見かけた人物のことを。


「……なるほど、そっちも黒いローブの人物を見つけていて、しかもその人物は街の南西から外に出た、と」

「同一人物の可能性は高いと思うです」

「まあ、それを偶然と捉えるのはちと難しいところであるな……時間も大体同じ頃のようであるし」

「問題は、結局あの人物が今回の件に関係があるのか。あったとしても、話が聞ける状態ではなくなってしまった、ということですが……まあ、これに関してはもう言っても仕方のないことですね」

「……ん、誰の責任でもないし、全員の責任でもある」

「そう言ってもらえると助かるであるな」


 まあ最低でも近日中に何かが起こる可能性がある、ということが分かっただけでも十分とすべきだろう。

 悠長にしていていいのかという思いはあれど、それこそ焦ったところでどうにかなるものでもない。


 そもそも何も起こらず、ただ今の騒動が終わるだけ、ということもありえるのだから。

 それはそれで禍根が残るかもしれないが、それはソーマの気にすることではない。

 あくまでも今気にすべきは、今起こっていることの解決であり、それ以上でも以下でもないのである。


「ふむ……とりあえず、互いに報告すべきはこんなところであるか?」

「そうですね……まあ、つまりあまり進展はなかった、ということですが」

「仕方ねえっていうか、こんなもんじゃねえんですか? ろくな手掛かりもねえんですし。ギルドの動きも早いみてえですし、こっちはこっちでやれることをやってればいいと思うです」

「……ん、スティナの言う通り」

「ま、それもそうであるな」


 と、話が一区切りつくのを待っていたのか、そこで今日の食事の締めとなるデザートが運ばれてきた。

 見た目は純白の如き氷菓……シャーベットだ。


 夜の食事にのみ出てくるものであり、昨日も食べたのだが……ひとさじ掬い口に運ぶと、爽やかな風味が走り抜ける。

 他の食事はそこそこ美味いというか、値段を考えると十分満足できる、というものなのだが、これだけは別格で、絶品であった。


 正直な話、今日もここに泊まっているのは、ここで十分満足しわざわざ別の宿に移動する理由がなかったから、というものではあるが、これがまた食べられると思ったのも、割合にして三割程度はあっただろう。

 そのぐらい、これは美味いのだ。


「ううむ……これ本当に美味いであるな」

「ありがとうございます。そう言っていただけますと、娘も喜ぶかと思います」


 そう、しかもこれを作っているのは、なんとあの幼女なのだという。

 他の料理は主人が作り、デザートだけは幼女が作っているのだとか。

 思わずどうやって作っているのかと聞きたくなってしまうが、さすがに教えてはくれないだろう。


「これだけで十分客が来る理由になると思うんですがねえ」

「はは……褒めていただき親としては誇らしいですが、あまり数が作れるものではないですし。この生活にも満足していたので、特にどうこうする、というつもりはなかったのですが……」

「過去形ですし、言いよどむということは、大通りに移転でも?」

「いえ、昨日もお伝えしたとは思いますが、それは考えていませんし……どちらかと言えば、むしろ逆ですね。……実は、ここを畳もうかと思っているんです」

「……それは、人が来ないから?」

「そうではなく、別の理由から、ですね。……こう言ってしまうとあれですが、実はお客様達がいらっしゃらなければ、今日あたりにでも店を畳み、この街を後にしようかと思っていたんです」

「それは……もしかしなくとも、邪魔をしてしまったであるか?」

「いえいえ、本当にそうであったならば、お断りしていましたから。これも縁かと思い、最後にしっかりとおもてなしをさせていただき、畳もうと思ったのです」


 そう言った主人の顔からは、嘘は感じられなかった。

 何かを隠しているような気も同時にしたものの、それ自体は本当のことなのだろう。


「ここは本当に良い雰囲気ですし、勿体無いと思うのですが……もう決めてしまっているのでしたら、仕方がありませんね」

「本当にそう言っていただけますとありがたいのですが……はい、決めてしまいましたので。ですが最後にそう言っていただけたのですから、やはり請け負って正解だったと思いますね。それに、どちらにせよ今日は出られなかった可能性が高いですから」

「ああ……知ってんですね」

「買い物に行った際、自然とそういった話は耳に入りますから。とはいえ、ほぼここにこもっている私達にはあまり関係のないことですが……色々と大変みたいですね」

「そうであるな……」


 ギルドでちらっと聞いた話であるが、外に出るための許可証は本当に一部例外を除いて出すつもりはないようだ。

 それは誰が下手人であるか分からないからであり、懇意にしている商人にすら出していない、などと言っていた。


 つまり確かに主人達は今日街を出ようとしたところで出れなかった可能性が高く、また街が大変だというのもまた事実だ。

 数日程度ならばまだ抑えておけるだろうが、一週間も経ったらどうなるか分かったものではない。

 その前に何とかしたいものだが……さて、こればっかりは力ずくでどうにか出来るものでもないので、どうなるやら、というところである。


 しかしそうなるとよくソーマには渡されたものだと思うが……それだけ人畜無害そうに見えた、ということだろうか?


「単純にソーマを敵に回したらろくなことにならねえって悟ってただけなんじゃねえですか?」

「……ん、ありえそう」

「それか、ソーマさんならばこんな悠長なことをする必要がない、と判断されたのかもしれません。ソーマさんならばこの程度の街ならばあっという間に滅ぼせるでしょうし」

「……ん、それもありえそう」

「だから汝ら、今日は妙に我輩に対して失礼な気がするのであるが?」


 三人で行動している時に何かあったか、そういった話で盛り上がりでもしたのだろうか。

 まあ、三人の仲が良くなるのはいいことではあるのだが、自分をダシに使うのは勘弁願いたいところである。

 そんなことを考えながら、ソーマはシャーベットの最後の一口を口に運び、三人の笑い声に肩をすくめるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
●GCノベルズ様より『元最強の剣士は、異世界魔法に憧れる』の書籍版第六巻が発売中です。
 是非お手に取っていただけましたら幸いです。
 また、コミカライズ第五巻が2021年5月28日に発売予定です。
 こちらも是非お手に取っていただけましたら幸いです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ