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元最強、昼食を食べる

 とりあえずの方針が決まったとなれば、次にやることは言うまでもないだろう。

 ヒントは現在の時間である。

 つまりは、昼食であった。


 基本的に宿屋というものは、大雑把に分けると二通りになる。

 食事処が併設されているか、いないかだ。

 それはそのまま、宿の値段に直結していたりもする。


 一見すると食事処が併設されていない方が安価な宿のようにも思えるが、そうとも限らない。

 食事処とは言っても、大半の場合は酒場だからである。


 しかし当然のように、宿泊客専用の食事処を構えているところもあり、どうやらここもそうした宿の一つであるらしかった。


「狭い場所で申し訳ありません」


 そう言って店主が頭を下げたのは、昼食をとる旨伝え、案内された先でのことだ。


 一階の受付の奥に食堂はあったらしく、確かにそこは決して広いとは言えないような場所である。

 テーブルは三つしかなく、椅子もそれぞれに三つしかない。

 部屋の大きさも相応であり、宿であることを考えればこじんまりとしている、とすら言えるだろう。


 だが。


「いや、食事を取れるのであれば問題はないであるし……それに、別に狭くもないであろう?」


 ソーマがそう返したのは、それがただの事実だからだ。

 こじんまりとはしているものの、相応なことに違いはないのである。


 少なくとも今のソーマ達が食事をとる場所として考えるならば、十分過ぎるものであった。


「そうですね、むしろあまり広すぎると逆に落ち着きませんし」

「……ん、ここの雰囲気にも、合ってる?」

「まあ確かにこんな古臭え場所で食堂だけが広かったら、そっちのがおかしいと思うです」

「そう言っていただけますと助かります。では、すぐに食事をお持ちいたしますので」


 ソーマ達が席に着いたのを確認すると、店主は頭を下げながら別の部屋へと向かった。

 他に人の気配はないのでそんな気はしていたのだが、どうやら他に従業員はいないらしい。


 まあちらっと聞いた話だと、この周辺はこの街の中では比較的古い場所だということだ。

 建物もそうだが、店にしろ何にしろ、人の集まる新しい場所へと行くことの出来なかった、取り残されたもの達が集まる場所。

 そんなところにわざわざ来る人など物好きな旅人ぐらいであり、必然的にここに泊まろうとする者はかなり稀だということである。


 だからこそ、従業員を雇う必要もなければ、その余裕もないということなのだろうし――


「娘を助けてくれただけではなく、客としてやってきてくれたとなれば、感謝されて当然であろうなぁ」

「だから助けてねえって言ってんじゃねえですか……!」

「まあそれはともかくとして、ここもやはり良い雰囲気ですね。わたしは宿というものに泊まったことがほとんどありませんが、それでもここが良い宿だということは分かります。わたしでさえそうなのですから、場所さえ移せばもっと人が来そうなものですが……」

「そう言っていただけるのは嬉しいのですが、従業員を雇う余裕はなくとも日々を何とか凌ぐ程度の蓄えはあるものでして。この建物にもそれなりに思い入れがありますし……まあ、娘にはもう少し贅沢をさせてやりたいとも思っているのですが……」


 そこで店主が何とも言えない表情を浮かべた理由を察すると共に、ソーマは納得もした。

 ソーマもフェリシアと同じことを考えていたのだが、娘のことを考えていたということか。


 ここだから比較的穏やかに過ごすことも出来るが、移動した先ではどうなるか分からない、ということだろう。

 住人はもちろんのこと、泊まりに来る客のことも考えなければならない。

 思い返してみれば、あの幼女が姿を見せた時、店主からは少し緊張感がにじみ出ていたのだが、それも納得である。


 そしてフェリシアもまた、同じことに至ったらしく、申し訳なさそうな表情を浮かべていた。


「あ、いえ、申し訳ありません、事情も知らないくせに勝手なことを言ってしまって」

「いえ、こちらこそ、お客様の歓談の邪魔をしてしまい申し訳ありません。それとこちら、お口に合うかは分かりませんが、本日の昼食となります」


 店主が運んできたものは、どちらかと言えば質素と呼ぶべきような食事であった。

 野菜のスープに、硬すぎずとも柔らかいとも言い切れないパン。

 それと大きな皿に載せられた、様々な野菜やキノコなどを煮詰めたようなもの。


 ただ昼食であることを考えれば十分であるし、値段を考慮に入れても相応だろう。

 ここは宿泊費に食事代も含まれていたため、宿代は相場よりも若干上ではあったが、昼食がこれならば宿泊費は相場よりも安いぐらいである。

 要するに全てを含めて、極めて良心的だということであった。


 少なくとも同じ食事を他の酒場でしようと思えば、五割り増し程度の代金を支払う必要があるはずだ。


「ふむ……味も絶品というほどではないであるが……」

「……ん、美味しい。……ここの雰囲気と同じで、どことなく安心出来る感じ?」

「うむ、そんな感じであるな」


 家庭の味、とでもいうようなものか。

 これ一つで評判になるようなものではないだろうが、ほっと一息を吐けるような味だ。

 宿の雰囲気とも相まって、とても安心が出来る。


 と。


「……どうぞ」


 下手をすれば聞き逃してしまいそうなほど小さな声と共に、テーブルへとコップが置かれた。

 中に入っているのは水のようであり、視線を向けてみれば、そこにあったのは小さな影が背伸びをしながら両手を伸ばしている姿だ。


 どうやらこのテーブルは彼女には少々大きすぎるらしい。

 まあそれは正直ソーマ達にとってもそうなのだが。


 そうしてその姿を何となく眺めていると、目が合った。

 が、すぐに逸らされると、そのまま幼女は隣のシーラへとコップを渡しに行ってしまう。


「……ぬぅ」

「オメエは何唸ってやがんです?」

「いや……我輩特に怖がられるようなことをした覚えはないのであるが……」


 最初の時は仕方ないにしても、いい加減慣れてもいい頃ではないだろうか。

 明らかに避けられていて、ソーマは地味にショックを受けていた。


「一、二回会っただけのやつに対する反応なんてそんなもんじゃねえんです? むしろスティナに対する反応のが解せねえです」

「別に汝に対しての反応は欠片も不思議ではないであるがな。ただ……シーラ達に対する反応も……」


 当然のように、シーラやフェリシアはここではフードを被っている。

 つまり怪しさで言えば、正直二人は相当なものだ。


 そんな二人に対し、幼女が何らかの隔意を持ってしまうのは当たり前のことではあるだろう。

 事実二人には目すらも合わせないようにしているようであり……だがそれは正直過剰なようにも思える。

 警戒しているというよりは、怯えているようにも見えたのだ。


 しかしそんなことを考えながら、スープに浸したパンをかじっていると、ふとシーラが別の部屋へと引っ込もうとしている幼女の後姿を見つめているのに気付く。

 やはりシーラもあの幼女に何か思うところでもあるのだろうか、などと思っていると――


「……む。……らいばる?」

「何を唐突に言い出しているんですか、あなたは……?」


 本当に唐突過ぎる発言に、フェリシアが呆れたような溜息を吐き出した。

 だがそれに対しシーラは、首を傾げる。


「……ん、きゃらかぶり?」

「……ソーマさん?」

「その、シーラが変なことを言い出したら我輩に原因がある、みたいな判断は止めて欲しいのであるが? まあ今回は合っているのであるが」


 いつだったかは忘れたが、そんな言葉をシーラの前で口にした記憶はある。

 切欠も覚えてはいないが……学院での放課後でのことだ。

 まあ、学院というのは様々な人材が集まるところであるため、似通った性格のものもそれなりにいるということである。


 そして確かに比べてみれば、シーラとそこの幼女は似通っていると言えば似通っているのかもしれない。

 何せ二人とも口数が少なく、無表情気味だ。


 もっとも、幼女のはどちらかといえば、警戒心からきているもののような気がする。

 要素だけを抽出してみれば似てはいるものの――


「うむ……別にキャラ被りはしていないから問題はないであるぞ?」

「……ん。……安心?」

「わたしは逆に不安になりましたが? まったく、人の妹に何を教えているんですか……」

「いや、我輩は教えているつもりはないのであるが……」

「覚えちまってるんですから違いはねえと思うですが?」

「ぬぅ……」


 どうやら圧倒的にこちらが不利なようなので、何か話題転換するようなものはなかったかと考え、ふとそれを思い出した。

 鍛冶師のことである。


「そういえば、言っていなかったであるが、見て分かる通り、実は我輩愛用の剣を今修繕に出しているのである」

「え? いえ、見て分かると言われましても、今初めて知りましたし、改めて見ても分かりませんが……?」

「あー、何となくそうかとは思ってたですが、やっぱそうなんですか」

「……ん、分かってた」

「……気付かなかったわたしがおかしい、みたいな感じになっていますが、おかしいのはむしろ皆さんの方ですよね?」

「そうであるか? 確かに割と似通ったものを代わりに借りたではあるが……ほら、ローブの中にシーラではなくあの幼女が入っていてもすぐに気付けるであろう? そのぐらい違いがあると思うのであるが……」

「その例えはまったく適切ではないと思います」

「んー、適切か否かで言えば何とも言えないところですかねえ……違う気もするですが、ちと納得もしちまったですし」

「……割と的確な気がする?」

「うむ、結論から言ってしまえば、やはりおかしいのはフェリシアだということになるであるな」

「全然納得が出来ないのですが……」


 しかし少なくともこの中で言えば、フェリシアが少数派だというのは事実なのだ。

 納得してもらうしかない。


「というか本当に言いたいのはそれではなく、そのついでに新しい剣も注文した、ということなのであるが」

「……新しい剣、必要?」

「あれでも十分と言えば十分であるが、まあ十全ではないであるからな。半分以上は念のため、というところである」

「一度見ただけですが、あれもかなりの業物だったと思うですが……あれ以上を求めるとか、オメエは本当にアレですね」

「褒め言葉と受け取っておくである」

「わたしは少数派らしいのでその辺はよく分かりませんが、それは完成までにどの程度かかるものなのですか?」

「うむ、一月、と言っていたであるな」

「一月、ですか……」


 呟きと共にジト目を向けてきたフェリシアに、肩をすくめる。

 勝手にそういうことを決めて、という批難のものであろうし、それは正当でもあるが――


「勝手に決めてしまったのは悪かったであるが、今回のことがなければ後で取りに来るつもりだったであるしな。修繕は明日終わるらしいであるし。ただ今回のことでどれだけここに留まるか次第では、それを取りに行くこともあるかもしれんであるから、一応伝えておいただけである」


 実際のところ、さすがに一月はいないだろうし、言う必要はないと言えばないのだが、情報の共有は大切だ。

 それを怠ったせいで何かがないとも限らない以上、しておくに越したことはないだろう。


「ま、こっちに影響はなさそうですし、好きにすればいいです」

「……ん、ソーマが強くなること自体は歓迎? ……ちょっと悔しいけど」

「……まあいいです。それよりも、ついでですから、これからのことを簡単にでも話しましょうか」

「ふむ……そうであるな」


 今のところ決まったのは方針だけで、この後何をするのかすらも決まってはいないのだ。

 とりあえずそれぐらいは、決めておくべきだろう。


 そう結論付けると、ソーマ達は昼食をとりながら、その話し合いを始めるのであった。

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