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元最強、今後のことを話し合う

 別に迷子を案内して連れてきたわけではなく、宿を探してたらここに行き着いて、その後を着いてきていたあの幼女の家が偶然ここだった。


 そんなたわごとをほざいたスティナのことは華麗にスルーしつつ、ソーマ達は宿の一室に集まっていた。

 もちろん、スティナのことと魔物のこと、ひいては今後のことを話すためである。


 しかしそれは分かっていても、この宿には今来たばかりなのだ。

 自然とその場を見渡してしまい、ポツリと感想を漏らす。


「ふむ……それにしても、本当に良い宿であるな」

「そうですね……手入れが行き届いているため、古いことがそのまま落ち着く雰囲気へと変わっています。店主の方も、いい人そうでしたし」

「……ん、それに、夜はまだ分からないけど、今のところ静か」


 割とこの宿は、路地裏の中でも奥まった場所にあった。

 それが逆に、騒がしさから遠ざけているのだろう。

 大通りに面しているような場所では、有り得ないことだ。


 内装を見て問題ないだろうと判断し、異論なくここに決まったわけだが、本当に――


「あの子様々、であるな」

「……ん。……話を聞いてる限りだと、あの子が迷子にならなければここには来れなかった」

「迷子になってくれたおかげ、と言ってしまうと少しアレですが、わたし達からすればまさにその通りですね。あ、もちろん、あの子をここまで送り届けてくれたスティナさんのおかげでもありますが」

「だからスティナは送り届けてねえって言ってんじゃねえですか! 素直にここを見つけたスティナを褒めやがれです!」

「だから素直に褒めているであるが?」


 それはスティナの望み通りかはともかく。


 それと確かに、スティナが見つけたというのも間違いではないのだろう。

 ただしその目的が、宿を見つけるというものではなかった、というだけで。


 ちなみにあの幼女は、父親であるここの店主と一緒に買い物に行った際、はぐれて迷子になってしまったそうだ。

 買ったものを一度持って帰り、それから改めて探そうと思っていたところで、ちょうどスティナが連れてきてくれたのだとか。

 一瞬目を離した隙だったそうで、先ほどもスティナに何度も礼を言っていた。


 尚、男性は妻とは既に死別しており、この宿は彼一人で経営しているらしい。

 娘とは異なり明らかに人類種であることとか、何故こんな場所で宿を、など色々疑問はあるものの……ソーマ達は所詮客の一人である。

 そもそもこの街をいつ出て行くかも定かではない以上、他人の事情に首を突っ込むのもよろしくない。

 そういったわけで、余計なことは聞かずに、とりあえずここに泊まることだけを告げ、現状へと至る、というわけであった。


「ま、とりあえず時間は有限であるし、スティナのことだけであればともかく、魔物のことなどもあるであるしな。出来るだけ早く結論を出すに越したことはないであろうから、早速話し合うとするであるか」

「……正直ちと納得できねえんですが、まあそれそのものに異論はねえですし、構わねえです」

「今後どうするかによって、準備するものなども変わってきそうですしね……もっともわたしは基本的にお任せする立場なのですが」

「……ん、任せて」


 そんなことを言いながら、適当な場所に座る。

 ここはソーマの部屋となる予定の一人部屋なためそれほど広くはないが、ちょうど椅子は三つあった。

 ソーマがベッドに腰をかけ、三人が椅子に座れば、話し合いの体勢の出来上がりだ。


 しかしその前にとばかりスティナが首を傾げると、フェリシア達のことを眺めながら口を開いた。


「ところで、二人は部屋の中だってのにフードはとらねえんですか?」

「っ……それは……」


 それはある意味で当然の疑問だろう。

 ついでに言うならば、共に旅をしようという相手に対して顔を隠し続けているというのは失礼でもある。


 まあそれはソーマが勝手に決めたことでもあるので、二人がそれに従う理由はないと言えばないのだが――


「まったく、意地の悪い言葉であるな」

「確かにそれは認めるですが、こっちから話振らねえとこのまま進みそうだったじゃねえですか。さすがに相手の顔も見えねえまま話を進めるのは勘弁です」

「ふむ……別にこの状況でも大体どんな顔をしているのか、というぐらいは推測出来ると思うのであるが?」

「それは慣れた相手にしか出来ねえことですし、ついでにそれを簡単に出来るのはオメエぐらいです」

「あ、あの……ソーマさん……?」


 そこでフェリシアが声をかけてきたのは、ソーマにスティナの要求を拒絶する様子が見られなかったからだろう。

 シーラはフェリシアに合わせているのと、多少の面倒を回避するために顔を隠しているだけだが、フェリシアは顔を……というか、その髪の色を見られてしまうだけで問題だ。


 少なくともフェリシアはそう考えているのだろうし……こっちをジッと見つめてきているシーラも、おそらくは同様の考えである。

 どういうつもりなのかと、向けられている視線が語っていた。


 だがソーマとしてはそれに苦笑を浮かべるだけである。

 話していないのだからその態度は当たり前なのだが……やれやれと溜息を吐き出す。


「無駄にトラブルを作り出さないで欲しいのであるが?」

「ふふんっ、スティナと一緒に旅したいとか言うんですから、このぐらいは受け入れてもらわねえと無理ですよ?」


 その言葉に再度苦笑を浮かべ、肩をすくめる。

 それから、さてどこまでをどうやって話したものかを考え――


「ま、とりあえず、二人とも顔を晒しても問題ないであるぞ。スティナは二人の素性を知っているはずであるからな」

「えっ……?」

「……それは、本当?」

「まあ、事実ですね。ただ、どうしてだとか、そういう質問には答えねえですよ? 力ずくで聞こうとしたところで、逃げるだけですし。刀術特級相手でも、逃げに徹するならばその程度は可能な自信はあるですからね」

「……なるほど。……確かに知ってるみたい?」


 言うや否や、シーラはフードを下ろした。

 あらわになった金色の瞳が、真っ直ぐにスティナのことを見つめている。

 まるでこの先のことで、変なことをしたら許さないと語るように。


「……はぁ。分かりました。確かに、失礼ではありますしね」


 そして続けてフェリシアも、フードを下ろす。

 久しぶりに目にする白い髪が僅かに揺れ、スティナへと向けられていた赤い瞳が、数度瞬いた。


「なるほど……嘘ではないみたいですね」

「本当のことなんですから当たり前ですが、今のだけで何か分かったんです?」

「……動揺がなかった。……どれだけ平静でいようとしても、普通ならそこに魔女がいるなんて思わない。……だからそうだったんだと分かれば、絶対に動揺してたはず」

「見てるだけでそれが分かる……少なくともその自信があるってことですか。怖えと言うべきか、頼もしいと言うべきか、ってとこですねえ」


 怖いなどと言いながら、スティナにそんな様子は見られない。

 それだけこういうことに慣れているのか、それとも先ほど自分で口にしていたように、どうにか出来る自信があるのか。


 しかしそんなことよりも、ソーマはもう一つの言葉の方が気になった。


「ふむ……頼もしい、ということは、もしかして?」

「まあ、時間は有限ですから、先に結論を言っちまうですが、とりあえずオメエと一緒に行くことにしたです。色々考えたですが、そっちのが都合がよさそうですし。もっとも、怪しさ満点のこのスティナとまだ一緒に旅をするつもりがあるならば、ですが」


 そんなことを言い出すスティナに、ソーマとしては肩をすくめるだけだ。

 何度も言っているが、スティナが怪しいことなど、最初から承知の上なのである。


 そして。


「……ん、そういうことなら、よろしく」

「そうですね。では、これからよろしくお願いしますね」

「って、えっ……!? い、いいんですか……? ソーマはともかくとして……自分で言うのも何ですが、スティナ相当に怪しいですよ!?」


 二人が頷いたことは、スティナにとってかなり予想外のことだったのだろう。

 逆に慌てだし、その姿に苦笑を浮かべる。


「まあ確かに怪しいですが……あなたがどういう人なのか、ということは短いながらも見てきましたから」

「……ん。……それに、怪しいだけなら、きっとソーマは一緒に旅に行こうなんて言わない」

「ちと我輩も面映いであるが……そういうことらしいであるぞ? まあこの二人のことを甘く見すぎたであるな」

「ぬぅ……まさかあっさりと受け入れようとするなんて予想外にもほどがあるです。……さすがはソーマの連れだけはあるってことですか」

「我輩は特に関係ないと思うであるがな」


 ただ、ソーマはこれでもそれなりに人を見る目があるつもりであり、この二人もそうだという、それだけのことだ。


 あとは、フェリシアも言った通りである。

 その人となりを目にして、共に旅をしてみたいと思ったのだ。


 もしもその姿が演技だというのならば、それはそれで仕方ないと、思う程度には。


「……まったく、物好きなやつらです。じゃあ、まあ、そういうわけでよろしくですが……で、次です! 魔物のことですが――」


 そうして即座に話題を転換したのは、きっと照れによるものだろう。

 それを指摘するのはさすがにあれなので、苦笑を浮かべるだけに留めると、その話に乗る。


 実際のところ、今回の話し合いで焦点となるのは、結局はそれなのだ。


「ふむ……とはいえ、ギルドも大したことは分かっていないようであったしな。我輩達も何か気付いていたら、そのまま戻ってきていなかったであろうし。ちなみに、スティナは何か心当たりがあったりはしないであるか?」

「謎多き美少女であるスティナにそう聞きたくなる気持ちは分かるですが、残念なことに心当たりはねえですねえ。こんな話聞いたこともねえですし」


 冗談っぽく言ってはいるものの、それは本当なのだろう。

 少なくともそこに、嘘は感じ取れなかった。


「魔物が唐突に姿を消す、なんてことがあれば話題にならないわけがないですしね。昔話や伝承などであれば、聞いたことはあるのですが……」

「あー、まあ、確かにそっちにまで範囲を広げるんなら別ですが、それが参考になるかってーと、って話ですしねえ」

「……話し合いをするにしても、いきなりつまづきましたね」

「……ん、結局のところ、情報が足りない?」

「そういうことであるな」


 ここに来る途中にも少し話したが、やはりどうしたって情報不足なのだ。

 何を判断するにしても、色々と足りなすぎる。

 焦点とするべき話なのに、肝心の話せる事がほとんどない、ということである。


 もっとも。


「まあ実のところそれも、あまり問題はないと言えば問題はないのであるがな」

「それは……どういうことですか?」

「話せる事がなけりゃ話し合いとか出来ねえですよ?」

「いや、話せることはあるであるぞ? 一つだけであるが、同時にそれこそが最重要なことであり、最終的にはそれだけが問題となるようなことが」

「…………その問題に関わって、ここに残るかどうか?」

「そういうことであるな」


 情報が多ければそれだけ判断材料となるものが増えるが、別にそれがなければ判断出来ないというわけでもない。

 別に足りないなりに判断することは出来るのだ。


「そもそもそれがどういった類のものであれ、関わる気はないとなれば、明日そのままここを発つだけであるしな。逆にどういった類のものであれ、関わる気があるとなれば、それが結論となるであるし。ま、少なくとも我輩はそう言えるほど、ここと関わりはないわけであるが」

「わたしもですね。もっとも、絶対関わらないと言えるほどの何かがあるわけでもないですが」

「……ん、私も。……敢えて言うならば、一ヶ月も残ることになると厳しい、ぐらい? ……長期休暇が終わる」

「ああ、それを言うならば、我輩も同じようなものであるな。まあ要するに、皆割とどっちでもいい、という感じなわけであるが……それで、スティナはどうである?」


 水を向けると、スティナは何かを口にしようとして、止めた。

 開かれかけた口が閉じ、しかししばらくしてまた開き――


「スティナは……スティナも、まあ、ぶっちゃけどっちでもいいです。別に……思い入れとか、ねえですし」

「ふむ、しかしそうなるとどっちつかずになってしまうわけであるが……ちなみに、どっちかと言えばどっちであるか?」

「んなもんソーマが決めりゃいいと思うですが……まあ、そうですね。敢えて……敢えて言うならば、ですが……残る方、ですかね」

「では、とりあえず残るとするであるか。それから具体的にどうするかは、得られた情報等から逐次判断していく形でいいであろう」

「異論ありません」

「……ん、ない」

「……え?」


 あっさり下された結論に、スティナは唖然とした様子を見せた。


 一応意見を言ってみたものの、本当に通るとは思わなかった。

 そんな顔をしている。


「そ、そんな簡単に、しかもスティナの意見で決めちまっていいんですか!?」

「いや、皆の意見はちゃんと出揃ったであろう? どっちでもいい、と。その上でスティナだけが残ると言ったのであるから、必然的にそれに決まるというものであろう?」

「……すげえ詭弁な気がするんですが? スティナにだけ敢えてとか聞いてたですし」

「気のせいであろう?」


 そもそも、気になっていることではあったのだ。

 だが同時に、どうでもいいと思っていたのも事実である。

 誰にも残る理由がなければ、きっと気になりながらも去っていただろう。


 しかし口では何だかんだ言いながらも、スティナはこの件について気にしているようであった。

 だからそれを言わせた上で残ったという、それだけのことである。


 ソーマの目的とは何の関係もないことではあるが、ソーマはスティナに借りがあるのだ。

 この程度の便宜を図るぐらい、何ということもない。


 そんなことを思いながら、睨みつけるように自分のことを見てくるスティナへと、ソーマは肩をすくめてみせるのであった。

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