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元最強、鍛冶屋を見つける

 ある意味分かりきっていたことではあるものの、街の中心から離れるにつれ、少しずつ喧騒は遠のいていった。

 周囲には変わらず建物は存在しているが、その大半は何の店かは分からない。

 辛うじて店だと分かるのは、店先に看板のようなものがぶら下がっているからだ。


 もっとも、文字が書かれているわけでなければ、絵などが描かれているわけでもないので、実際に何の店であるのかを判別するのは不可能である。

 分かる人には分かるのか、もしくはやる気がないのか。

 まあ何にせよ今のソーマには関係がないので、一瞥だけをするとそのまま通り過ぎていく。


「ふむ……これは外れを引いたであるかな?」


 そんな中でふとそう呟いたのは、少しずつ周囲の光景に変化が生じてきたからだ。

 店先からは看板すらもなくなり始め、ただ建物だけが並んでいる。


 人の住む場所、という意味ならば間違ってはいないのだろうが――


「住宅街、といったところであるか? 場所次第では宿などがあってもよさそうな気がするのであるが……」


 生憎とそれらしいものは見当たらないまま、遠くには既に、街の外へと通じる門が見え始めている。

 このまま進んだところで、目的のものが見つかることはないだろう。


 それよりは――


「今のうちに脇に逸れておくべきであるか……?」


 この街は大きな道が二本交差する作りとなっているが、当然のように他にも道はある。

 小さなものが脇に幾つも伸び、今この場にも左右に細い道が存在していた。


 ただしそれはどちらも途中で曲がりくねっており、その先に何があるのかは分からない。

 とはいえ普通に考えれば、そこにあるのもまた住居だ。

 利便性などを考えた場合、同じ場所に同じようなものを揃えるのは道理にかなっている。


 が。


「ま、このまま歩いていたところで意味はなさそうであるしな」


 ならば一縷の望みに賭けた方がマシだろうと、ソーマは右を見左を見……結局、右側へと足を向けた。

 特に理由はなく、ただの勘である。


 まあ敢えて言うならば、そういえば彼女が行ったのはこっちだったな、ぐらいは一瞬思ったが――


「……お?」


 そんなことを考えている間に、周囲の光景がまた少しずつ変わり始めた。

 最初の頃はやはり住居ばかりであったのだが、再びちらほらと看板が見え始めたのである。


 そして同時に、今度はそれらが何なのか分からない、ということはなかった。

 相変わらず看板には何も書かれてはいなかったものの、店の扉が開いていたからだ。


 最初に見えたものは、どことなく懐かしさを覚えるものであった。

 それは巨大な釜で、その横にいた男が真剣な様子で中身をかき回している。


 一瞬魔女かと思ったが、髪の色が緑だったため、多分錬金術師だろう。

 ソーマは利用したことはないが、ポーションなどの特殊な効果のある薬品などは彼らが作っているとのことである。

 ああして、一見怪しいようにしか見えない様子で、だ。


 実際一時は魔女と混同されていたこともあるらしい。

 ただ魔女の作るものとは異なり、錬金術師の作り出している薬は言ってしまえば化学によるものだ。


 同じ手順で実行すれば、誰だって同じ事が出来、同じ物が出来上がる。

 最後に術者が一手間加える必要はない、ということだ。


 その男は余程集中しているのだろう。

 ソーマが通りかかっても視線を向けてくることすらなく、ソーマも何をするでもなくその前を通り過ぎる。

 別に錬金術師に興味も用事もないのだ。


 そうして幾つかの店の前を通りかかった結果、どうやらこの周辺は所謂職人街であるようだと理解した。

 何か物を作る者達が集まり、好き勝手に好きな物を作っているようなのだ。

 全ての店を確認出来たわけではないものの、確認出来た範囲では全てがそれらしかった以上、そうだと考えるのが自然だろう。


 となると、もしかしたら大通りに面していた店もそういう店だったのかもしれない。

 ここで見かけた看板の中には、大通りで見たものと似たようなものが幾つもあったからだ。


 しかし向こうは場所が場所ゆえに、店の扉を開けっ放しでいるわけにはいかず、閉めていた。

 そう考えれば、納得出来ることだ。


「とはいえそうなると、何屋なのかは結局直接確認する以外に方法はないわけであるが……」


 一見さんお断り、ということなのかもしれない。


 まあそれはともあれと、先に進んでいくと、次に通りかかった店の中では、男が自身の身長と同じ程度はあろうかという刃物を手に持ち、振り被っているところであった。

 それだけであればまるで事案のようだが、振り下ろす先にあるものを見れば納得だ。

 そこにあったのは、丸太だったのである。


「――キエーーーーーー!」

「……やっぱ通報が必要であるか?」


 発せられた奇声に一瞬そんなことを思うも、刃が振り下ろされた先では、丸太が正確に切り刻まれていく。

 幾つかの木材に切り分けられ、揃えられ、並べられる。

 その太刀筋は見事なのだが、使い道を間違えていないだろうか?


「……ま、剣を何に使おうが、それは当人の自由であるか」


 ただあれだと刃こぼれとかは大丈夫なのかとやはりいらん心配をしてしまうが――


「む……? なるほど、その心配は無用であったか……」


 そう呟き、足を止めたソーマの視線の先にいたのは、そのさらに隣の店にいた男だ。

 男は熱した鉄の棒を足元に置き、手元の金槌で叩いており――即ち、鍛冶師であった。

 例え先ほどの木材屋? の得物が欠けたところで、隣で直してもらえばいい、ということである。


 とはいえ勿論というべきか、ソーマが足を止めたのはそんなことに納得したからではない。

 足を止めるのに相応な理由があったから――その男が、ソーマが探していたものであったからだ。

 個人的な理由によるものではあるが、ソーマは鍛冶師も探していたのである。


 そう、だから明らかに宿がないここを、ソーマは引き続き歩いていたのであった。


 しかしそこですぐさま男のところへと向かわなかったのは、鍛冶師であれば誰でもいい、というわけでもないからだ。

 その見極めをするため、ソーマはジッと男を見つめる。


 そんなソーマに、男はまるで気付いた様子がない。

 それだけ集中しているということなのだろう。

 ひたすらに槌を振るい、足元の棒の形を整えていく。


 その姿は、まさに仕事人といった感じであった。

 ただし同時にそれは、基本中の基本でもある。

 自身の仕事に集中して取り掛からないで、何がプロだという話だ。


 ゆえに大事なのは、仕事の質である。

 鍛冶の腕前、と言ってもいい。


 実のところ、ソーマは多少なりとも鍛冶の腕に覚えがあった。

 かつて剣を極めるにはまずは剣の気持ちになる必要があるのではないか、などと思い立ち、鍛冶師の門を叩いたことがあるのだ。


 まあ結局その腕前はプロと呼ぶにはほど遠いものにしかならなかったが……それでも、それを無駄だったとは思わない。

 自分だけでもある程度の手入れが出来るようになったし、剣の気持ちが分かるようにはならなかったが、それを作り出す者達の気持ちは少しは分かるようになった気がするからだ。

 それと同時に、剣を振るうということの意味もまた、少しだけ深く考えられるようになった気がする。


 ともあれ、そういったこともあって、ソーマは実際に鍛冶をしている姿を見れば、その者の腕がどの程度かはある程度分かると自負しているのだが――


「……ぬぅ」


 その男の腕前に関しては、唸るしかなかった。

 良かったから、ではない。

 かといって、悪かったから、でもない。

 分からなかったから、だ。


 一時は師匠となってくれた鍛冶師の腕前ですら、物凄く良いと分かる程度には判別が付くようになったソーマだというのに、その男の腕前は底が知れなかったのである。

 一芸を極めた先にしか辿り着けない、凄み。

 そんなものまで感じるような気がするのは、果たしてただの気のせいか。


 何にせよ、事実はたったの一つだ。

 見極めようと思っていたソーマが、いつの間にか男が槌を振るう姿に見惚れていた、ということである。


 おそらく今作り出しているのは、その形状からいって包丁であろうに、超一流の仕事とはこういうものだという姿を、まざまざと見せつけていた。

 いや、実際には別に誰かに見せ付けているわけではないのだろうが、少なくともソーマにはそう感じたのである。


 ゆえにソーマは、男が最後の一振りを打ち終わり、深く長い息を吐き出したのを確認すると、男の方へとゆっくりと歩を進めた。

 その口元が緩んでいた理由は、単純にして明快。

 この男ならば、自分の目的を違わず達成できるに違いない……否。

 あるいは、こちらの願いの方が不足しすぎているかもしれないと、そんなことを思ったからであった。

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