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予想外の邂逅と想定外の提案

 さてどうしたものだろうと、スティナは思った。

 名乗ってみたはいいものの、下手をすれば面倒事一直線なのは間違いない。

 色々な意味でのあまりの自分の間抜けっぷりに、半ば勢い任せであったが――


「ふむ……ということは、アイナの姉、ということであるか?」


 まあ、そうなるだろう。

 それを聞かれないわけがない。

 ソーマがアイナと知り合いであることなど、今更過ぎることなのだから。


 だから問題なのは、ここでどう答えるかだ。

 嘘を吐けば簡単に乗り切ることが出来るかもしれないが、逆にどつぼに嵌る危険性も高い。


 となれば……。


「まあ、そんなとこですかね。つーか、何でオメエがアイナのこと知ってやがるんです?」

「何故と言われても偶然知り合ったとしか言いようがないのであるが……」

「……ん、学友?」

「ああ、今はそう言う事も出来たであったか」

「……は? 学友って……あの娘、学院に行ってやがるんです……!?」

「ふむ……? 知らなかったのであるか? 今アイナは王立学院に通ってるのであるぞ?」

「知るわけねえじゃねえですか……道理で見つからねえと思ってたら。あの娘一体何やってやがるんです……?」


 それは本音であった。

 アルベルトが一度攫っていたことは痕跡等から分かってはいたのだが、それ以後の行方はさっぱり分かっていなかったのだ。

 可能性としては、確かにソーマに着いていっていた、ということも考えてはいたものの……それでもさすがに学院にまで通っているとは思いもしなかった。


 いや、むしろそれが自然だろう。

 そもそも何故魔族が堂々と王立学院に通えるなどと思うのか。


 だがなるほど、そう考えてみれば、確かに悪い手ではないかもしれない。

 予想が出来なかったからこそ、今まで行方を掴むことが出来ていなかったのだ。

 予想出来るような場所に居たら、それこそ今頃どうなっていたのかは分からなかっただろう。


 もっとも何にせよ、今更の話ではあるけれど。


「アイナさん、ですか……確か何度か聞いたことのある名前ですね。シーラのご友人でしたよね? 初めての」

「……初めて、は余計。……あと、別に初めてじゃなかった」

「そうですか? 今までシーラにご友人が出来たという話は聞いたことがありませんでしたが……森の皆は、ご友人と呼ぶには歳が離れていましたし」

「……そんなことない。……ドリスとかもいたし」

「話を聞いている限りでは、ドリスさんという方は、どちらかと言えばシーラの保護者的な存在だったように思えるのですが?」

「ふむ……我輩が見ていた限りでも、どちらかと言えばそっちに見えていたであるな」

「……むぅ、ソーマまで」

「初めての友達、ですか……そういえば、アイナもそんな話聞いたことなかったですし、もしかしたらアイナにとっても初めての友達だったのかもしれねえですね」

「いや、初めての友達の座は我輩のものであるから、それはないであるな」

「何でそこでオメエはドヤ顔してやがるんです? あと顔は見えねえですが、何となくそっちの娘から悲しそうな気配を感じやがるんですが?」

「……そんなことない」


 と、何となく流れで話に乗ってしまい、慌ててそんな場合ではないことを思い出す。

 別に急ぎの用事とかがあるわけではないのだが……少なくとも、自分が彼らと暢気に会話をしてしまうのは、間違いだろう。


 とはいえ、この場から離れる切欠も掴めずにモタモタしていると、不意にソーマから話を振られた。


「それにしても、見つからないと思ってたってことは、一応探してはいたんであるな。話を聞く限りでは、かなりの放任だったように感じたのであるが」

「あー、それも間違ってはいねえですね。ただ……最近までずっとゴタゴタが続いてたですから、どっちかってーとそっちが主な理由です。放っておいて、アイナには興味がねえって思わせといた方が色々と都合がよかった、ってことですね」

「出会った時点でアイナは年齢の割には早熟だったではあるが……それでも、幼い子供であるのに違いなかったのに、であるか?」

「それでもそっちのがマシだった、って考えちまうような状況だったって理解してもらえると助かるですね」


 これも嘘ではない。

 というか、大部分が真実だ。

 アイナが城を出た直後、魔天将含め現在の魔族の方針に不満のあった者達が一斉に反乱を起こしたからである。


 むしろそのことを考えると、反乱があるのを事前に察して、敢えてアイナを逃がしていた可能性が高い。

 本人にはそのことを悟らせないようにして。


 アイナの血筋のことを考えれば、間違いなくその方が安全だ。

 アイナが現魔王側にいることに不満を抱いている者は多かったが、そこから離れるというならば否やがあるはずもない。


 ただ彼らにとって誤算があったとすれば、反乱の規模が予想以上に大きかったことか。

 まさか魔天将の第一席と第二席も反乱に加わるとは、けしかけたスティナ達でさえ予想外だったのだ。


 もっとも、こっちにとっての誤算は、現魔王達が強すぎたことだが。

 さすがに魔天将の第一席と第二席が瞬殺されるとは思ってもいなかったのである。


 それで現魔王の力に疑問を抱いていた連中はさっさと寝返るし、それでも認めない者達はゲリラ化するしで、無駄に長期化してしまったのだ。

 本当はそのドサクサに紛れて各々の目的を果たすつもりだったのだが、そんなことになってしまった以上そういうわけにもいかず……幾つか宝物庫から盗むことには成功したものの、それだけではどうしようもなかったのである。

 それでも細々と情報を集め機会を窺いと続けていたものの……結局目の前の少年によって阻止された。


 そんな、話すわけにはいかない事情を頭の中で思い出しつつ、溜息を吐き出す。

 同時に、そんな相手とこうして話をしているなど、一体どんな状況なのかと思いながら。


「ふむ……まあとはいえ、そもそも我輩がとやかく言うことでもないであるな。どう判断するかは、それこそアイナ次第である」

「ま、別に細かいことは伝えなくてもいいですから、一度戻って来いとは伝えといて欲しいですかね。多分互いに積もる話もあるでしょうし」


 その言葉にも、他意はない。

 ただの本音だ。

 アイナが戻ってきたところで、何かが出来るような者は既に残っていないのである。

 だからこその、かつては家族として過ごしていた者からの言葉であった。


 まあもっとも、これからソーマがそれを伝えて、アイナが戻ってきた時に、ここやその人達が無事であるのかは、保障しないが。


「自分で伝えろと言いたいところであるが、さすがにそういうわけにはいかんであるか」

「さすがにスティナが王立学院行くわけにはいかねえですからねえ」


 あるいはクルトが生きていたら伝える方法もあったのだが……と思ったところで、ふと気付いた。

 そういえば、アイナが王立学院にいたというのならば、何故クルトからその旨連絡がなかったのか。

 その時点で既に今更ではあったものの、それでも連絡ぐらいはあっても……いや、そうか、もしかしたら顔を知らなかったのかもしれない。


 クルトは別に魔族だったわけではないし、その可能性は高かった。

 重要人物なのだから顔ぐらい知っておけという話だが……力にしか興味なかったような脳筋なのだから仕方がない。

 最後の方はちょっとだけ頭を使うようにもなってはいたようだが、遅いという話である。


 あとそれで芋づる式に思い出したが、トビアスから連絡がなかったのも似たような理由だろう。

 話を聞いていた限りではトビアスはソーマと顔を合わせていたようなので、アイナも見ているはずだが、トビアスも厳密には魔族ではないのだ。

 目的のことしか目になかったようだし、アイナの顔を覚えていなくとも仕方があるまい。


 しかしそうやって考えてみると、よくもまあ反乱なんて大それた真似が出来たものだ。

 目的なんかまるで統一されておらず、偶然手を組んだだけで……スティナに至っては、担ぎ上げられただけで。


 ……それでも、一時はそんなのもありかもしれないなどと思っていたのだから、本当にどうしようもないが。


「さて……とりあえず、ここで話をしているのも何であるし、そろそろ戻るであるか」

「そうですね……依頼を達成した以上、ここに残っている必要もありませんし」

「……ん、証明に必要な部位は既に剥ぎ取った」

「おお、いつの間に……さすがであるな、シーラ。助かるのである」

「……ん」


 と、そうこうしている間に、どうやら無事解散となりそうであった。

 そのことに、スティナはそっと安堵の息を吐き出す。

 あまりこの温い空気に身を浸していたら、覚悟が鈍ってしまうような気がしたから。


 だから――


「ま、そうですね。実はスティナも依頼終えて戻るところでしたし。それじゃ、スティナは先に――」

「あ、ところで、であるな。これも何かの縁ということで、折角であるし、共に旅でもしないであるか?」

「……は?」


 早々にその場を後にしようとした瞬間、そんな予想外のことを言われ、スティナは呆然とソーマの顔を見つめたのであった。

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