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元最強、魔王の娘? に遭遇する

 強い日差しが目に入り、反射的に目を細めた。


 そのまま何となく空へと視線を向ければ、そこに広がっているのは一面の蒼と、僅かな白だ。

 自身の瞳の色は赤だというのに、そこが蒼に見えるのは不思議だと、そんなことを考えながら、一つ息を吐き出す。

 絶好の旅日和であった。


 まあ厳密にはそう言ってしまうには多少の暑さを覚えるものの、これでもまだマシな方だろう。

 かつてのように、寒いよりは。


「……ま、実際にはその時のことなんて、ほとんど覚えてないんだけど」


 呟きつつ視線を下ろすと、視界に映し出されたのは道なき道だ。

 周囲には草と土と岩だけが存在しており、少し遠くには森のようなものも見える。


 二年ほど近く前に同じ場所を歩いたはずなのに、まるで見覚えのない光景であった。


「とはいえあの時とは季節が違えば方角も違ったんだけど……それでもまったく覚えがないのは、我ながらどうなのかしらねえ……」


 最初の頃こそ懐かしさを覚えたものの、今ではずっとこんな感じなのだ。

 さすがにどうかと思わなくもない。


 まあというか、そもそも懐かしいと思ったのはあの村まででしかなかった時点で、今更かもしれないが。


「道中で何を考えていたのかすらも覚えていないし……いえ、もしかしたら、何も考えていなかったのかもしれないわね」


 ただ、絶望を胸に抱いていたことだけは覚えている。

 そしてそれはきっと、彼に出会わなければ消えることはなく、やがて死にすら至っていたかもしれないものだ。


 もっとも今ではそんなものは残滓すら存在してはおらず……その代わりとばかりに、別のものがこの胸の一部を占有してしまっているけれど。


「……なんて、そんなことを考えてしまうのは、多分ひたすらに暇だからなんでしょうね」


 道は大体しか分からないし、村や街に辿り着けるのは三日に一度というところ。

 暇を持て余してしまえば、余計なことを考えるようにもなるというものだ。


 あと最近、ちょっと独り言の数が増えたような気もしている。

 この旅が終わった後もこのままだったら少し困ってしまうかもしれないが――


「ま、そんな心配をするのはまだ早いかしら」


 旅の終着点はもう少しではあるが、そこでようやく折り返し地点でもあるのだ。

 そういったことを考えるのは、それからでも遅くはないだろう。


「さて、と……」


 そうして呟くと、気がつけば止めていた足を再度踏み出す。


 と、瞬間強い風が吹きつけ、その赤い髪が舞い上がった。

 しかし髪を押さえつけながら、気持ちの良いそれに口元を緩める。

 ふと脳裏を過ぎるのは、友人達の顔だ。


「あの娘達も……アイツも、この風を感じているのかしら……なんてね」


 我ながら何を言ってるんだろうと、苦笑を浮かべ肩をすくめると、アイナはそのまま旅を再開させるのであった。













 地面に座り込んだ少女は、こちらを呆然とした様子で見上げていた。

 その顔は信じられないものでも見たかのようなものであったが……さて、そこまで驚くほどだろうか?

 確かにソーマも、少女がこんなところにいるとは思ってもいなかったが――


「ま、そこら辺はとりあえずいいであるか。怪我はなさそうに見えるであるが……大丈夫であるか?」


 そう言って手を差し伸べると、尚も不思議そうに少女はその手を眺めていたが……やがて、何かに気付いたようにはっとする。

 それから、こちらの顔と手を交互に眺め、何かを悩むように眉根を寄せた後、しぶしぶといった様子で手を握ってきた。


「……多分、怪我はねえはず、です。それと、その……助かったです」

「うむ。まあ、この前は我輩が助けてもらったであるからな。この程度であの時の借りを返せたとは思っていないであるが、少しでも助けになれたのであれば幸いである。もっとも、こっちもある意味で助けられたわけであるから、どっちにしろ借りは返せていないわけであるが……っと」


 そうして少女を立ち上がらせたのと、後方で木々がざわつくように揺れたのはほぼ同時であった。

 反射的に少女がこちらの手を離し、構えるが、それに苦笑を浮かべ制す。

 直後に現れたのは、当然と言うべきかシーラ達であった。


「……ん、間に合った?」

「おかげさまで、であるな」


 その言葉は、ある意味で正しい。

 あとを……というか主にフェリシアのことをシーラに任せたから、ソーマは間に合うことが出来たのだ。

 どう考えてもギリギリのタイミングだったし、シーラ達と共に来ていたら間違いなく間に合わなかっただろう。


「それは何よりです」

「ついでに、依頼も達成することが出来たであるしな」

「え、そうなんですか?」

「うむ、そこに転がっているであろう?」

「……ん、確かに」


 そう、ソーマ達の受けた依頼の討伐対象は、ジャイアントフロッグだったのである。

 顔見知りを助けることが出来て、依頼も達成出来た。

 まさに一石二鳥だ。


「ああ……さっきそっちもある意味助けられた、とか言ってたですが、つまりそういうことですか」

「そういうことであるな」


 図らずとも少女が囮役をしてくれたことで、ジャイアントフロッグを楽に倒すことが出来たのだ。

 ソーマは少女を助けたが、少女もソーマの手助けをしたとも言えるだろう。


「いや、でもオメエだったら別に囮役とかいらずに倒せたんじゃねえですか? ならやっぱこっちが一方的に助けられただけだと思うんですが」

「そうだったかもしれんであるが、そうじゃなかった可能性もあったわけであるしな。そう考えると、やはり助けられたことに変わりはないのである」

「……ま、そっちがそう言うんだったら、別にそれで構わねえですが。それよりも……」


 構えこそ解いているが、呟きと共に少女がシーラ達へと向けた目には、明らかに警戒の色があった。


 とはいえそれも仕方のないことだろう。

 見た目だけで言えば、見るからに怪しい格好をした二人が現れたのだ。

 むしろ警戒しない方がおかしい。


 そしてそれはシーラ達にとっても同じことだ。

 二人は少女とつい今しがた出会ったばかりであり、しかも少女はその手に槍を握り締めているのだ。

 やはり警戒しない方がおかしい。


 もっとも、その必要がないと分かっているソーマとしては、そんな両者の反応に肩をすくめるだけだ。


「双方警戒するのは分かるであるが、その必要はないであるぞ? まあ見た目的には警戒するのも無理ないことだとは思うであるが」

「……ソーマさんがわたし達のことを怪しくないと彼女に言うのは分かるのですが、その言い方ですと、わたし達にも彼女のことを怪しくないと言っているように聞こえるのですが? 助けたとはいえ、まだそう言いきれるほどソーマさんも彼女のことを知りませんよね?」

「いや、知っているであるぞ? 元々顔見知りであるし、以前助けられもしたであるしな」

「……助けられた? ……ソーマが?」

「え……本当に、ですか?」

「嘘を言ったところで仕方ないと思うであるが? 今我輩達がこうしていられるのは、彼女のおかげだとも言えるであるしな」


 そう言って首を傾げると、何故かシーラもフェリシアも酷く驚いた様子であった。

 顔などは見えずとも、驚いているのが一目で分かるほどだったのである。


 しかもどうしてだか、同時に少女も驚いた様子を見せた。


「え……あるいは、とは思ってたですが、まさか本当に、です……?」

「うん? どうかしたのであるか?」

「ああ、いや、何でもねえんですが……オメエはやっぱとんでもねえと再認識してただけです」

「ふむ……?」


 何だかよく分からないが、こちらに感心しているというか、呆れのようなものを感じているのは分かった。

 どうしてそんなことを思ったのかは分からないが……まあそれよりも先に、今はやるべきことがあるだろう。


「ところで、一先ず自己紹介でもせんであるか?」

「……それって、必要です? 確かに助けてもらったのは感謝してるですが、名乗る理由もねえと思うんですが?」

「と言いますか、顔見知りで助けてもらったと言う割に、ソーマさんも知らないんですか?」

「うむ。というか、だからこそ知りたい、といったところであるな。前回は聞きそびれてしまったであるし」

「……別に、そもそも礼言われるようなことなんてしてねえですし、どうせここで別れたらもう会うことはねえと思うんですが?」

「会うことがないというのならば、尚更知っておきたいのであるが? 汝がどう思っているかはともかく、我輩にとっては間違いなく恩人なわけであるしな」

「まあ、折角知り合ったのですし、わたしとしては名乗るのはやぶさかではありませんが……」

「……ん、これも何かの縁?」

「んなこと言われても……名乗ったところでこっちのメリットねえですし……」

「デメリットもないと思うであるが? まあぶっちゃけ、名乗られずとも名前だけならば既に分かっているのであるが。スティナ、という名で間違いないであるよな?」

「なっ、な……!? オメエ、どうしてスティナの名を知っ……て…………?」


 驚き叫ぼうとしたところで、少女――スティナは、何かに思い至ったかのように口を開閉し、数秒ほど黙り込んだ。

 それから、恐る恐るといった様子で、こちらを伺う。


「あの……もしかして、聞こえてやがった、です?」

「まあ、汝の独り言が聞こえたからこそ、助けに迎えたわけであるしな」

「~~~~っ!?」


 瞬間、スティナの顔が真っ赤に染まり、その場で頭を抱え込んだ。

 間抜けなどという言葉がぶつぶつと呟かれているのが漏れ聞こえ……やがて、大きな溜息が吐き出される。


 それからのろのろと立ち上がると、こちらの顔を眺め、再度大きな溜息。


「はぁ……なんかもう、色々と馬鹿らしくなったですし、分かったです。名前ぐらいちゃんと教えてやるです」


 そうして、その名を口にした。


「スティナ……あー、まあ、別に構わねえですか。スティナ・カンザキ、です」

「……カンザキ?」


 そこでソーマがシーラと顔を見合わせたのは、その家名と思われるものに聞き覚えがあったからだ。

 しかも、ひどく身近で。


 同時にソーマだけは、もう一つだけ引っ掛かりがあったが……そっちに関しては、とりあえずいいだろう。

 それよりも――


「ふむ……そのカンザキという名は、ここではよくある名前なのであるか?」


 かつて彼女に聞いた時は、そうではないという答えが返ってきたはずだ。

 どことなく独特の響きのあるそれは、ここ――ディメントでは、特別な意味を持つはずである。


「ああ……やっぱ知ってたですか。面倒なことになるからあんま名乗りたくなかったんですが……名乗っちまった以上は仕方ねえですね」


 それは王の名。

 その一族にのみ名乗ることを許されたもの。


 即ち――

 

「ま、ですがそういうことです。簡単に言っちまうなら、スティナは魔王の娘、ってことですね」


 そう言って、自らを魔王の娘とかたった少女は、肩をすくめたのであった。

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