元最強、魔女と連れ立つ
一体何をしているのか。
その問いに答えようとしたソーマは、しかしふと意外と難しいことに気が付いた。
何故ならば――
「ふむ……周囲の地形及び危険度の把握のための散歩兼リハビリ兼探し物、といったところなのであるが……どれがメインかと言われたら少々答えにくいであるな。割合で言うと大体どれも同じぐらいなのであるが……」
「ああ、もう大体分かりましたから結構です。と言いますか、そもそもわたしが言いたいことはそういうことではありません。わたしは確か、わたしが戻るまで大人しく待っていてください、と言いましたよね?」
確かに言っていたし、聞いてもいた。
だが。
「頷いてはいない、とかいう屁理屈はいりませんからね?」
「む……何故言おうとしていたことがバレたのである? はっ、まさか我輩の心を……!?」
「読んでいませんし読めません。が、何となくあなたがどういう人なのかを把握しただけのことです」
そう言って溜息を吐き出した少女に、ソーマは肩をすくめて返す。
順調に相互理解が進んでいるようで何よりであった。
「相互理解だという割に、わたしのことはあまり理解されていないような気がするのですが?」
「うん? そうであるか? 我輩としてはそれなりに理解出来ているつもりなのであるが……」
「……何を根拠にそんなことを言っているんですか?」
睨むようにそう言われるも、一応これは根拠あってのことだ。
さすがのソーマも、こんなことを無根拠に言いはしない。
「というか、理解できていなければここで会うことはなかったであろうしな」
「……? どういうことですか?」
「出かける前に聞いた話によれば、今日は本来こんなところにまで来る予定はなかったのであろう?」
「それはそうですが、それは――あっ」
と、どうやらそこでようやく思い至ったらしい。
そう、本来ならここに居るはずのない少女が、それでもここに居るのは、ソーマから頼まれたものを探しに来たからなのだ。
しかしそれを頼んだ時、ソーマは快諾の返事を受け取ってはいない。
そっけない態度で、覚えていて且つ気が向いたら探してきます、とだけ言われただけだ。
だが実際には、ソーマの予想通り、こうしてそれが当たり前のように探しに来ているわけであり――
「っ……さ、先ほど、あなたはわたしに対して、こんなところで何をしているのか、などと問いかけてきていた気がしますが?」
「理解が進んでいるとはいえ、完全に理解出来ているわけではないであるからな。本当に来てくれたのかと、感心含めた言葉だったのである」
「あ、あなたは本当にああいえばこういいますねっ……」
そうしてさらに睨まれるも、ソーマとしてはやはり肩をすくめるだけだ。
しばしそのままの構図が続くが、やがて諦めたかのように少女の口から溜息が漏れた。
「……ところで、それが予想できていたのならば、わざわざあなたがここに来る必要はなかった気がしますが?」
「うん? 何故である?」
「先ほど探し物をしているとも言っていましたが、それはつまりわたしに頼んだアレのことなのでしょう? わたしが探しに行くことが予想出来ていたのならば、わたしに任せればいいだけではないですか」
「いや、さすがに頼むだけ頼んで自分は何もしないというわけにもいかないであろう? 自分でも探してみて、見つかればよし。見つからず合流してしまった時は、荷物持ちでもすればいいであるしな」
それに先ほども述べたように、周辺の把握とリハビリのためでもあるのだ。
何にせよ無駄にはならない。
「……ところでふと思ったのですが、あなたはアレの外見的特長などを知っているのですか?」
「いや、まったく知らんであるが?」
「それでどうやって探そうと?」
「見れば分かる、そんな気がしたのである」
「確実に気のせいですね……まったく」
言葉と共に再度溜息が吐き出された後、その手に持たれた籠のようなものがこちらへと差し出された。
その意味が分からずに、ソーマは首を傾げる。
「ふむ……? これは一体……?」
「荷物持ちをしてくれるのではないのですか? 折角ですから、それならばお願いします」
「なるほど。そういうことなら了解なのである」
「本当に持つんですね……分かりました。ではついでですし、この周辺のことも簡単にわたしが教えましょう」
「む、いいのであるか?」
それは正直助かるが、どう考えても本来の予定にはないものだ。
荷物持ちに関しては、アレを探してくれることの対価のようなものだし――
「別に問題ありません。実際にその場に行くのではなく、歩きながら説明するだけですし。それに……言っては何ですが、あなたも知っての通り、正直時間ならば有り余っていますから」
「ふむ……まあそういうことならば、頼むのである」
「承りました」
頷くと、早速とばかりに歩き出したその背に合わせ、ソーマも歩き出す。
視線の先で揺れる真っ白な髪を眺めながら、ソーマはふと、目の前の少女と初めて会った時のことを思い返していた。
ソーマが少女と――フェリシアと初めて会ったのは、今から一週間ほど前のことだ。
とはいえ実のところ、ソーマはその近辺のことをよく覚えていない。
記憶がないというよりは、記憶していられる余裕がなかった、と言うべきだろう。
何せソーマはその時、絶えず襲い来る痛みを堪えているところだったのだから。
そう、筋肉痛を、である。
分かりきっていたことではあるが、やはり今のソーマでは集大成とでも言うべきアレを使うのはかなりの無茶だったらしい。
とはいえ、そうして苦しんでいたのは、結局丸一日といったところだ。
痛みが完全に引いたわけではないものの、色々と慣れたということか。
翌日には、ある程度の余裕も生まれていた。
もっとも、それまでも周囲を確認する余裕こそなかったものの、誰かに助けられたということは分かっていた。
だからまずは始めに礼を述べるべきだと、そう思い――
「――ソーマさん? どうかしましたか?」
「――む?」
ふと気が付くと、前を歩いていたはずのフェリシアが真横に来ていた。
どうやら少しばかり、思考に集中しすぎてしまったらしい。
「……いや、すまんであるな。ちょっと考え事をしていたのである」
「……そうですか?」
そう言って首を傾げた拍子に、その純白の髪の毛が揺れ……つい、僅かに目を細めた。
今ではそれなりに見慣れてきたが、最初に目にした時の衝撃を、今もソーマははっきりと覚えている。
何故ならば――この世界には、髪の色が白い人間は、いないはずだからであった。
「それで、どうかしたのであるか? ああいや、そういえば周辺の説明をしてくれるのであったか」
「いえ、そのつもりだったのですが、予想外に早く見つかってしまったもので」
「ほぅ? どれである?」
「あれです。花の色が青いですから、すぐに分かるかと思いますが」
フェリシアの指差す方向へと視線を向ければ、確かにすぐに分かった。
周囲には沢山の草花が生えているが、そこには一つだけ、花の色が青いものがあったのだ。
ただ、その花は特徴的ではあったものの、ここには本当に沢山の草花がある。
最初からそれだと分かっていたところで、ソーマ一人では見逃してしまっていたかもしれない。
いや、実際ソーマは一人でこの周辺を探してみたのだが、こんな花を目にした記憶はないのだ。
「ふむ……こんな簡単に見つけてしまうとは、さすがは魔女であるな」
「……っ」
その言葉を口にした瞬間、フェリシアの身体が僅かに強張ったのをソーマは感じ取った。
そのことに、小さく息を吐き出す。
気にしないどころか、むしろ望ましいぐらいだと、最初に自己紹介をした時に伝えてはいるのだが……どうやら、未だフェリシアの方は気にしているらしい。
まあ、無理もないことなのかもしれないが。
魔女。
それは比喩でもなんでもなく、ただの事実だ。
本人がそう名乗ったのだから、それは間違いないのだろう。
そして当然のように、ソーマは魔女というものがどんなものなのかを知っている。
それは有り得ざる白の髪を持つ者。
呪術とも呼ばれる魔法を扱う、真なる奇跡の担い手。
魔女の森と呼ばれるこの場所の主。
あるいは、こう言うべきだろうか。
世界中の存在――否、世界そのものから嫌われている、世界の敵である、と。
魔族のように人によってその理由が作られたわけではなく、真実世界から認定された、世界に仇なす存在。
それが魔女であり――フェリシア・L・ヴァルトシュタインという名の少女なのであった。




