55:空洞内の戦い(2)
第55話です。
突如、修道院内に兵の声が響き渡った。
「陛下!西より魔物が多数飛来してきています!!」
「祈りの時間すら満足に与えられぬとは……ええい、迎え討て!!」
西の国クオーツを滅ぼした魔物達は、中央大陸にあるコルン王国へと向かっていた。
主戦力を欠いたコルン王国に、最大のピンチが訪れる。
「この城を落としてはならん!ここは、あの者達が帰って来る場所なのだ!!」
「弓隊、構えろ!!」
リトル率いる弓隊は、飛来する魔物に照準を合わせる。
「僕だって戦うぞ……メアリさんだって戦ってるんだ!」
魔道士隊の中にはエゴイの姿があった。普段はどちらかと言えば勉学ばかり励んでいた人物ではあったが、今回ばかりは前線に立つ覚悟を決めていた。
「リズ……お前に救われたこの命だ。無駄にはしないぞ」
兵の中の一人が呟いた。その精悍な顔付からは、嘗て盗賊稼業に身を落としていた頃の面影は見られなかった。
やがて、魔物が襲来し、王国軍との壮絶な戦いが幕を開けた。
だが、魔物の数はあまりにも膨大。数で押される王国軍には不利な状況が続く。
「陛下!お下がりください!」
「槍を持て!わしも昔は名の知れた武人だったのだ!あやつらに戦い方を教えてやろうではないか!」
コルン王自ら魔物達と戦う。しかし、王の護衛を固める兵達は、次々と倒されていった。
魔物も倒されてはいるものの、次々に襲来するその数は衰える事は無い。
倒れてはならぬ……倒されてはならぬ!
国王自身も魔物の攻撃を受け傷を負っていた。
すんでの所でリオンの射る矢が魔物を仕留める。
消耗戦が続く中、魔物の総大将が姿を現した。
鳥型の魔族……王国軍を絶望が襲ったその時だった。
「【インテンシブ・デオトルネード】」
巨大な高等魔法の竜巻が鳥型の魔族を襲った。
かわされはしたが、周囲の魔物を巻き込みその数を大きく減らしていく。
「そなたらは……!?」
「我々は旅の冒険者。コルン王国の危機に助太刀させてもらう」
偶然か奇跡か。リズ達がジュノーの町で出会った冒険者達が、コルン王国のピンチに駆け付けた。
「行くぞ、鳥の化け物!」
◆◇◆◇
ハクデミアント自体は怖くありません。今の私達なら通常の武器だけでも戦えるでしょう。
「一気に焼き払っちゃう?」
「それが早いかもな」
奥に、少し違う色をしたハクデミアントが控えています。
あれはきっと、兵隊アリです。
デミアントとハクデミアント。種類は違いますが、社会性は似ているようです。
「リズさん、戦わずにうまくコミュニケーションを取って、追い払ったりできないかな?」
「どうなんでしょう……私の前世でもあちらとは別物ですから」
クルス様からの提案ですが、難しそうです。
白アリと私の前世は、系統からして違いますし、コミュニケーションの取り方がわかりません。
「前世ってなに?」
「な、何でもありません!」
「気になるなあ」
そうこうしているうちに戦闘開始です。
クルス様とレド様は、襲い掛かって来たハクデミアントを次々と薙ぎ倒していきました。
『おのれ、人間共め……【ラウンドスライド】』
女王から詠唱の声が聞こえました。
ハクデミアント達は穴の中に避難し、空洞内が震えます。振動に足を取られ動けません。
天井からは無数の鍾乳石が襲い掛かってきました。
「【ラウンドシールド】」
メアリ様の作り出した魔法の盾が、鍾乳石から私達を守りました。
「危なかった……切り替えた詠唱が間に合ってよかったわ」
「まさか、女王が言語を解し魔法まで使ってくるとは……」
これにはクルス様も驚いたようです。
ハクデミアント達は再び穴から湧くように出てきます。
「リズちゃん、レドさん、クルス君、雑魚は任せたから!」
メアリ様は再び詠唱に入りました。
レド様とクルス様は手前のハクデミアントを、私は弓で奥にいるハクデミアントを狙います。
上手い具合に兵隊アリに命中させる事ができました。
「よし、みんな下がって!」
手前のハクデミアントを倒し、私達は後ろへと下がりました。
「【イグニション・デオインフェルノ】」
メアリ様の杖から放たれた火球が、手前に居たハクデミアント達を焼き払い、そのまま女王へと向かいます。
『ぬううう……!』
女王の姿があらわになりました。
デミアントの女王とは異なり、胴体が異様に長い不気味な姿をしています。
女王は火球を受け止めましたが、その熱で体が焼かれていきます。
「無駄よ。高等魔法が、そう簡単に破れるものですか」
『我は女王……人間などに負けるものか』
「受け止めた時点でアンタの負け。諦めなさい」
火球は燃え盛り、女王の体全体を包み込みました。
『済まぬ……我が子らよ……』
女王は涙を流しました。もしかして、悪い魔物では無い……?
思わずエプリクスを呼び出そうとした時、メアリ様は杖を振りかざして魔法を掻き消しました。
唱えた魔法を自分で消すという高等技術です。
「……リズちゃん、回復してあげてくれる?」
「わかりました」
デオヒーリングで、女王の体をある程度回復できました。
デミアントより生命力も高そうですし、とりあえずは命に別状は無いでしょう。
『……なぜ助けた?』
「アンタも母親なんだなって思って……それだけ。あとはここを通してもらえれば、これ以上危害は加えない」
『済まぬが、それはできぬ……』
女王は首を横に振りました。どうしても、ここを通せない理由でもあるのでしょうか。
魔王にそう指示されているとか……?
『恥ずかしながら、体がつかえて動けぬのじゃ……』
「え? あぁ、そっかぁ……どうしよう……」
通路に長い胴体が挟まってしまったようです。
後ろに下がる事も体の構造上難しいらしく、どうしようも無いのだとか。
「ハクデミアント達に通路を広げてもらったら?」
『何日かかると思っているのじゃ』
「このままじゃ、通れませんね」
何か良い方法は無いのでしょうか。岩壁が邪魔をしてるのですよね……あ、そうだ!
「【カペルキュモス】」
胸元の精霊石から、美しい女性の精霊が現れました。
その姿は、以前よりも魔王時代のものに近付いています。
『優しき主よ、なんなりと』
「岩壁をを削ってほしいんですけど、できますか?」
『ええ……できますけど?』
カペルキュモスは、指から出した水の刃を岩壁に沿わせます。
女王の胴体を傷付けないように、慎重な作業が続きました。
「リズちゃんごめんね。結局魔法使わせちゃった」
「大丈夫です。メアリ様こそ、大丈夫なんですか?」
私達が話している間も作業は続きます。
『済まぬな……』
『いえいえ』
女王とカペルキュモスも何か会話をしています。
ハクデミアント達は女王の無事を祈っているようで、もう襲い掛かってくる心配は無さそうです。
せっかくなので、ここで少し休みましょう。
しばらくすると通路の拡張は終わり、女王の胴体も無事に抜けました。
『これで大丈夫ですね。あなた、少しダイエットした方が良いと思いますわ』
『これ以上は無理じゃ……』
カペルキュモスは、光となり精霊石に戻って行きました。
「それじゃ、そろそろ行こうか」
「そうですね」
休憩も終わりです。私の魔力の消費も、思ったより少なくて済みました。
「結構な数倒しちゃって悪かったね」
『お互いさまじゃ……死んだ者たちは可哀想じゃが、また生んで増やすしかあるまい』
ハクデミアント達は持ち場に戻って行きました。結局ここに棲むんですね。
不気味に見えていた胴体も、触覚だらけの顔も、こうして見るとそんなに不気味じゃ無いような気がしてくるから不思議です。
『しかし、この奥に行くのは気を付けられよ。異様な気配が漂っておるぞ』
「忠告ありがとうございます。でも、私達は行かなくてはいけないんです」
ハクデミアントの女王に別れを告げ、私達は奥へと進んで行きました。
◇◆◇◆
目の前には、巨大な穴が口を開けています。
その穴に沿うように、らせん状に続く階段がありました。
「これで降りていくんでしょうか」
下を覗こうとしても、全く底が見えません。
「こんなところで敵に襲われたらひとたまりも無いな……」
「レドさんがそういうこと言うと、本当にそうなりそうで怖いわ」
「でも、他に進めそうなところも無い……慎重に進んで行こう」
階段は闇の中に続いています。手すりも無いので、気を付けなくては危険です。
奥から魔物達の鳴き声が聞こえます。
「この鳴き声は……!?」
「気を付けて、下から何か来ます!」
「「「キシェエエエ!!」」」
羽の生えた魔物が、一斉に飛び出してきました。
お読みいただきまして、ありがとうございました。
※誤字を修正しました。




