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45:ディア様と一緒

第45話です。

 翌日の早朝、あたしは修道院の裏でディア様を待っていた。


「お待たせ!」


 声がして振り向くと、そこには荷物をぶら下げて、超が付くほど庶民の格好をしたディア様が居た。

 なぜか、頭にほっかむりもしている。


「似合うかしら?」

「いいえ」


 似合うわけが無いでしょう! あなた一応、王族の方なんですよ!?

 そもそも、その服どうやって手に入れたんですか!? 名案ってそれなんですか!?


「やっぱり戻りましょう、ディア様」

「なんで!?」

「ここを馬車で出るわけにもいかないですし、アステアまでは長い道のりです。

 失礼ですけど、ディア様に耐えられるとは思えません」


 ディア様は、しゅんとして顔を伏せてしまった。

 書庫の事は気になるけど、ディア様を危険に晒すわけにもいかないしなあ……。

 すると、ディア様は突然ご自身の服の裾をまくり上げた。


「これを見ても、耐えられないとでも?」


 ニヤリと笑うディア様……そこには、王女様とは思えないほど見事に分かれた腹筋があった。

 ────何してんのこの人!?


「ずっと鍛えていたのです!腹筋、背筋、スクワット……疲れて眠るまで毎日やったわ!」


 外見からじゃわからないけど、よく見れば腕の方にもしなやかながらに筋肉が付いている。

 ぱっと見は、華奢な体と美しい顔立ちしてるのに。

 ロデオさんが生きてたら、こんなディア様を見て、きっと泣いてるわ。


「さあ、行きましょう」


 スタスタと歩きだすディア様。

 もう誰も、彼女を止める事は出来ない……。


◆◇◆◇


 あっさりと城門を出てしまった。

 帰ったら怒られるんだろうなあ……どうしよう。


「メアリ、もっと急いで!」

「わかってますよ~……」


 ディア様って、こんなに足早かったっけ? なんであたしの前歩いてんの?

 この調子なら、夜にはウィルクの町に着けるかもしれない。

 往復で最低でも四日から五日くらいか……修道院でも騒ぎになってるだろうなあ……。

 ん? ……あれは!


「ディア様!魔物です、下がって!」


 アントイーター!そういえば、この辺はこいつの住処だった!

 あたしは魔法の詠唱に入った。


「でりゃあ!!」

「グギャアア!?」


 ……ん?

 ディア様は、アントイーターの足にローキックをした。

 どこで覚えたの、それ!? 片膝を付いて崩れるアントイーター。


「────【フレイムゲイザー】」

「ギャアアア……」


 ディア様のフォロー(?)のお陰で、あっさりと魔物を仕留める事ができた。

 王女様ってなんだっけ。


 そんなこんなで、無事に町に辿り着く事ができた。

 コルンに帰った時の事を考えると怖いけど、ここまで来ちゃったし仕方ないよね。

 宿の部屋も取れたし、そこそこお金も持ってきているので、今日は飲みまくろう!


◇◆◇◆


「ほんっと、あの副院長のババア!いっつも私のこと馬鹿にしてさー!

 私が箱入り娘だからって、修練の時もできもしないくせにーって決めつけて!」

「あの……静かに飲みましょうね?」


 ディア様は絡み酒だった。

 どうしても飲んでみたいって言うから飲ませてみたら……あたしの中の王女様の幻想がどんどん崩されていく。


「意地でも上級まで回復魔法身に付けてやったわ!ねえ、メアリ!聞いてる!?」

「はいはい」


 上級回復魔法まで身に付けたって、素直に凄いな。

 この方、王家の出じゃ無かったら、名の知れた冒険者になっていたのかもしれない……。


「メアリもほら!飲んで飲んで!」

「あ、どうも~」


 しばらく飲んでいると、急に大人しくなって窓の外を眺めるディア様。

 何か物思いにでもふけているのかな?


「メアリ……」

「どうしました?ディア様」

「……気持ち悪い……」

「宿に行きましょう!」


 完全に泥酔してしまったディア様。

 足元もふらついて、引っ張って行くのも大変だ。


「……うぅ……」


 今度は泣き上戸? ……飲ませない方が良かったなあ。


「……ロデオぉ…………」


 ディア様を見ると、下唇を噛んで泣いていた。

 下を向いた瞼の上から、涙がポタポタと流れ落ちている。

 もしかすると……ここの町には、ロデオさんとの思い出があったのか……。

 思い出しちゃったのかな……。


「ディア様、もう少しで宿ですからね」



 ディア様をベッドに運ぶと、彼女は私のローブを掴んで離さなかった。

 部屋二つ取ってあるんだけどなあ……。

 しょうがない。そんな泣き顔で必死で掴まれたら、出て行くわけにもいかないね。

 あと、妙に力強くて振り解けないんですけど。


「……一緒に寝ましょうか」


 宿のベッドは大きく、あたし達二人が寝ても充分なスペースがあった。

 とりあえず、おやすみなさい。ディア様。


◆◇◆◇


 朝。


 なぜか、あたしのローブが脱がされていた。

 いや、ちゃんと他の服は着てるんだけど……隣で寝てるディア様の手に、ローブが握られている。

 どんだけ必死に掴んでるのよ。


 まあいいや。部屋に戻ろう。ローブは起きたら返してもらおう。

 あたしは荷物の置いてある自分の部屋に戻った。



 少しだけ寝て、ディア様を起こしに行った。

 彼女は、あたしのローブに器用に絡まっていた。



「さ、行きましょうか」

「この先、たしかアントライオンが出た場所だわ」


 マジですか!?

 目の前に広がる荒野、いかにも出そうな感じがする。

 高原に出たような化け物サイズじゃ無ければ倒せない事も無いけど、ディア様を守りながら戦えるかなあ……。



 しばらく歩くと、あちこちに細かい砂が散見された。

 アントライオンが出現した跡だ。ちょっと警戒した方がいいかもしれない。


「ディア様、疲れてないですか?」

「全然大丈夫よ!」


 あたしより体力あるわ、この人。

 どんどん進むと、魔物が襲い掛かって来た。こいつはリザード。

 そんなに強い魔物じゃないけど、牙があるから気を付けなきゃいけない。


「大きなトカゲ!」

「ディア様、下がって!」


 ディア様は、リザードの尻尾を掴んだ。そして、そのままぐるぐると振り回し始めた。


「このくらい、修道院の水瓶よりも軽いわ!」


 その水瓶、どんだけでかいんですか!?


「ギャアアア!!」

「あ……」


 リザードの尻尾が千切れ、そのまま逃げだしていった。


「この尻尾……まだ動いてる」

「す、捨てて下さい!」


 王女様ってなんだっけ。

 とりあえず、尻尾を持ったままあたしに近付かないでください!


 その後も、大した戦闘も無くサクサクと進む事ができた。

 途中でパンなどを食べながら、順調にアステアを目指していった。

 驚いた事に、夜明け前にはアステア城が見えてきた。

 崩れた城壁などが、当時の襲撃の凄惨さを物語っている。

 あたしも流石に歩き疲れた。ディア様は大丈夫なのかな?


「夜中に入るのは危険でしょうし、野宿になりますけど朝まで待ちますか?」

「どうせなら、このまま書庫まで行きましょう。そこで休んだ方が安全だわ」


 疲れて無さそうだ。修道女ってなんだっけ。



 真っ暗闇の中、アステアの城下町だった場所を進む。

 建物は崩れ、木造の建築物は朽ちてきている。ここが、かつて栄華を誇ったアステア国。

 ディア様は一体、どのような気持ちでこの光景を見ているのだろう……。


 廃墟と化したアステア城が、暗闇に浮かぶ。

 あそこの地下に、王家の者しか入れない書庫があるのか。


「キシュルルルル……」

「グルルルル……」


 魔物!?

 しかも複数だ。声の質からして、おそらく獣系の魔物だ。


「ディア様、気を付けて下さい」

「うん」


 あちこちから声が聞こえる。かなりの数が居そうだ……。


「ガァアアア!!」


 暗闇から一体の魔物が飛び出してきた。

 これは、ランプルウルフ!? 巨大なコブのある獰猛な魔物。

 ディア様に飛び掛かったそれを、あたしは持っていた杖で振り払った。

 その隙に肩を引っ掻かれてしまった。痛い。


 ランプルウルフは、次々と飛び出してあたし達を囲んだ。弧を描くように回り続ける。


「ディア様!今度こそ、あたしの後ろに隠れて下さい!」

「でも……」


 この魔物は、身体能力だけでどうにかできる魔物じゃない。

 一体ならまだしも、複数いれば中級冒険者以上でも苦戦する事がある。

 それに、まだ別の声の主が姿を現していない……とにかく、注意しないと!

お読みいただきまして、ありがとうございます。

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