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ダンジョン運営部 モンスター管理課〜ヤラセ冒険者にゴブリンのストライキ!?〜  作者: 雨宮 徹
シモン奮闘編

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第9話 亜種創造計画、予想外の結果

「新しいモンスターが欲しいと上から要望があった。エミリー、何か案はあるか?」


 カルロスさんが腕を組みながら、こちらを見てくる。その目には、いつもの面倒ごとを押し付けてやろうという光が宿っていた。


「そうね……。なかなか難しいわね」


 エミリーさんは珍しく言葉を濁す。いつもなら即答するはずなのに。やはり、ギルドの上層部が関わると話は別らしい。


 だが、僕には一つだけ、考えがある。


「こうしてはどうでしょうか。今までのモンスターの“亜種”を作る、というのは」


「亜種? 簡単に言えば派生系か……。よし、それでいこう。それなら――」


 カルロスさんは言いかけて、口をつぐんだ。きっと、「それなら手を抜ける」とか、そういうことだろう。だが、もう分かる。最近は、カルロスさんの考えていることがなんとなく見えてきた。成長している証だ。たぶん。


「そう簡単にいかないわよ。亜種というからには、既存種より多少強い必要があるわ。その微調整、結構時間かかるのよ?」


 エミリーさんは、理詰めでカルロスさんの甘さを指摘する。目が鋭い。まるで教育係のようだ。


「そうか? 色を変えれば、あっという間に亜種の完成だ。これなら、シモンにもできるはずだ」


 あ、それを言っちゃあダメだ、カルロスさん。


 案の定、エミリーさんがじと目で睨んでいる。


「何か閃きそうなんだけど……」


 でも、どうやらその一言が引き金になったようだ。エミリーさんの目が、じわじわと冴え始めている。あれは、何かを思いついたときのサインだ。


「あのー、群れのボスだけ色を変えてはどうでしょうか。冒険者にとっても、視認性が上がってメリットがあるはずです」


 僕は控えめに口を挟んだつもりだった。でも、その一言でカルロスさんがバンッと手を叩いた。


「シモン、それだ! うちにとっても大きなメリットがある!」


 ノリノリだ。珍しく僕の案が通ったことに、少しだけ胸が熱くなる。


「いえ、それはダメよ。今までのイメージが崩れちゃうわ」


 だが、エミリーさんはきっぱりと否定する。その表情は真剣だ。モンスターにも“世界観”があるのだ。冒険者にとっての慣れや警戒心――それが崩れれば、命にも関わる。


「でも、あのモンスターなら……」


「何か適任がいるのか?」


 カルロスさんの顔が期待でぱっと明るくなる。まるで子供のようだ。


「少し時間をちょうだい」


 エミリーさんはそう言い残し、静かに部屋を出ていった。その背中には、確かな自信が滲んでいた。





「これが、スライムの亜種よ」


 翌日、エミリーさんが戻ってきたとき、そこにはカラフルなスライムたちがずらりと並んでいた。水色だけでなく、黄色、赤、緑、紫と、まるでおもちゃ売り場のような見た目だ。


 だが、そのどれもが――間違いなくスライムだ。形状、動き、質感。どれをとっても、スライムとしか言えない。見た目のバリエーションだけで、ここまで印象が変わるとは。


「なるほど、これならいけそうだな。さっそく上に報告だ」


 カルロスさんはすっかり乗り気になっている。


「その必要はないわ。すでに話を通してあるから」


 やっぱり、エミリーさんは抜け目ない。仕事の段取りも、抜群だ。


「実践投入は明日からよ。亜種だから、少しだけ報酬を高めにしましょ」


「いいや、ダメだ。色違いなだけで報酬を増やしたらギルドが破産する」


 冷静なツッコミが入る。ジャスミンさんが現れたら、確実に止められるに違いない。


「しょうがないわね。代わりに今月の給料を増やしてちょうだい」


「色を変えただけで手取りが増えるなら、俺もやろうかな」


 カルロスさんはぼそっとつぶやく。冗談だろうが、なんだか本気っぽく聞こえるのがまた困る。





「さて、実践投入から一週間。冒険者側の反応はどう? ジャスミン」


 エミリーさんが紅茶を飲みながら尋ねる。午後の柔らかい日差しが、ギルドの窓から差し込んでいた。


「あのー、反応はいいんですが……」


 ジャスミンさんの声には、どこか歯切れの悪さが混じっていた。何か言いにくそうにしている。


「冒険者たち、スライム討伐をやめてしまって」


「討伐をやめた!? 嘘だろ……。反応はいいんだろ?」


 カルロスさんが目を見開く。まるで、冗談を言われたような反応だ。僕も同じ気持ちだった。


「彼ら、遊びだしたんです。スライムで」


「遊ぶ? 話が見えないぞ」


「カルロスさん、赤、緑、青を混ぜるとどうなるかしら?」


 エミリーさんの質問に、カルロスさんは真剣な顔で考えた。そして、ぽつりと答える。


「白だな」


「それが問題なの。スライムは、ドロッとしていて混ぜられるわ。つまり――」


「冒険者が白色のスライムを作ろうとしていると?」


 僕の言葉に、ジャスミンさんはうなずいた。


「シモンの言う通り。彼ら、白いスライムを作る遊びにはまっちゃったみたい」


 なんてこった……。


 けれど、エミリーさんはふっと笑った。


「冒険者が亜種を増やすなら、上も喜ぶんじゃない?」


 それもそうか。ギルドは想定外の結果にも、利益を見出すものなのだから。

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