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ダンジョン運営部 モンスター管理課〜ヤラセ冒険者にゴブリンのストライキ!?〜  作者: 雨宮 徹
部署間抗争編

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第16話 「植物管理課」の無茶振り

「今回は、『植物管理課』との共同作業だ」


 カルロスさんが手元の資料をトンと机に置く。普段は豪快なその動作も、今日は少し慎重だった。


 植物管理課。名前だけは知っている。ダンジョン内に薬草を配置したり、生態系のバランスを整える部署だったはず。でも、正直に言えば、彼らと関わった記憶はほとんどない。


「マンドレイクの配置についてだ。こいつはモンスターだが、見た目は植物だ。取扱いに注意しないと、悲惨なことになる」


 カルロスさんの声にはいつになく緊張感が漂っている。その目の奥には、過去に痛い目に遭った経験でも刻まれているのかもしれない。


「マンドレイクと薬草を見分けるのは新米冒険者には難しい。引っこ抜いて絶叫で気絶する……そんな未来が見える。だから、三層以降に配置しようと考えている」


 納得のいく判断だ。マンドレイクの悲鳴は凶器そのもの。訓練された冒険者でなければ、まず耐えられない。


「異議なし! それで、具体的な配置は『植物管理課』との打合せってこと?」


 エミリーさんが腕を組みながら、少し眉をしかめて口を開いた。どうやら彼女もこの共同作業には不満があるようだ。


「いや、すでに向こうから提案があった。しかし、これが問題でな……」


 カルロスさんは溜め息混じりに髪をかき上げ、「困ったことに、一匹にしろとの注文だ」と告げた。


 ……い、一匹?


 僕は思わず二度聞きそうになった。それじゃあ、いないも同然じゃないか。


「それで、『植物管理課』の狙いは何?」


 エミリーさんも、明らかに納得していない。ぷくっと頬を膨らませるその様子は、まるで怒った猫のようだった。


「『マンドレイクが珍しければ話題になる。そうすれば薬草採取好きも躍起になって探すはずだ』という考えらしい」


「つまり、マンドレイクは薬草採取を推進するためのマスコット、ということですか?」


 まるで装飾用の看板モンスターじゃないか、と心の中で毒づいた。モンスターを見世物にするなんて、どうかしてる。


 カルロスさんは無言で頷く。拳を握りしめ、悔しそうに。


「うちとしては、この提案を却下したい。『モンスター管理課』の沽券にかかわる」


 その一言には、課のプライドがにじんでいた。彼にとっても、僕たちにとっても、モンスターは単なるオブジェではない。


「提案を無視して大量に配置してはどうでしょうか。何も彼らの言いなりになる必要はないのでは?」


 思いきって提案してみる。僕たちの主張を示すには、強硬策しかないと思ったのだ。


「それはダメだ」


 しかし、カルロスさんは首を振った。


「え、ダメなんですか? どうして……?」


「昔、こっちが強引に動いて上から雷が落ちたんだ。その時は、給料が激減したと聞いている」


 思わず背筋が凍る。給料激減なんて、冗談じゃない。先人たちも、色々と苦労してきたのだ。


「じゃあ、薬草採取ミッションを減らすようにギルドに要請するのもダメってわけね……」


 エミリーさんも、肩を落としてため息をつく。八方塞がりというわけか。


 でも、何か、いい方法がある気がする。植物管理課の意見を尊重しつつも、こちらの面目を保つ方法――そうか!


「いい案を思いつきました!」


 ふと、アイデアがひらめいた。思わず身を乗り出す。


「シモン、どんなのだ?」


 カルロスさんの声が少し期待に満ちていた。


 少し間をおいてから、二人に耳打ちをする。内容を聞いたエミリーさんの目が輝き、カルロスさんはニヤリと口角を上げた。


「それでいこう」





「シモン、でかしたぞ! 『植物管理課』の連中がカンカンに怒っている!」


 カルロスさんが笑いながら背中を叩いてくる。その力強さに、少しだけよろけてしまった。


「本当ですか!? やった!」


 思わず、小さくガッツポーズ。心の中で勝利のファンファーレが鳴り響く。


「『植物管理課』の注文に沿いながらも、うちのプライドを守るなんて。シモンもやるじゃない」


 エミリーさんがニッと笑いながら、勢いよく背中をバシンと叩いてくる。……やっぱり、ちょっと痛い。


「作戦成功ですね。『最初の採取ポイントに置く』という作戦が」


 そう、答えは単純だった。最初の採取ポイント、すなわち誰もが最初に通る場所にマンドレイクを一匹配置する。それだけで、発見率は飛躍的に上がる。珍しさも話題性も維持できて、誰も文句を言えない。


「よーし、今日は俺がおごるぞ! 『植物管理課』をやり返した記念にな!」


 カルロスさんの言葉に、僕とエミリーさんは顔を見合わせ、にやりと笑った。


 今日の酒は、きっと格別にうまいに違いない。

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