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~閑話~

世界会議・晩餐会が終わり、自室に戻った俺はバルコニーに出ていた。

今日は一日、色々な事があったな。中でもジーク殿下は傑作だった。

ふふっ、カッコ良いエリートが出し抜かれるのって楽しいよね。

特に色恋の話はなおさら・・・。

いやいや、何を考えているのだ俺!

ジーク殿下をそういう対象に見ていることになるじゃないか。

・・・おかしいおかしい。

俺は、出来るならこの世界を救って元の世界に帰りたい。

この世界は、窮屈だし、責任が重い。それに娯楽も無いし、自由も無い・・・。

元の日本に戻れば、スマホはあるし、仕事もある・・・、

やりがいも・・・やりがいは特にないな。

繰り返される毎日に、偶に友達と会って・・・しばらく会ってないな。

ふと空を見上げると満天の星空・・・これは東京には無いな。

「綺麗だな、ここは・・・」

と思わず声が零れていた。


すると、突然”ガサガサっ”と物音がしたので振り向くと、ダイナ団長が飛び降りて来た。

え、屋根から!!


「シン様、貴女ほどの美しい方が綺麗とは、何を見惚れているのですか?」

何事も無かったように、さらっと歯の浮くようなセリフを決めて来る。

聞いているこっちの方が恥ずかしいよ。

「空を見ていました。」

「空? ふむ、特に何の変哲も無いいつもの空ですが?」

「私のいた世界には、この様な美しい星空は見られませんでしたから・・・」

「では、いつまでもこの世界で私と伴に暮らしていきましょう。」

そう言うと、ダイナは私を抱き寄せた。

いつもと違う団長だな。

まるで女性を口説いている様だ。

・・・っ。口説かれているのか?

「俺って男ですよ!」

「知ってます。」

そう言うと、団長はクイっと俺の顎に触れ正面を向かせた。

「目をつぶってくれないか?」

「嫌ですよ。」

「キスするから目をつぶってくれ。」

「だから嫌ですって!」

”きょとん”としている団長。

断られるとは思っていないかったのね。

「クスっ」と思わず噴き出してしまった。

団長の顔が面白過ぎる。

「あはははっ、駄目だな。どんな口説き文句も貴女には通用しそうもない。」

(いや、普通に無理だろ。)

意を決した団長は、それでもグイグイ押して来る。

「なぁ、シン。明日、俺たちは出征する。卑怯な口説き方だが、俺のものになってくれ。」

真面目な顔になった団長が、砕けた口調で真面目に話をする。

これが本当の団長なんだなと思う。

100年ぶりの魔物達との戦争だ。

例え最強の男でも所詮は人間、生きて帰って来れる保証は無い。

それに、彼にかかる重圧は想像も出来ないくらい重いのだろう。

それは分かるが、・・・分かるが、団長の気持ちに応えることは出来ない。

それとこれとはまた別の話だと思う。男同士だしさ。

「俺は、珍獣では無いので、記念にはなりませんよ?」

「・・・・・。」

困った顔になる団長。少しだけ可愛い。

「それに大丈夫ですよ。もし、俺が本当の天子なら必ず貴方を助けます。

 貴方を助けられないなら、俺はタダの異世界人ってことです。」

「それでも良いって言ったら?」

「え?」

「いや、何でもない。続きは帰ってからにする。」

「それでこそ団長です。」

まだ続くんだと思いながらも、俺は団長の頬に手を当て優しく撫でた。

一瞬”ビクッ”としながらも、破顔する団長。

今日のダイナ団長は、本当に可愛い。俺が女性ならキスしていたかも・・・。

「逆に踏ん切りがついた。必ず生きて帰って来るさ。」

そう言うと、ダイナ団長はバルコニーから、さっと飛び降りて行った。

そして、片手を振り上げ颯爽と去って行った。

うん、カッコ良いな。少し胸がズキリとした。なんだろうこの胸のモヤモヤは?

強い男への対抗心は、もう何処かへ行ってしまった。

そして、妙な愛おしさと庇護欲が芽生えて来ている。

ふと、胸に張を感じたので摩ると、少し膨らみが増している・・・気がする。



□□□□



「ああ~、気持ち良い~!」

お風呂ってサイコーだ!

ふふふっ、湯船につかるとやっぱり、日本人だなーと思う。

何でも、前天子様もお風呂が大好きで、その影響から徐々に広まって行ったそうだ。

先代さんは間違いなく、俺と同じ日本人なんだろう。

水魔法と火魔法が使えれば、比較的簡単にお湯を沸せられるのも普及の一因だ。

中世欧州の世界は、お世辞でも衛生的とは言えない。

ここは素直に感謝したい! よくぞやってくれました。


「ふ~、・・・。」

ちょぽん、ちゃぽんと水遊びをしながら考える。

この世界は、やはり日本とは全く違う世界なのだろう。

文明的にも文化的にもどこかちぐはぐだ。

それに、中世なら絶対王政の世界なのに、切羽詰まった圧迫感が無い・・・まるでコミックやゲームの様に都合よく作られた世界だ。


「・・・。」

ちゃぽん。

止めだ。

一人になるとどうしても深く考えてしまう。

今は、お風呂を楽しもう。

王族や貴族の場合は、お風呂でも侍女・侍従さんがお世話をするらしい。

俺は勿論そういうお世話は断った。

お風呂は一人で入るものだ。

侍女・侍従さんにかしずかれて、しかも一人だけ裸で入浴なんて無理だよ。

まぁ、浴場は俺一人だけれど、間仕切りであるカーテンの向こうに皆さんが待機している。警護のため仕方がないのかな?・・・シルエットは丸見えだ。

でも何も無いよりは随分ましだ。

逆に色っぽく見えたりして・・・。


「 ♪~ 」

良いお湯だ。思わず鼻歌も漏れ出てしまう。

「 ♪~ わたしは、もう誰も愛せないわ~ あの人を失ってからわ~ 」


”ガタン”とカーテンの向こうで物音がした。控えの者達に密かな動揺が広がる。


「 ♪~ 貴方は とても優しい人ね~ もう少し早く出会えていたら~ 」


気持ちよく歌っていると、ラインハルトが哀し気な口調で訊ねて来た。

「シン様、何か大変な事があったのですか? 」

そう言えば、今日の当番もラインハルト、アンネローゼ、そしてオズワルドだ。

うん、共通項は、女性か元女性だね。

なんとなく意味は分かる。

さすがにお風呂上がりの肢体を男性にさらす訳には行かないからね・・・?

逆だ!

男じゃないと駄目なんじゃないか!?

いや、俺の自意識過剰か・・・。

取り敢えず、「特に何もないけど?」と返しておく。

すると、ラインハルトが、俺に何か辛い事でもあったのかと心配だと言う。

いや、単なる唄だから・・・、ん? 唄って無いの? この世界には無いの? 

カーテンの向こうでは、何やら不穏な空気が満ちて来た。

いやいや、恋人と死に分かれた訳でも無いし、そこを誰かに突け込まれそうになっている訳でも無いよ!

単なる歌詞だから。

とにかく、深い意味は無いことを念押しするために、直ぐに湯船から出ることにした。

取るものも取り敢えず、バスタオル一枚で出ると、三人は目を丸くして固まってしまった。


「御免なさい。お目汚しですね。」

「「「滅相もございません!」」」


さっきの鼻歌は、吟遊詩人の物語のようなものだと力説したが、誰も話を聞いていなかった。

それどころではない・・・と。

三人ともあたふたしている様子はおかしかった。

ん?

俺が、女性化しつつあるとしたら、アンネローズは別に良いよね?

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