第8話 聖女とファーストダンス
聖女
伝説や物語に登場する聖なる能力を持った美少女の総称。
エリアスもそうした聖女の一人だ。
彼女は、ウエストニア国で平民の家に生まれた。
幼いころは普通の子供となんら変わることなく平凡に育った。
しかし、両親の事故を切っ掛けにその能力が目覚め、皮肉にもその両親と引き離されることとなった。
彼女の能力は、全治回復魔法と浄化能力であり、古より伝えられている聖女のそれと同じである。
しかして、聖女と認められたエリアスは国の宝となり、これまでの平凡な生き方は許されなくなった。
まず、ウエストニア国は彼女を某男爵家の養子とし、全面的な管理を行いつつ聖女としての育成を行うことにした。
エリアスにとっては辛い生活が続いた。
そして、彼女が15歳となり、魔法学園に通うようになると、人生の転機が訪れた。
学園は、平民出身の彼女を必ずしも暖かくは迎えなったが、王太子と出会い瞬く間に二人は恋に落ちた。
二人の絆は聖女の力を高め、その力により傷ついた人々を救い、瘴気を清め、聖女としての役目を果たし続けた。
忙しくも充実した日々であったが、その幸せは長くは続かなかった。
聖女の活動は、想像以上にエリアスを消耗させており、その魔力は尽きつつあったのである。
無理をし続けていたエリアスはやつれ、衰えていった。
そして、遂に彼女は自室から出ることも難しいまでに衰弱してしまい、王太子とも会うことは無くなったのである。
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「うん、ありがとうエリアス、ダイジャスト版を聞かせてくれて。(笑)
辛かったね。 それで、もうウエストニアには帰りたくないのだね?」
「はい、天子さま。ですから、これからず~と御側に置いて下さい!」
何食わぬ顔で自分語りを終えたエリアスは、自国には戻りたくないと駄々をこね始めた。
「お、俺は、別に良いのだけれど…」
そう、今俺たちは、ウエストニアの人達に囲まれている。
傍らにいるエリアスはご機嫌で半生を語ってくれたけど・・・。
彼等から言わせれば、国の宝である聖女様を返してほしいとの事だ。
利権と政治がらみが透けて見える。
「エリアス様の気持ちは分かったけれど、王太子殿はどう考えているのですか?」
すると、ジークフリード様にも負けず劣らずの美男子が、虚を突かれたように驚き、しどろもどろに話し出した。この人が件の王太子なんだね。エリアスの方を見ると軽くコクンと頷いた。
「わ、私は、聖女様のお好きなようにされたら良いと考えます。」
すると、隣のおっさん(国王)が”これこれ”と嗜める。
俺は、それを一睨みして牽制し、「王太子殿は、エリアス様のことを愛しているのですか?」
と張り付けた笑顔で問い直す。
「エリアス、私は、貴女を愛している。愛しているが、貴女を護れなかった。
そんな私がどうして戻って来てほしいなどと言えるだろうか・・・。」
はいはい。御馳走様。
チラッと横目でエリアスを見る。
すると、エリアスは能面の様に無表情で横を向いていた。
(え! そんなに・・・。)
これは、駄目だね。覆水盆に返らずかな。
「ふう、当面私が聖女様をお預かりします。」
すると、エリアスは”パ~”と笑顔をになり「ヤッター!」と私の腕を取った。
ウエストニアの面々は深いため息を漏らし、すごすごと去って行くしかなかった。
ただし、王太子だけはしばしその場に残り、「必ず迎えに来る」と言い残して去って行った。
「良い判断ね、エリアス様。」
意外にも、真っ先に声を掛けたのはクローディア王女だった。
「そうかしら。」とちょっと拗ねたように答えるエリアスに「あら、貴女、意外と可愛いのね」と返すクローディア。
俺には、二人の会話の真意が全く分からないが、この二人が意外と仲が良い事だけは分かった。
■■■■
しばらくして、ダンスの演奏が始まった。
途端に動き出す紳士・淑女達。
この世界では、ファーストダンスには深い意味がある。
「天子様、どうか私に栄えあるファーストダンスの役目を御与え下さい。」
と声を掛けられた。
ま、当然ジーク殿下ですよねと思ったが・・・あれ、そのジーク殿下を押しのけて、俺に手を差し出したのは、クローディア王女であった。
なんと、ジーク殿下は押し出されてよろけている。
隣でダイナ団長が”プっ”と笑っている。
(後で怒られても知らないよ。)
あゝ、団長も今日は正装しているのですね。意外と似合っている。
「良いのですか? 私は男性パートは踊れませんよ。」
だって、教えてくれなかったからね。
「大丈夫ですよ。男性パートは私、得意ですから!」
そうだ。クローディア王女は元男性でしたね。
俺は、そっとクローディア王女の手を取った。
唖然とするジーク殿下を尻目に二人で中央へ移動する。
”ふふっ”と悪戯ッ子ぽくジーク殿下に笑いかけて。
そう簡単にお前のものになるものか・・・な~んてね。
男女逆転のファーストダンスは、注目を集めた。
僅かに感じられるぎこちなさも2人の優雅さがカバーしており、各国の要人達も目を見張っている。
煌びやかな2人を見ているだけで幸福を感じられる。
一曲目が終了し、盛大な拍手とともにファーストダンスは終了した。
そして、静かに次なる戦いが幕を開ける。
セカンドダンスは逃せない。
それが男達の思いだ。
それぞれが、自国ではそれなりの地位にあり、容姿も優れ、人気もある。
セカンドダンスは自由競争だから、それゆえに男性側からの熱意を明確に伝える場となる。
いや、シンに対しては事実上のファーストダンスと目されだろう。
場所を取りつつ、回りを威嚇する。
主賓席に戻って来るとは限らない。
スタートダッシュは、コンマ1秒の世界だ。
そんな男性陣の思いを全く気付かず、シンとクローディアは談笑しながら戻って来た。
「「「 シン様! 」」」
と3人の猛者が声を掛ける。
ジーク殿下、ラインハルト、そして、笑いをこらえながら手を差し出すダイナ団長。
団長に限っては、冗談のつもりなんだろうけど、さっきから殿下の機嫌が悪そうだ。
それと、ラインハルトの申し出はちょっと嬉しい。
いつもお世話を焼いてくれるから、実は嫌われているかもと心配していたの。
まぁ、しかし、3人同時に申し込まれたら選べないよ。
(・・・困った。)
すると、エアリスがつかつかっと寄って来て「お腹がすきました!」と訴えて来た。
もちろん、彼女は礼儀作法をわきまえている。知っていて俺を助けるためにワザと言ってくれたのだ。
主催者側は、来賓である聖女様をもてなさず、空腹のまま放置なんて沽券にかかわる。
すかさず、クローディア王女が「では、お食事に参りましょう。」と助け舟。
やはり、この二人は仲が良いと思う。
まあ、でも国家行事だから、後でジーク殿下と踊りましょうか。




