第6話 ハカ(戦いの舞踊)と祈り
~出陣式~
変わり始めた世界。
前天子の力がほぼ消滅し、世界に異変が起こり始めていた。
最も顕著なことは、魔物の出現だ。
平和な時代は別れを告げ、戦いの時代が来たのだ。
この国においても軍備の増強が計られ、今、新たな兵士が派遣されようとしている。
私は、外の物々しい雰囲気が気になり屋上の展望台に向かった。
展望台から見下ろすと、既に大勢の兵士達が広場で整列していた。
どうやら、今回の式は叙任式も兼ねており、精悍な兵士達の隊列とは別に、初々しい若者達がいる。
その前面には、国王陛下、王族、騎士団・兵団幹部が居並ぶ。
そして、式は粛々と進む。
俺は、ポツリと呟いていた。
「私に何か出来る事はないだろうか?」
”天子さま、天子さま”と祭り上げられているけれど、俺がしたのは魔力塔に灯を点けただけ。
う~ん、タダ飯ぐらい? 日本人気質がこんなところで疼きだす。
働かざる者食うべからずなのだけど、働き方が分からない。
何となく、魔力と言うものが漲っているのは感じるが使い方が今一分からない。
誰も何も催促もして来ないしね・・・。
「天子さまが気に止む事はありません。彼等は、自ら志願し、自らの意志であそこに立っているのですから。」
自身も兵士であり、今は護衛騎士でもあるマクシミリアが兵士の稔侍を含めて慰めてくれた。
そう。俺に出来る事は何も無い。
「せめて彼等の為に近くから祈りたいのだけれど・・・、」
「では、あそこの木陰に向かいましょう。気取られずに傍まで行けると思います。私に付いてきて下さい。」
オスカーが、先導して連れて行ってくれる。
オスカーは、いつも気が利いている。はしっこいのは天性のものだろうね。
移動し木陰から伺うと、在任兵士達から若者達に向けての”ハカ”が行われていた。
”私は死ぬ 私は死ぬ
私は生きる 私は生きる
見よ、この勇気ある者を
この勇気ある者が
太陽を呼び輝かせる
一歩上え、さらに一歩上え
そして空へ そして天へ
太陽は輝く さあ、立ち上がれ”
なんだろう。
意味はよく分からないが、妙に心に突き刺さる。
あの中の誰かが死ぬと言う事実が、この”ハカ”にも込められている。
俺も、そっと祈りを捧げる。
そんな大層なものではない。
俺に出来るのはこれだけだ。
ただ彼等の無事を願うだけ、彼等の縁者の思いを・・・どうか、無事で帰って来てほしい。
すると、シンの合わせた掌から優しい光が広がって行く。
そして、戦地に赴く若者達を包み込んだ。
:防御力+5
:状態異常減+3
どこかで機械的な音声が流れた。
”おおー、何これ!”
”凄いぞ!”
”力が湧いて来た”
と若者達が興奮気味に話す。
オスカーとマクシミリアは、驚きお互いに顔を見合わせた。
すると、さっとその場に跪き俺を見上げた。
「天子さま、ありがとうございます。」
「彼等に天子様の御加護を与えて下さったのですね。」
俺は、恐縮しつつ、「立ってよ、大袈裟だよ」と2人を立たせようと
した。
しょぼい効果で逆に申し訳ないよ。
もう少し派手な効果なら・・・いや、贅沢は言わない。
ほんの少しでも効果があるのなら、こんな嬉しいことは無い。
「うふふっ」思わず笑みが零れてしまう。
ところが、そんなやり取りが注目されているとは気付かず、俺達がいる事が皆にばれてしまった。
一斉にこちらを見つめる参加者達。
落ち着け俺。
誰も俺が異世界人だとは知らない。
単なる覗き見と思われているだけだ。
しかし、これではせっかくの出陣式に水を差した不審者?になるね。
(もう一度だ!)
俺は、目を瞑り胸元で手を合わせ、心から彼等の・皆の無事を祈った。
すると、先程より遥かに明るい光が降り注ぎ、若者達のみならず、居合せた皆を優しく包み込む。
:天子の加護+5
また、どこかで機械的な音声が流れた。
ん? 今度は”天子の加護”と曖昧な表現だ。効果は何だろう?
これって、全員に聞こえているのだろうか?
"天子さま!"
"天子さまが我等に加護を与えて下さった。"
”あれが天子さまなのか、初めて見た!”
”え! めっちゃ可愛い!”
式場は、にわかに盛り上がり、熱い視線がこちらに向けられた。
こうなっては、もう逃げようもない。
俺は、頭からローブを外し、ゆっくり手を振った。
「あははっ、邪魔しちゃってごめんなさい。」
奥まで届かないか細い声だけど、謝っておきます。
遠くの方で、ジーク殿下は渋い顔で首を横に振っている。
ダイナ団長は、嬉しそうにニコニコとして手を振り返してくれている。
ラインハルトは、・・・血相を変えて走り出している。
こちらにやって来たラインハルトは、ぶつぶつ文句を言いながら俺を抱きかかえ、驚く俺に構うことなく、攫うように連れ去った。
「あなたと言う人は、自分を全く理解していない。狼の群の中に顔を出す羊がいますか!」
「羊って?」
俺は、少しでも役に立てて嬉しくって仕方がなかったのに、ラインハルトの慌てぶりが全く理解出来ないでいた。
「私ですら、身の危険を感じた事が何度もあるのですよ。ましてや…」
ラインハルトは、オスカーとマクシミリアにも雷を落とす。
「お前達が付いていながら・・・。」
会場の熱気から遠ざかり、冷静さを取り戻す。
こんなに焦っているラインハルトは初めてだ。
そして、ラインハルトは「これであなたを隠しておく事はできなくなった。」と深いため息を吐いた。
事実、この後、公式行事に駆り出されることになるのだ。




