第2話 魔力塔の灯
■■■sideジーク
天子さまが目覚めたとの知らせが入った。
「先触れを出せ」
と指示を出しつつ、私は直ぐにやりかけの書類を伏せ、身支度を始めた。
天子さまは、召喚の日から3日間寝たきりであった。
”やっと会える。”
多忙のため、信頼する側近のラインハルトに預けはしたものの気が気では無かった。
ふと、傍近くの侍女・侍従に無意識に問うていた。
「おかしいところは無いか?」
身だしなみが気になったのだ。
皆、ニコリと微笑み大丈夫だと言う。
「では、参ろうか。」
心がざわざわする。
天子さまが召喚された時、誰もが息を飲んだ。
”美しい。”
私の五感の全てで感じた。
霰もない姿を晒すのは本位では無かったであろうが、それでも私は幸福を感じずにはいられなかった。
そして、天子さまが地に臥されようとする時、体が勝手に動いていた。
既に私は虜となっていたのだろう。
抱き止め、その体に触れると同時に自分だけのものにしたいという欲望が湧き上がる。
こうなっては、公平、公正など綺麗事に過ぎないのだなと思う。
しかし、私は決して奴等の様にはならない。
”天子の力が尽きる時、瘴気が溢れ、魔界の者が跋扈し、世界は滅ぶ”と言われている。
私は、必ず防いで見せる。どんな事をしても・・・。
■■■sideシン
沈黙を破ったのは、王太子の先触れだった。
すると、俺は夜着から軽装に着替えさせられた。
人に着替えさせて貰うのって気分の良いものじゃないね。
・・・うっすらと記憶を辿ると、気を失う前は裸だったような気がする。
そうすると誰が夜着を着せてくれたのだろうか?
下着もはいていなかったよね?
気を失っていたのだから、ありがたいのだけれど。
ほどなく、ジークフリード殿下 = キラキラの王子様が現れた。
助けてくれたのはこの人だ。
つまり、裸も見られているってことね。気まずくて顔を合わせ辛い。
「皆、楽にしてくれ。急に来て済まなかったな。」
意外とラフな感じなんだな。
畏まる皆さんの手前、俺も立ち上がろうと思ったが、上手く力が入らずよろよろとしてよろけてしまった。
すると、すかさずラインハルトが抱きしめ、元の位置に座らせてくれた。
その間、わずか数秒。
ラインハルトを見るとニコリと微笑んで頷いている。
じっと座ってろって事だよね。
ん?なんだかジークフリード殿下の目つきが鋭くなった様な・・・。
ところが、俺と目が合うとジークフリード殿下はおもむろに顔をほころばせ、
「天子さま、私はこの国の王太子ジークフリードと申します。我が国の召喚にお応えいただき感謝します。」
と言いながら、さらに近づき続ける。
「お名前を伺っても?」
「はい、黒崎眞と申します。シンとお呼びください。」
すると、ジークフリード殿下がおもむろに片膝をつき・・・うん、このくだり二回目だね。
~ 省略 ~
取り敢えず、俺は大層な申し出は軽く受け流すことにした。
まだ何者かも分からない異世界人?の俺に、一国の王子がすることではない。
逆に、それほどこの国は追い詰められているのかなと思う。
おそらく、俺にとってろくでもない話であることは間違いないだろう。
さて、俺の世話をしてくれるチームは、先ほどから側にいてくれるラインハルト・フォン・グランデ(グランデ侯爵家嫡男)、侍従のオスカー・ウォルト(ウォルト子爵家次男)、侍女のアンナローゼ(平民出身)、専属護衛騎士のマクシミリア・デラート(デラート男爵家嫡男)で、護衛騎士は他にもおり交代で警護してくれるそうだ。
みなさまには、”宜しくお願いします。”と改めてお願いし、ジークフリート殿下には”今、自分が知っておかなければならないこと”を教えてくれるように頼んだ。
すると、「うむ。では手始めに城内を案内しよう。」とジークフリート殿下はニコっと笑った。
「殿下、シン様はまだ体力が回復しておりません。」
とラインハルトが助言する。
「そうか、ならば、」
と言うが早いか殿下は俺をひょいと抱き抱えた。
(え?)
驚いて思わず王太子に抱きついてしまった。
姫抱っこ率高くないか?
慣れて無いと言うか、不安定で怖いと言うか・・・とても恥ずかしい。
ラインハルトに目で助けを求めたが、伏し目がちに首を横に振っている。
あゝ、ダメなんだね。
風を切って歩くジーク殿下を誰も止められない。
色々と案内してくれたが、テキパキとスムーズで、慣れていてとてもスマートだ。
さすが王子様・・・そして、その間もず~と姫抱っこ。
すれ違う人達は道を開け、婦女子達は顔を赤らめガン見してくる。
何かの罰ゲームのように恥ずかしい。
階段を登り、屋上に出ると解放的な空間に着く。
ここが最終目的地の様だ。
「さあ、見てくれ!ここからなら城下を見渡せる。」
「お、降ろして下さい。」
”私の世界では、結婚式でも無い限り、このように成人した者を抱きかかえることなどない”と、真っ赤な顔で頼み込んだ。
そして、ようやく俺の羞恥心に気が付いてくれた。
・・・しかし、降ろしてはくれたが、殿下の腕は俺の腰に回されたままだ。
支えてくれているのだろうが、密着し過ぎではないだろうか?
自慢じゃないが、物心ついてから他人と密着することなんてほぼ無かった。
大抵の日本人はそうだろ?
だが、目線を城下町に移すと、目の前に広がる街並み。活気立ち、行き交う人々。
さらに、その先に続く広大な大地。そして、青く美しい空模様。
今、この瞬間が現実であることを確信する。
「きれいな国だね。」
自然と言葉に出ていた。
言葉遣いが普段のものになっていたが、ジークフリード殿下は気にする様子も無く、
「そうだろう。私はこの国を守る。どうか力を貸してほしい。」
と王子様スマイル付きで見つめられた。
俺は、目をつぶり大きく息を吐いた。
女子ならこのスマイルにやられるのだろうけど・・・俺、男なんで・・・。
まぁ、それでも自分に何ができるのか試してみたい気にはなった。
「俺に何か出来ることはありますか?」
「祈りを、この国の為に祈ってほしい。」
言われるまま、俺は胸元で両手を結び、深く、深く深呼吸する。
そう、まるでどこかで見た祈りを捧げるポーズの様に・・・。
すると、胸元から光が放たれ、エネルギーの波動でやわらかな風が起こった。
自分自身でも驚いた。
どうして? 何が起こった?
ただ何となく・・・自分の力だと分かっただけ。
そして、その放たれた光は輪の様に広がり、やがて、少し離れた塔の頂上に灯が点った。
偶然では無い。おそらく、本当に俺の力で何かが発動したのだろう。
付き従っていた者達が歓声を上げる。
「「 おおー、魔力塔の灯が!」」
俺は、魔力塔と言われる塔を凝視し考える・・・、あの塔に何かあるのだろうか?
思案中にジークフリード殿下に問いかけられる。
「これが先ほどの答えと受け取っても良いのですか?」
「・・・・・・・・・。」
俺は、答えられなかった。
ただ、精一杯の笑顔を作っただけ・・・。




