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Living Dead Lady 〜死体令嬢は死霊魔術師をひざまずかせたい~  作者: 貴様 二太郎
番外編

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39/44

独善少女は変貌する

ホラー要素ありのバッドエンドです。

苦手な方はご注意ください。

「あいつさ、ムカつかね?」

「あいつって?」

(あずさ)。なんかさ、誰にでもいい顔してさ、うっすいんだよね」

「あー、なんかわかる! あの子さ、悪口とかもノリ悪いよね。男にもいい顔ばっかしてさ、在原(ありはら)にとかだってさぁ……」


 ――嘘。

 梓、在原くんにそんなことしてんの? なにそれ、めちゃくちゃムカつくんだけど。あいつ、私が在原くんのこと好きだって知ってるくせに。許せない。先に好きになったのは私なのに、自分は気のないふりして、陰で私のこと笑ってたの?


「ねえ、それほんと? 私、梓に在原くんのこと相談したりしてたんだけど」

「うわっ。それほんとならサイテーじゃん、あいつ。ちょっと言ってやろうぜ」

「うんうん。私たちもついてったげるからさ、勇気出して行こ!」


 そして私はあの日、あの子に釘を刺しに行った。まさか、あんなことになるなんて思いもしないで……



 ※ ※ ※ ※


 

 梓が死んだ。私の目の前で。止めたけど、間に合わなかった。

 血まみれで転がるあの子を前にして、私は逃げた。救急車のサイレンが近づいてきて、怖くなって逃げた。

 翌日、梓の机に白菊が一輪飾られていて。それと先生の言葉で、私はあの子が死んだことを知った。


 すごく、怖くなった。

 あの日、私が梓ともめてることを知ってる子たちがいたから。いつ私が悪者にされるか、気が気じゃなかった。いつそれが在原くんに知られるか、不安で仕方なかった。


「私は止めたのに、梓が無視したから」


 そうだよ。私は止めたのに、梓は聞いてくれなかった。


「私は悪くない。殺したのは車の人だし、私はちゃんと止めたし」


 だから、私のせいじゃない。

 学校へ行くのに必ず通らなきゃいけないあの横断歩道を通るたび、私は自分にそう言い聞かせてた。

 私は悪くない。悪くない。


 なのに。信号の横に供えられた菊の花は、いつも私を無言で責めてきて。正直ムカつく。まだ二年以上ここを通らなきゃならないのに。早く忘れたいのに。


「最悪」


 なんで私ばっか、こんな思いしなきゃなんないの。

 だいたいさ、梓にひどいこと言ったっていうんならあの二人だって同罪だし。なのに最近、あいつら私のこと避けてるし。私だけ悪者にするとか、あいつらもサイテー。


「梓のせいで……」


 足下の菊を睨み付けて吐き出したそのとき、急に気温が下がった。ぞわっとした冷たい風が道路の方から流れてきて、顔を上げたら――


「う、そ……」


 あの子が、いた。

 道路の真ん中でぼうっと立って、こっちを見てた。


『そんなのってさ、なくない?』


 どこ見てるかわかんない真っ黒な目で、こっちを見ながら。


「ちがっ……私のせいじゃ、ない!」


 だって私、ちゃんと止めた! 無視したのは梓でしょ‼

 

『帰ってきたのに……帰ってこれたのに……』


 やめてよ。なんで帰ってなんてきたりなんかしたの? 死んだなら、死んだままでいてよ!


『帰りたい、帰りたいよぉ……』


 もう、無理だった。あの子の恨めし気な言葉をこれ以上聞くのも、その姿を見ているのも。怖くてたまらなかった。

 一瞬、梓の姿が二重にブレて、そこからゆらりと影みたいに真っ黒な何かが生まれた。それはゆっくりゆっくり、でも明確に私へと近づいてきていて。

 もう、限界だった。だから走った。全力で、全速力で。ここから、あの子からもそれからも逃げたくて。


「バカっ、危な――」


 在原くん⁉

 毎日追ってた声に振り向いたら、そこにはやっぱり在原くんがいて。


「在は――」


 でも、すぐに見えなくなった。目の前が真っ暗になって、気がついたときには体中が痛くって。動けないし痛いし周りはうるさいしで、もうわけわかんない。痛い……痛いよぉ……なんで私ばっかり……

 近づいてくるサイレンの音を聞きながら横たわる私を、さっきの真っ黒な影が見下ろしてた。


「私が何したっていうの……こんなの、ひどい」


 私は悪くないのに。なのにこんなことするなんて、ひどすぎる。私は悪くないのに。止めたのに勝手に飛び出した梓が悪いのに。今さら帰ってきて、こんなのひどい。


「……さん、わかりますか? 自分の名前、言えますか?」


 うるさい! 消えろ、消えろ消えろ消えろ‼


「悪いのは梓でしょ! 私は悪くない‼」


 そこで私の意識はぷっつりと途切れた。



 ※ ※ ※ ※



 あの日から三カ月。瀕死だった私は、医者も驚く驚異的な回復力でなんとか退院までこぎ着けた。これからリハビリとかまだあるけど、ひとまずはほっとした。結局あの影が出たのはあのときだけだったし、今はもう見えない。学校にも復帰したし、あとは遅れた分を取り戻すだけ。

 そのはずだった。だったのに……


「なんなの、いったい」


 この頃やたらとお腹が空く。三食ちゃんと食べてるのに、全然お腹いっぱいにならない。しかもなんかやたら力が強くなってて、よく物を壊すようになった。お気に入りのカップや鞄も壊しちゃったし、ほんとサイテー。

 しかも私のいない三カ月の間に在原くんは彼女作っちゃったし、最悪すぎる。なにもかもがムカつく。


「復帰おめでとー。どうよ、久々のシャバの空気は」


 どかっと前の席に腰を下ろしたのは咲螺(サクラ)。あの日、私と一緒に梓に釘を刺した二人のうちの一人。


「あ、退院おめっとー。じゃあ快気祝いってことでさ、放課後カラオケ行かん? 駅前に新しいのできたんだって」


 横の席にきたのは來恋(ココ)。この子もあの日、一緒にいた。

 梓のことがあってからちょっと微妙だったけど、結局あのあと無事仲直りできた。入院中はお見舞いにも来てくれたし。持つべきものは友達ってやつだよね。


「行く行く! 久々だし、いっぱい話したいことあるし」


 梓のこととか、ね。

 あんたたち、私は悪くないって慰めてくれたけど、自分はかけらも悪くないって顔してさ。言っとくけど、あんたたちも同じだからね。そこはちゃんと自覚してもらって、私を悪くなんて言わせないようにしなきゃ。もしそんなことしたら、あんたたちのことだってバラしてやるからって。

 それに私は最後、あの子のことちゃんと止めたし。その分、私の方が全然優しいよね。



 ※ ※ ※ ※



「お腹、すいたな」


 放課後、さっきおやつ食べたばっかだってのに、私の胃袋はまた空腹を訴えてた。これ、退院してからどんどんひどくなってて、食べても食べても全然満たされない。どうしたらお腹いっぱいになれるんだろう。


「あ、いたいた! 放課後カラオケ行くっていってたじゃんよー。探しちゃったし」


 中庭の渡り廊下で声をかけてきたのはサクラ。


「ほんとだよ。教室にいろって言ってたじゃん」


 そのとき、ふっと甘い匂いが私の鼻をかすめた。それはココから漂ってきていて。


「あ、ごめん。……ところでココ、なんかお菓子とか持ってない? 甘い匂いがするんだけど」


 私の言葉に二人は顔を見合わせると、両方とも「持ってない」って言ってきた。

 おかしい。こんなに甘い匂いがするのに。そんなに私には取られたくないの?


「えー、絶対するって! ココの鞄の方からしてくるもん」


 そう、鞄の方から。――鞄を持つ、包帯が巻かれたその手から。


「あんた、退院してからめっちゃ食べるようになったよね。たく、しかたねーな。あたし今朝、新発売のお菓子買ったのあるから、ちょい待ってて。鞄取りついでにそれ持ってきてやるよ」


 そう言うと、サクラはあっという間に走ってっちゃった。渡り廊下に残されたのは私とココの二人だけ。


「しっかしさぁ、やたら食べてるけど全然太んないよね、あんた。めちゃ羨ましーわ」

「なんでかな……最近、全然お腹いっぱいになんなくてさ」


 話してる間にも、甘い匂いはどんどん強くなってきて。口の中に唾液があふれてくる。目が、ココの手に引き寄せられる。


「それよりさ、ココ。その手、どうしたの?」


 ゴクリ。たまったつばを飲み下し、なるべく平静を装ってココに聞く。


「あ、これ? いや~、今朝ちょっと階段でこけちゃってさぁ。ほれ、膝もだよ」


 そこからも、甘い匂いがしていた。


「って、どした? え、ちょっ――」



 ※ ※ ※ ※



「ちょっとー、二人ともどこ行ったー! 待ってろって言ったのに裏切者ー」


 無防備な背中をさらしてサクラが叫んでる。

 安心してね。サクラは友達だから、痛いのは一瞬だけにしてあげる。そしたら私が、ココと同じようにおいしく食べてあげるからね…………



 ※ ※ ※ ※



「なんかさっき、変なのが一匹(グールの中身っぽいの)ついてっちゃったような気がしたけど……ま、いっか。気のせい気のせい。どーせ一定時間経ったらこっち戻ってくるし」


 梓を送り返した直後。黒書の魔法使いは違和感に気づいてはいたが、たいして気にも留めずに流してしまった。彼の固有魔法の能力は、一定時間異世界のものを引き寄せる、もしくは送り出すことだったから。だから、彼は軽く考えていた。


 そのついていったモノが、限られた時間の中でとんでもない惨劇を引き起こしているなど夢にも思わずに。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  うわ~。これは……うわ~。でも、こういうゾクゾクするのも、なんだか、たまに無性に読みたくなります。  グロシーンを敢えて書いておられないのも、余計に怖さを増す……。 [一言]  今晩は、…
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