第五話 公主将軍誕生と嫁入り話
「剣聖様は今日も毒にやられて療養中ですか?」
エメラルドグリーンの双眸と髪を持つ、天才軍師ルイ・パルスは、自分の幼馴染でもある剣聖レイ・ダリウスの体調を案じて訊いた。
そこは「カナール渓谷の奇跡の戦い」により、公主将軍に祀り上げてられてしまった、ベアトリーチェの将軍府の屋敷だった。
敷地はかなり広大であり、強固な要塞のような造りになっていて、<ピンクの百合の花の紋章>の公主将軍の旗が風ではためいていた。
「そうね。毒見役に任せればいいのに、私の好物をばかりつまみ食いするから、毒にやられてしまうのよ。毒見役はレン・ロン同様に、毒に強い体質になってるので、剣聖殿にもレン・ロンにその辺りを指南してもらうかな」
ベアトリーチェも流石に、剣聖が自分のために毒に当たってる事に気が咎めるのか、何とかしないといけないと思ってるようだ。
<北狼国>の重騎兵五十万騎と北部騎馬連合の十万騎の騎馬軍の壊滅、残り四十万騎の全軍の撤退は、東の大海に面する<東海国>の水軍や西の強国<西馬国>の騎馬軍との戦況にも影響し、ひとまず、今回の同時侵攻は<央国>の全面勝利という形となった。
大将軍ログハンは瀕死だったというが、左足を失いつつも、奇跡的に<北狼国>に帰還したいう。
その戦いから既に半年が過ぎていたが、当分は北方からの軍事侵攻は無いと思われた。
「剣聖様も公主殿下が心配なんですよ。予想してたとはいえ、こう、暗殺者が多いと、そろそろ、抜本的な策を考えないといけませんね。……というか、この前、ワ皇帝陛下に『カナール渓谷の戦い』の真相をご報告した際に、『ベアトリーチェもそろそろ年頃なので、南の辺境国の南風国に嫁に行きたいか』訊いてくれと言われました」
天才軍師は非常に重大な話をさらりと真顔で口にした。
ちょっと心配そうな表情でベアトリーチェの様子を窺う。
「……南風国と言えば、あの<魔帝>が君臨するという南風国ね。古代ムーア王国の聖地とか地下迷宮があるという場所よね。面白いじゃない!」
ベアトリーチェはむしろ、好反応であった。
「公主殿下、別に断ってもいいのですよ。それゆえ、皇帝陛下も私から内々に訊いてくれという話なので。まだ、聖旨が下った訳ではないですし」
皇帝の聖旨が下れば、それには強制力が伴い、拒否する事は最悪、命が亡くなることを意味する。
「それで、一体、どの皇子が候補なのかな? 皇太子は既に南の大国<南州国>の姫君と婚姻してるし、第二、第三皇子が私を娶る可能性は低いでしょう? 確か、第七皇子ぐらいまでいたと思ったけど」
公主将軍にまでなってしまった厄介者である、ベアトリーチェを娶ってくれるだけでも有難い話ではある。
「それが、パミール・フェノン殿の妹君が第四皇子に嫁いでいて、公主殿下の数々のエピソードを好意的に披露したらしく、第三皇子の李浩然殿が大変、お気に召して、是非、正妃(正妻)として迎えたいそうです」
まあ、世の中には物好きもいるものだと天才軍師は内心、思っていた。
公主軍副官のパミールの実家の名門フェノン家は南風国の更に南の草原の自治領の騎馬氏族の出身であり、ここは央国の飛び地領地でもあるのだ。
「お、パミール、でかした! 皇太子はあれだし、第三皇子ぐらいなら自由が効きそうで、良いポジションじゃん! 南国は気候もいいし、果物も美味しそうだし、古代ムーア王国の遺跡巡りとか暇つぶしにもってこいじゃん」
公主殿下は婚姻を南国旅行の交通手形と思ってる節がある。
この<慶安>と呼ばれる世界には、古来から伝わる七不思議があり、実在は定かではないが、<央国>の星船と<南風国>の古代ムーア王国の地下迷宮は双璧だと言われている。
が、その二国は古来からの同盟国であり、剣聖や魔導騎士などを輩出していた。
ここに急遽、公主殿下の南風国への嫁入りが決まりつつあったのだが、彼女の人生最大の危機が迫りつつもあった。
が、ひとまず、この物語はここで終わる。
それはまた、別の話になる。




