永久凍土からの解放 ~集結した4人の思い~
少し百合要素が入りますので、苦手な方は飛ばしていただければと思います。
~クリスティン領辺境の地 博物館内神殿~
ランバートは、”氷結の戦乙女”の部屋に入る。
(去年の修学旅行以来か・・・)
「カサンドラ・・・。」
ランバートは、そっと氷中のカサンドラに手を添える。
変わらぬ微笑みを見せるカサンドラに、やり切れなさからか苦渋の表情を滲ませる。
何処からか、”ふ~”と微かに熱風が吹きつけられた。
すると、氷はみるみる曇り、すりガラスの様にカサンドラの姿は見えなくなってしまった。
「お前はこれ以上見なくて良い。」
驚き振り返るランバート。
「誰だ! この野郎!」
(・・・・・。アレンか?)
「お前! 今まで何処で何やってたんだ!」
「老けたなランバート、
俺は、機が熟すのを待っていたのさ。
一つは、俺自身の回復。
もう一つは、お前たちの成長だ。」
久しぶりに会えた嬉しさよりも怒りの方が勝るランバート。
(この上から目線はなんなんだ。気に入らねぇーな。)
「自身の回復だと?
つまり、10年前の戦いでカサンドラにやられたってことか?」
「・・・そうだ。
だが、そこは重要ではない。
いいか、これから俺が言うことを良く聞け! そこのお前らもな。」
ランバートが振り返るといつの間にか、マリアとメキドが二人のやり取を見守っていた。
「10年前、カサンドラは”極大自己犠牲呪文”を使って、俺の半身と魔王軍を壊滅させた。」
「自己犠牲呪文・・・、それでは、カサンドラ様は・・・。」
その意味を理解したマリアは、ポロポロと涙を流す。
「俺は、・・・愚かだった。
彼女から、戦う術を取り上げれば諦めると思っていた。
単身突撃してきたところで、軽くあしらうつもりだった。」
「聖職ではない者が自己犠牲呪文を使えばどうなるか! 知っているよな!」
アレンに食ってかかるランバート。
「体は砕け散り、砂塵と化す・・・そして、2度と復活はできない。
ましてや、彼女は魔法力を上乗せし極大化したのだ。」
「この野郎!よくも抜け抜けと言えたな!」
アレンを殴り飛ばすランバート。
避けずに殴られるアレン、口から流れる血を拭う仕草をする。
ランバートは、その赤い血を見て”はっ”と気が付く。
「くそ、上からものを言いやがって。」
目を背け、少し後悔するランバート。
(・・・アレンは俺たちと同じ赤い血だ。)
「気が済んだかランバート。」
立ち上がり埃を払うアレン。
「だから、砕け散る前に氷漬けにしたと?」
メキドが話を促す。
「そうだ。」
「ちっ。」
舌打ちするランバート。
やはり、王立軍への見せしめでは無かった。
アレンは、カサンドラを救うために敢えて氷漬けにしたのだ
「それで、カサンドラ様を助けるにはどうすれば良いのですか?」
すがる様に問うマリア。
「・・・。
まず、俺が永久凍土を解除する。
間髪入れず、生命力を供給しろ。〈マリアの方を見る〉
そして、お前は魔法力を供給しろ。〈メキドを見る。〉
いいか、お前たちに与えられる時間は数秒だ。5秒は待てない。」
「出来なければ?」
メキドが呆れた様に問いかける。
「もう一度氷結する。
巻き添えも覚悟しろ。」
「何だと!」
怒りを露にするランバート。
しかし、それを諫めるマリア達。
「お前たちに出来ないのなら・・・次の世代を待つ。
それでも駄目ならその次の世代だ。
・・・俺には無限の時間がある。」
幾分落ち着いたランバートは、覚悟を決めた様に言う。
「ふん、そう言うことか。
・・・・分かったぜ。
失敗したときはお前に任せる。」
「「な!?」」
アレンに任せることにマリアとメキドは驚愕の声を発した。
ランバートは落ち着いて話を続ける。
「だが、成功したときはどうする?
お前に養生や看病が出来るのかよ。
10年間氷漬けだった人間が早々に回復するとは思えないぞ。」
「・・・成功したときは、お前たちに任せる。」
ニヤリと笑うランバート。
「いやに聞き訳が良いじゃねーか!
え! 魔王様よ!」
アレンは、うつむき加減で答える。
「俺は、どんなことをしてもカサンドラを助けたい。
・・・それだけだ。 今の俺の望みは・・・。」
「分かってるじゃねーか。俺たちもそれは同じだ。
今、機が熟したと言ったな。
それはあながち間違いじゃない。
永久凍土を解除できるお前。
生命を司る聖女マリア。
魔法の専門家メキド神官。
そして、魔王と対等に渡り合えるこの俺、”勇者ランバート”が揃った。」
自慢げに熱弁をふるうランバート。
「”勇者ランバート”・・・か。
それ、自分で言って恥ずかしくないか?」
小ばかにするアレン。
「う、うるさい! 分かってるゎ。
で、いつ始めるんだよ!」
たもとを分かったと言えど、やはり二人は元々気が合うのだろう。
直ぐに軽快なやり取りを取り戻した。
「今すぐだ。」
「「「「 ! 」」」」
ランバートはマリアの方を向いた。
メキドはこれまでも魔力供与の経験があり、何より神官として充分な実績がある。
対してマリアは、これまでに聖女の力を発揮する機会など無く、聖女と言うには覚束ない。
「大丈夫です。必ず成功させてみせます。」
ランバートは、マリアの揺ぎ無い決意を見た。
「良し分かった。やろう!」
永年の悲願をかなえる時が来た。
一同は固唾を呑んで、アレン(魔王)の動きを見つめる。
「いくぞ!
解除魔法 ~ディスペル~ 」
アレンの全身から黒い靄が湧き出て、永久凍土を包み込む。
”ピシッ”
”パキッ”
と亀裂音が響き始める。
「備えろ!」
”ドゴーン”
強烈な爆発音とともに粉々になった氷片がアレンに突き刺さる。
「何だと!」
「俺に構うな!」
無理から術が破られたのだ。
当然、その反動は術者に向かう。
例えそれが詠唱者本人であったとしても。
マリアとメキドの動きは素早かった。
二人にとって、アレンなどどうでも良い存在なのだろうか?
ランバートは割り切れず、アレンを目で追ってしまった。
マリアは、倒れる寸前のカサンドラを抱きとめ、そのまま慈しむ様に抱擁する。
二人は、光に包まれ輝き続ける。マリアから生命力が注がれている証だ。
どこかうっとりとした表情のマリアは、そのままカサンドラに口づけする。
より一層輝きが増した。
青白いカサンドラに、徐々に精気が蘇る。
メキドは、その二人をさらに包み込むように抱きしめ、カサンドラへ魔法力を注入する。
3人を包む光は二色に分れ、カサンドラに注がれる。
「成功だ。」
血みどろのアレンは唸る様に宣言した。
「お、お前、こうなるって知っていたのかよ。」
アレンを介抱しようとするランバート。
「待って!安心しないで! カサンドラ様の息が無いわ! 心臓も動いてない!」
悲鳴にも似たマリアの叫び。
ランバートを払いのけ、アレンは魔法を唱える。
「グラスプ・ハート~心臓掌握~
心臓は俺が動かす。
呼吸はお前らでなんとかしろ。」
(アレンは右手をニギニギし続けている。)
メキドが人工呼吸を試みようとしたところ、マリアがそれを押し除けた。
唖然とするメキドを余所に、人工呼吸を始めるマリア。
”ぶはっ”
息を吹き返すカサンドラ。
マリアと体が重なっているため、ほぼカサンドラを確認することは出来ないが、
・・・間違いなくカサンドラの伊吹だ。
「ああ、カサンドラ様! 良く生還されました。」
そう言うと、マリアは再びカサンドラを抱きしめた。
誰にも奪われない様に隠すように・・・・。
ランバート
「おい、マリア・・・ちょっと・・・その・・・なんだ。
やりすぎって言うか・・・。
お前も何とか言えよ!」
ランバートがアレンの方を振り向くと、既にその姿は無く、ただ生々しい血痕が残っていた。
百合要素ですが、10年の歳月が淡い気持ちを高めてしまったのかもしれません。
作者としてでは無く、個人的には不甲斐ない男連中よりはよほど相応しいかと・・・。




