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ふじ分遣隊  作者: 高嶺の悪魔
第三話 THE Great War 〜それぞれの戦い〜
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その12

「みなさん、一日中、お疲れさまでした! 私としてはまずもって、大きな事故も起こらずに終われたことが何よりも嬉しく思います。これもプレイヤーの皆さんのご協力あってのことです。本当にありがとうございました!」

 中央広場に集まった参加者たちの前で、店長の粟斗が朝と変わらぬ声量のまま感謝と労いの言葉を述べる。それから、彼は手にしているボードを覗き込みながら続けた。

「では、結果発表と参ります! まず、本日の総戦死者数の発表から。戦死者は両軍合わせて、3637名にものぼりました。海兵隊も真っ青の数字です」

 粟斗の少将不謹慎な軽口に、会場に明るい笑いが起こる。言うまでもないが、戦死者とは要するにヒット数のことである。

「さて、その内訳は、西軍が1838名。東軍が1799名で、カウンター戦は東軍の勝利となります!」

 そう言って、粟斗がさっと東軍プレイヤーたちが集まっている方向へ片手を上げた。それに東軍プレイヤーたちが歓声を上げて応える。

「おめでとうございます。では続いて屋内、森林の結果発表に移ります。まずは屋内、重要物資争奪戦の結果から。当初、東軍側のワンサイドゲームになるかと思いきや、途中で西軍が巻き返し、以降は接戦が続いていましたが……ゲーム終了時の重要物資確保数は東軍が三つ! 西軍が四つ! よって、西軍の勝利となります!」

 結果を聞いた東軍側から悔しそうな声が上がり、反対に西軍側は湧きたつ。特に、絶叫を上げて勝利を祝っている一団がいた。辰巳たちとともに戦ったタスクフォース・レインボーの面々だ。中にはよほど辛かったのか、涙を浮かべている者までいる。

「そして、最後の森林フィールド。最後まで激戦が続いていましたが、陣地争奪戦の結果は……東軍確保数、二つ! 西軍確保数三つ! こちらも西軍の勝利です! ということは、今年のThe Great WARの勝者は西軍チームだーー!」

 粟斗の叫びに合わせて、先ほどよりもさらに大きな、爆発するような歓声が西軍側から上がった。自然と同じフィールドで戦っていた仲間たちが集まり合って、互いの健闘を称え合い始める。彬も何人ものプレイヤーたちから背中を叩かれた。

「西軍チーム、おめでとうございます! 東軍チームは残念でした。しかし、素晴らしい戦いだったと思います!」

 粟斗は最後にそういってプレイヤー全員を称えた。ちなみに勝利したチームのプレイヤーは店のオリジナルステッカーがもらえるとのことだった。


「それでは続いて、MVPの発表に移りたいと思います」

 未だ勝利した西軍の興奮冷めやらぬ中、粟斗が声を張り上げた。MVPはゲーム終了後に行われた投票の結果から、各チームの上位三名ずつ。計六人が選出される。

 粟斗はまず、東軍側から発表を始めた。番号が読み上げられ、その腕章番号を持つプレイヤーが壇上に上がる。ちなみに東軍側の最多票を集めたのはあのロケットランチャーおばあちゃんだった。活躍の仕方にも色々とある。単にヒットをたくさんとったとか、フラッグを何度もゲットしたというだけでなく、いるだけでゲームを盛り上げてくれる存在もまた票が集まりやすいのだろう。

「続いて、西軍チームから……まずはゼッケン45番の方!」

「……え、僕かい?」

 ブーニーハットを脱いですっかりスイッチがオフになっていた辰巳が自分の番号が読み上げられたのを聞いて、驚いたように顔を上げた。

「そりゃそうでしょ。音無さん以外に誰がいるんですか」

 当たり前でしょうというように、敦賀が言う。

「私たちみーんな、辰巳さんに入れてますよ?」

 そう言った伊織を始めとするタスクフォース・レインボーの面々に促されて、辰巳が壇上へ上がった。

「続いて、ゼッケン番号88番の方!」

「ありゃ。私だ」

 番号を呼ばれて、ぽかんとした声を出したのは伊織だ。

「やったじゃないですか、先輩!」

「おめでとう、伊織ちゃん」

 辰巳と同様に、まさか自分が選ばれるとは思いもしていなかった様子の彼女にチームの二人が祝福するように声を掛ける。

「まあ、実際凄かったしね。彼女」

 照れくさそうに笑いながら壇上に上がって、辰巳の隣に立った彼女を見ながら敦賀がぽつりと言った。

「ええ、本当に」

 それに小さく同意の言葉を呟いたのは充希だった。

「そして最後は……ゼッケン番号、43番の方!!」

「……え?」

 粟斗が読み上げたその番号に、MVPなど自分には関係ない事だと思っていた彬は固まった。思わず、自分の腕に巻いてある腕章の番号を確かめてしまう。そこには間違いなく、43という数字が並んでいた。

「お、俺……ですか?」

「おめでとう、彬くん!!」

 辰巳や伊織以上に戸惑っている彬に、まるで我が事のように喜びを爆発させたのは九堂だ。そのすぐ後ろではフラッグ・ウォーター社の駒野も頷いている。

「第五陣地攻略のために人を集めたのは君だろ?」

「いやでも、そんなつもりは……」

「良いんだよ。おかげで俺たちも楽しかったんだから。君がMVPさ」

 そういった駒野に続いて、彼の周りにいたチームのメンバーが、そして最後までともに戦った仲間たちがそうだそうだと声を上げる。そうやって、押し出されるように彬は壇上に上がった。敵味方問わず、集まっている人々から祝福の拍手が送られる。

「おめでとう!」

 そういって粟斗が差し出した、副賞の店オリジナルワッペンを彬は恐縮しつつ受け取った。その肩越しに、驚いた顔で彬を見ている辰巳と目が合った。辰巳はにこりと微笑むと、彬のことを祝福するように拍手をし始めた。

「なにか一言お願いします」

 粟斗からコメントを求められて、彬は慌てて口を開いた。

「ええと……その、すごくびっくりしてます。今日は一日、本当に沢山のことがあったんですけど……思い返せば、どれも最高に楽しい事ばかりで……一緒に戦ってくれた人たちも、もちろん東軍の人たちも、そう思ってくれていればいいなと思います。ありがとうございます」

「ありがとうございました」

 答えて粟斗が拍手をする。それにプレイヤーたち全員が続いた。彬が壇上から見下ろすと、九堂が集まった誰よりも大きな拍手をしているのが見えた。


「彬くん」

 彬が夢うつつの気分で帰り支度をしていると、ふいに後ろから声を掛けられた。振り向くとチェック柄のシャツにデニムを履いた気弱そうな青年が立っている。

「……九堂さん?」

 今日一日、米軍特殊部隊風の装備に身を包んでいた九堂しか見ていなかったため、一瞬誰なのか分からず彬は訊き返した。九堂は照れたように「そうだよ」と頷いてから、片手を差し出す。

「今日は本当にありがとう」

「こちらこそ。楽しかった」

 答えて、彬は九堂の手を握り返す。

「彬くんがいなかったら、どうなっていたか。きっとゲームを楽しむどころじゃなかったよ」

「別に大したことはしてないよ。でも、楽しかったのなら良かった」

「うん。本当に楽しかった」

 九堂はそういって笑うと、抱えているボストンバッグに片手を突っ込んだ。

「それで、ほんのお礼なんだけど……これを彬くんに貰ってほしくて」

「え?」

 お礼だといって九堂が取り出したのは、HK416のアンダーレイルに付いていたグレネードランチャーとそのカートリッジだった。それだけで諭吉が一枚は飛んでいく。とてもじゃないが、ちょっと落とし物探しを手伝っただけのお礼としてはやり過ぎだ。

「いやいや、もらえないよ。こんなの」

「そういわないでさ。お願いだよ」

 両手を振って受け取りを拒否する彬に、九堂は頼み込むような声で言った。

「サバゲーの楽しさを教えてくれた君に少しでも恩返ししたいんだよ。それに、僕じゃまだまだこれを使いこなせそうにないし」

 言いながら、九堂はさらに替えのカートリッジまで取り出した。グレネードランチャー本体に、モスカート三つ。さらに飛んでゆく諭吉が増える。

「良いって、気にしないで。そんな高い物じゃないしさ」

「いや、十分高いよ、コレ」

 何気ない風な九堂の一言に、貧乏学生の彬は少しむっとして突っ込んでしまう。

「友情の証だと思って」

「いやいや……。現金過ぎるでしょ、その友情」

 ずっと思っていたことだが、九堂はやはり何かがずれている。主に金銭感覚がおかしい。

「何となく思ってたけど、九堂さんってボン……お金持ち?」

 ボンボン、という言葉が口から出かけて、彬は慌てて言い直した。それに九堂は「いや、別にそんなことはないよ」と首を振る。

「僕、昔から勉強ばかりしててさ。友達と遊ぶなんてことなかったんだ。実は、一人で外に遊びへ出たのも今日が初めてなんだ」

 もじもじと恥ずかしそうにしながら、今日四度目の「実は」を口にした九堂に彬はどう答えたらいいのか分からない。複雑な家庭だったのか、単に人付き合いが苦手だったのかは知らないが、そこまで立ち入ったことを聞けるほどの関係ではまだないように思えた。そんな彬に、九堂が頭を下げるように言う。

「頼むよ、貰ってほしいんだ。今日という日を忘れないための記念が欲しいんだ」

「……分かったよ」

 その真剣な眼差しに、彬は思わず頷いてしまった。彬にとって今日はただの、楽しい一日だった。けれど、九堂にとってはそれ以上の大切な日だったのかもしれないと思ったからだった。

「本当かい! 良かった……」

 九堂がほっとしたように笑み崩れる。それから彬の気が変わらない内にともでいうように、その両手にグレネードランチャーとモスカートを押し付けた。

「ありがとう。でも、貰うだけってのもちょっと……かといって、記念に俺からあげられるものなんて……」

 そう考えて、彬は荷物に目を落とした。M4は借り物だ。M9は唯一自前のエアガンだし、装備もぎりぎりのものしか持っていない。そもそも九堂は装備に何ら不自由していないのだから、あげて悦ばれるようなものは。と、そこで。バッグの小物入れからはみ出ていたワッペンが目についた。先ほど、MVPの副賞としてもらったXXXスリーエクセレイのオリジナルワッペンだ。

 このワッペンはThe Great WARでMVPをとった証であり、非売品だ。お金を払っても手に入らない。これならグレネードともつり合いが取れるのではないだろうか。そう考えた彬はワッペンを手に取った。オリンピックの金メダルだって競売にかけられる世の中だ。サバゲーの大会でMVPをとった証だからといって、別に人に譲ってはならないというわけでもないだろう。

 そもそも。あれほどゲームに必死になったのも、九堂が失くしたロッカーキーを探すという目的があったからだ。九堂がいなければ、彬はMVPになど選ばれなかっただろう。

 そう思えば、このワッペンを九堂に贈るのは当然のことのようにも思えた。

 だから。

「それじゃあ、俺からはこれを」

 友情の証としてといって、彬はワッペンを九堂に差し出した。それに九堂は目を丸くすると。

「いや、それは貰えないよ」

「良いから受け取れよ面倒くさいな」

 何なんだよコイツはと思いながら、無理やり九堂の手にワッペンを押し付ける彬だった。


「おーい、彬くん! 準備できたかー!」

 九堂はグレネードランチャーを、彬はMVPワッペンを、お互いに譲り合ったところで、剛明の呼ぶ声が聞こえた。

「あ、はい! 今行きます!」

 それに彬は慌てて荷物を担ぐ。

「それじゃあ、九堂さん」

「うん。また、一緒にゲームしようね、彬くん」

「はい。是非。連絡ください」

 答えて、彬は連絡先を交換しあったばかりの携帯を振ってみせる。

「といっても、しばらくは仕事が忙しいから無理っぽいんだけどね。僕」

「……ちなみに、お仕事は何を?」

 別れ際の九堂の発言に、ふと気になって彬は訊いた。あれだけの装備を整えるだけの財力からいって、もしかしたら会社経営者とかかなと予想してみる。とてもそんな九堂は想像できないが、人は見た目じゃない。そう思っていると。

「医者だけど」

 それがなにか、と。きょとんとした顔で答えた九堂に、マジかよと叫ばずにはいられない彬だった。


「お待たせしました。隊長たちは?」

「先に車で待ってるよ。それと、敦賀さんから帰りがけに近くのスーパー銭湯寄って行かないかって誘われてんだけど、良いか? 天然温泉らしい」

「うわ、良いですね。温泉。それに店のシャワールームは大混雑ですしね」

「だな。まあ、着くまで鼻呼吸禁止だけど」

「……ああ、はい」

 剛明と並んで歩きながら、彬はふと空を見上げた。

 夕焼けに赤く染まっていた空はいつの間にか群青のビロードに覆われ、一番星が輝き始めている。熱い一日の終わりを告げるように、どこかでカラスたちが鳴いていた。

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