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ふじ分遣隊  作者: 高嶺の悪魔
第三話 THE Great War 〜それぞれの戦い〜
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その10

 昼食と休憩を済ませて、彬と九堂は再び森林の戦場へと帰ってきた。

 しかも、今回は二人だけじゃない。セイフティにいたPMC装備のグループも一緒だ。

 昼食がてら声を掛けてみたところ、第五フラッグ陣地攻略に協力してくれることになったのだ。彬がケバブをぱくつきながら話を聞いたところ、フラッグ・ウォーター社というチーム名の、社会人チームだという。チーム名の元ネタはいうまでもなく、アメリカに実在していた民間軍事会社の名前である。

 ちなみに、九堂のロッカーキー探しについては黙ってある。九堂の名誉のためというよりも、そんな下らないことに他の人を付き合わせるのは申し訳ないと思ったからだ。


 セイフティからフィールドに入ってからも声掛けを続けた結果。気付けば第五フラッグ陣地攻略のために集まった西軍プレイヤーは五十名を越えていた。彬たちが驚くほどの人数が集まったのは、フラッグ・ウォーター社のおかげだ。

「凄いです。俺たちだけじゃ、こんなに集まってくれたかどうか」

「雇用主が戦場で必要とするもの全てを提供するのが、我がフラッグ・ウォーター社ですから」

 協力に感謝する彬に、フラッグ・ウォーター社の代表だという駒野という青年が気取った声で答えた。その態度もすぐに砕ける。

「なんちゃって。とか言ってみたかったんだよね」

 笑いながら、彼は集まっているプレイヤーたちを見回した。

「別に俺らがいなくても集まったと思うよ? だって、ここにいるのは一日中サバゲーがしたくて堪らない連中なんだから、ちょっと面白い戦いがあるって聞けばすっ飛んでくるさ。まあ、今は屋内フィールドが相当熱いらしいから強い人たちが結構そっちに流れちゃってるんだけど」

 それを聞いて、彬は頷く。辰巳がいる屋内フィールドは凄腕のプレイヤーたちが集まって、まさに群雄割拠の様相だという。

「JAFのSチームに、極サバ、ゴールドらいおんズとか、ネットや大会で良く見る強豪チームばっかりで、逆に初心者とか中級者辺りは入り込みずらいんだけどね。ああでも、ドリフターズもいるって聞いたな。彼らがいると面白いんだ」

 強豪チームの名はサバゲーについて調べていると良く目にするので、彬も知っていた。それよりも知名度は落ちるが、敦賀たちドリフターズは一緒にゲームをして一番面白いチームとして東京周辺で有名らしい。サバゲー劇団チームだと駒野はいっていたが、それが具体的にどういうことなのか彬にはピンとこなかった。

「ああ、でも。それ以上に活躍してるのが女の子三人組のチームらしい。それにあのふじ分遣隊もいるとかで。やっぱり俺らみたいなそこまでガチになりきれないサバゲーマーには敷居が高いよ」

 ふじ分遣隊の名が出たところで、彬はちょっとドキリとした。人の口から聞くと、やはり辰巳たちは強豪チームの一角なのだと改めて思い知る。辰巳たちと一緒にいる時は気にならないが、こうして離れて戦っていると自分のような初心者がそのチームの一員だとは信じられないような気持ちになった。

「その点、こっちは単に大勢でフラッグ取りに行こうってだけだからね。気楽で楽しそうだ」

 駒野はそういうと、集まっているプレイヤーたちに呼びかけた。

「さあ、みんな! 司令官殿から作戦の指示があるぞ!」

 それに五十人分を越える視線が一斉に彬へ集まった。

「なんだ、なんだ? 司令官?」

「作戦があるのか?」

 興味津々といったプレイヤーたちの注目を浴びながら、ふと横を見れば、いつの間にか九堂がいない。逃げたな、と彬は恨めしく思った。

「ええと……」

 何か言わなくちゃと、彬はカラカラになった口をどうにかこうにか開く。

「あの、集まってくれてありがとうございます。別に俺は司令官っていうわけじゃないんですけど……それに作戦も、とりあえずここにいるみんなで攻めて攻めて攻めまくって、中央の第五フラッグを取るっていうだけのもので……」

 しどろもどろになりながら、自分が何を言っているのかも分からなくなった彬は諦めたように息を吸いこんだ。

「とにかく、おもいっきり戦ってフラッグをゲットしましょう! お願いします!」

 叫ぶようにいった彬に、プレイヤーたちが雄たけびで応じる。

「よっしゃ行くぞ!」

 誰かの掛け声に合わせて、西軍プレイヤーたちはいっせいに森林フィールド中央の第五フラッグ陣地へ向かって駆け出した。奇妙な一体感を感じながら、彬も彼らとともに駆け出す。

「これだからサバゲーって堪らないよな」

 誰かがそう言いながら、彬を追い越していった。まったく、本当にその通りだと彬も思った。横を見ると、九堂がいる。

「絶対に勝とう、九堂さん」

「う、うん」

 力強い彬の言葉に、気弱な特殊隊員は頷きを返す。

 こうして、二人は本日最後の戦いへと赴いた。


「行くぞ! 突撃!!」

 突如、五十人もの大軍が襲い掛かった第五フラッグ陣地は瞬く間に激戦地へと変貌した。

 がむしゃらに突っ込む西軍チームに、陣地を守る東軍はともかく弾幕を張って攻撃を押し止めようとする。飛び交う銃弾に攻撃側はもちろん、防御側からもヒットコールが途切れない。しばらくすると森林フィールドで派手な戦いが起きているらしいという噂が広まり、双方のチームに続々と援軍が合流し始めた。

 続々と増えていく味方プレイヤーたちを見て、彬は一度前線から退いた。ここでも周囲への援護に徹するつもりなのだった。

「九堂さん、こっち! グレネード!」

 一番戦いの激しい正面入り口から離れて、彬は塹壕を指さしながら九堂に叫んだ。塹壕に籠る東軍プレイヤーたちは、正面に押し寄せる味方プレイヤーたちを足止めしようと必死だ。彬の指示を受けた九堂が、わちゃわちゃしながらもそこへBB弾の雨を降らせる。塹壕から複数のヒットコールが上がった。それに、彬は塹壕に向けて一気に駆けた。穴の中へ飛び込んで、素早く左右を見回す。敵はいなかった。遅れて、九堂が隣に落ちてくる。

「ここまで制圧! ここまで来れます!」

 九堂が息を整えている間に、彬は塹壕から這い出すと味方のプレイヤーたちに向かって叫んだ。それに気付いた西軍プレイヤーたちが何人か集まってくる。

「よし、もうちょいだ!」

「行けそうだな! この塹壕確保するぞ!」

「九堂さん! 僕らは陣地の裏に回って敵の増援を足止めする!」

「わ、分かった!」

 飛び込んできた味方とともに、彬と九堂は塹壕内を移動する。途中、生き残っていた東軍プレイヤーと鉢合わせになって一人がやられたが、彬たちは裏側の出入り口を射程に収めることのできる位置まで押し進んだ。

 塹壕から顔を覗かせると、東軍チーム本陣から続くルートを敵の増援が駆けてくる。彬は彼らに向かって撃った。隣では九堂も撃っている。遮蔽物が多くて、そう簡単にヒットはとれないが、敵は足を止めている。十分だ。

 しばらく、そうやって九堂とともに射撃していると、彬の横に味方が滑り込んできた。フラッグ・ウォーターの駒野だ。

「いま、味方が陣地に突入した! もう少しだ!」

 駒野はそういって、射撃に加わってくれる。

「九堂さん、もうちょっとだ! 頑張ろう!」

 横にいる九堂を励ましながら、彬はちょうど狙いをつけていたバリケードの影から飛び出してきた中東風の衣装を着た東軍プレイヤーを撃った。AKを掲げてヒットを叫んだ彼を見てから、彬は一度、塹壕の中へ戻る。

 このままならいけそうだ。

 M4のマガジンを替えながら、そう思った時だった。

「なんだアレ!?」

 九堂が驚愕の声を上げる。

「あ、RPGィーーーー!!」

 駒野が警告を叫んだ。その声が途切れもしない間に、彬たちの頭上からBB弾の雨が降り注ぐ。

「ヒット!」

「あわわっ、ヒットー!」

「ヒットー!」

 三人仲良くヒットコールを上げながら、やられたと彬は臍を噛む。けれどまあ、仕方ない。これは避けようがなかったと、諦めたように思いながら塹壕を出る。退場する前に、自分たちを討ち取った敵を一目でも見ておこうと彬は敵陣へと視線を送る。

 すると、そこには。

 農作業着に身を包み、日よけの付いた麦わら帽子の下にガスマスクによく似たフルフェイスのゴーグルを着けたプレイヤーが自分の背丈ほどもあるロケットランチャーを担いで立っていた。ぱっと見ただけでも、そこそこの年配者だと分かる。女性ものの作業着を着ているから、おばあちゃんだろうか。と、そこで彬は朝、敦賀が辰巳に話していたことを思いだした。今日の参加者の最高齢は、相手チームにいる御年78歳のご婦人だと。得物はRPGだとも言っていた。

「いけいけー! 突撃――!」

 あの人がそうかと思っている彬の前で、おばあちゃんが声を張り上げた。

 その号令に、おばあちゃんの背後から若いプレイヤーたちが一斉に突撃してくる。

 ここにきて敵の増援かと、彬たちは急いでフィールドの外へ向かった。


 大急ぎで中央広場のカウンターを押した彬たちは、そのまま森林フィールドへ取って返した。その間、ひたすら走りっぱなしだ。朝からずっと戦い続けているせいで体力はとっくに限界だし、息も切れ切れで手足は重い。疲れて今にも倒れそうだ。実際、九堂は何度も足を縺れさせていた。それでも。

 それでも、こんなに楽しいことから途中で抜けるなんてできない。

「戦況はどうなってます?」

 フラッグ・ウォーターの駒野とともに、どうにかこうにか第五フラッグ陣地まで戻ってきた彬は、そこにいたカジュアルな装備の味方プレイヤーに尋ねた。

「おや、司令官殿。お帰りなさい」

 カジュアル装備はおどけたように簡単な敬礼をしてから、状況を教えてくれた。

「陣地に籠ってる敵が結構粘り強くて、まだフラッグは奪えてない。それに、あのRPGおばあちゃんの登場で、崩れかかっていた相手チームが勢いを取り戻してる。と言っても、おばあちゃんだから。正直、そんなに強くない。動きが速いわけでもないし、特別に上手いってわけでもないから。ただRPGをぶっ放してくるってだけで。厄介なのはその取り巻きというか、親衛隊だ。常におばあちゃんの周りに五、六人が張り付いてて守ってる」

「親衛隊?」

「いざとなれば、自分を盾にしてでもおばあちゃんを守ろうっていう連中だよ」

 カジュアル装備の説明を聞きながら、彬は戦場へ目を向けた。

 銃弾飛び交うその最中に、ロケットランチャーおばあちゃんはいた。バリケードの前に立ってはいるが、身を隠そうともしていない。あれではすぐにヒットされてしまいそうなものだが。そう思っている彬の前で、西軍プレイヤーたちが攻撃を仕掛けた。おばあちゃんを狙って撃ちだされたのだろうBB弾に、近くにいた数人の東軍プレイヤーたちが遮蔽物の影から飛び出す。

「ヒット!」

「いててっ、ヒットーー!」

 カジュアル装備の言った通り、我が身を盾にしておばあちゃんを守ったプレイヤーたちがヒットコールをあげる。

「怪我するんじゃないよ!」

 退場してゆく親衛隊の背中に、おばあちゃんがそんな言葉をかけていた。

「……どういう人達なんです?」

「さあ? 最初は誰かが悪ノリで始めたんじゃないかな?」

 尋ねた彬に、カジュアル装備は肩を竦めて応じた。

「でも、ここまで来ると大したもんだよ。親衛隊が敵を足止めする。そこへおばあちゃんがRPGをぶちかます。ちゃんと戦術として成り立ってる。あと、普通におばあちゃんは撃ちづらい」

「確かに」

 カジュアル装備が付け加えた一言に、彬も同意した。

 サバゲーに参加している以上は、相手も撃たれるのは覚悟の上だろうが。それでもエアガンで撃たれれば結構痛いのだ。そもそもおばあちゃんに銃口を向けるというのは普通に良心が痛む。

 そんな彬たちの複雑な内心など露知らず。ロケットランチャーおばあちゃんは堂々と突っ立ったままRPGをぶっ放し続けている。見ていると、一発撃つ度に担いでいるRPGを隣にいる若者へ渡して、カートリッジを再装填してもらっていた。再装填を終えたRPGをおばあちゃんが受け取って撃つ。それをまた若者が再装填すると、それを繰り返している。

「横にいるのはお孫さんらしい」

 お目付け役だってさと、意外と情報通なカジュアル装備が教えてくれた。


「ところで君たち、弾は足りてるかい?」

 説明を終えた所で、唐突にカジュアル装備が彬たちにそう訊いた。

「そういえば、戻ってくるのに夢中で補充してこなかったな」

 思い出したように呟いた駒野に、彬もM4のマガジンを取り出して軽く振る。カラカラと心もとない音がした。

「貸して」

 そういってカジュアル装備はマガジン型のBB弾ローダーを取り出した。三人からマガジンを受け取ると、ローダーで弾を補充してくれる。

「実はメインがいかれちゃってさ。だから、こうして弾配りしてるんだ」

 そんな事情を説明しながら、カジュアル装備は満タンになったマガジンを彬たちに返した。言われてみれば確かに、彼は武器を持っていない。

「ありがとうございます」

「いいよ。俺も勝つために何かしたいんだ」

 お礼をいった彬に、カジュアル装備はアパムって呼んでくれと笑いながら答えた。

「弾もってこーいってやつか」

 それに駒野がつられたように笑い返す。彬も笑った。唯一、九堂だけが「何のこと?」と首を捻っていた。

 そうだ。みんな勝ちたいんだ。

 彬は改めて周りを見回しながら、そう思った。

 そのために、まだ大勢の味方が戦っている。勝ったところで何があるわけでもない。けれど、勝たせてあげたいと思った。

 時間的にみて、この戦いが最後になるだろう。ここでフラッグを取れなければ、西軍チームは森林フィールドでの戦いに負ける。当然、そうなれば九堂が失くしたロッカーキーを探すこともできなくなる。

 この戦いの小さな、小さな目的を再確認するように互いの顔を見合せて頷き合った彬と九堂は飛び交う銃弾と降り注ぐBB弾の雨を避けながら敵陣へと向けて前進を開始した。

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