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ふじ分遣隊  作者: 高嶺の悪魔
第三話 THE Great War 〜それぞれの戦い〜
23/28

閑話

 激戦の続く屋内フィールド。その最中にあった一幕。

 ドリフターズの隊長、敦賀は敵陣強襲後、自らも物資を一つ奪って自陣へと急いでいた。二階部分の空中回廊は既に敵味方が完全に封鎖してしまったため、本陣へ帰るには入り組んだ一階部分を遠回りしながら進むしかない。三十キロのポリタンクを運ぶ五十路の敦賀は流石に体力の限界なのか。周りが心配になるほど息が上がっている。

「隊長、運ぶの代わりますよ」

 流石に見ていられなかったのだろう。メンバーの一人がそう申し出た。チームの中で一番大柄な関原せきはらだ。普段は朴訥な青年だが、誰よりも気遣いのできる部下だった。

「構わん」

 しかし、敦賀は部下からの気遣いを払いのけるように断った。

「戦闘はお前ら若いのに任せた方が良い。どっちみち、俺はもう腕が上がらん」

「なら、少し休みましょう」

「敵だ!!」

 関原が休憩を提案した矢先、背後の警戒をしていた衣川きぬかわが接敵を叫んで撃ち始める。

「くそ、Sだ! もう戻ってきたのか!」

 敵の装備を目にした衣川が毒づきながらファマスを撃ちまくる。仕事ができないわけではないが、彼にはもう少し落ち着きを持ってほしいと敦賀は思っていた。

「落ち着け、衣川! 一ノ谷、援護してやれ! 関原は隊長を安全な場所へ!」

 そこへ的確な指示を出すのは長篠だ。若くして大きな仕事を何度も任されている優秀な男で、敦賀の跡継ぎは社内でもドリフターズ内でも彼をおいて他にないだろう。一ノ谷も優秀だし、舞台の上では誰よりも声が大きい。その積極さをもっと普段の生活や仕事でも出してくれれば化けるだろうに。

 そんなことを朦朧とした頭で考えている敦賀の耳に、誰かがヒットを叫ぶ声が聞こえた。

「衣川ーー!!」

 一ノ谷の絶叫に、衣川がやられたのだと分かる。

「くそ、衣川!」

 喉を震わせて、悲痛な声を出す一ノ谷。

「やめろ! あいつはもう駄目だ!」

 やられた衣川に向かって駆けだそうとした彼を制止するように長篠が怒鳴る。

「アイツを置いて行くっていうのかよ……!」

 副隊長からの非情な命令に怒鳴り返す一ノ谷。

「このリボルバーを受け取った日から、ヤツだって覚悟していたはずだ!」

「だけどよぉ……!」

 一応。念のために述べておくがヒットされた衣川は既にセイフティへ向かっていった。

 それでも彼らの中で衣川はいま、薄暗い倉庫の床に倒れ伏しているのだ。

「関原、隊長を連れて早く!」

 迫るSチームに牽制射撃を加えながら、長篠が指示を出す。

「は、はい! 隊長、こちらへ……」

「ま、待て! それなら俺が残る!」

「腕の上がらん人が残っても仕方ないでしょう!」

 焦ったように肩に置かれた関原の手を振り払った敦賀に、長篠が正論を怒鳴った。

「貴方の持っているそれが敵に奪われれば、世界中が核の脅威に怯えることになるんですよ!」

 彼らの中ではそういうことになっていた。

「しかし……」

「行ってください、隊長。連中は俺たちで足止めします」

「一ノ谷……だが、お前、もうすぐ子供が……」

「その子が産まれてくる世界を守るためです。副長の言うように、隊長の持っているそれがテロリストの手に渡れば、この世界は恐ろしい場所になってしまう。そんなことにはしたくない。アンナもきっと分かってくれます」

「急いでください、隊長!」

 一ノ谷の隣から、長篠が敦賀を急かす。

「……っ、すまん」

 敦賀は歯ぎしりするように詫びると、振りきるように退却を始めた。

「隊長! 早く!」

 関原が敦賀を庇うように先導し、その背後で長篠と一ノ谷がSを足止めすべく戦闘を開始した。双方から散発的な射撃音が鳴り響き、やがて静かになった頃。

 敦賀たちの背後で、二つのヒットコールが上がった。

「長篠! 一ノ谷! くそ、畜生!」

「立ち止まらないで、隊長! 奴らの犠牲を無駄にするつもりですか!」 

 関原がそう叱咤激励するが、ポリタンクを引きずるように運ぶ敦賀の足取りはおぼつかない。そこに長篠と一ノ谷を手早く屠ってきたSチームが追いついてくる。

「くそっ、隊長こっちです――ヒット!」

 猛追してくるSチームから敦賀を庇おうと遮蔽物の影に押し込んだところで、関原が撃たれた。

「関原あああああ!!」

 倒れ伏した(実際は降参ポーズでセイフティに帰っていく)関原を前に、敦賀の悲痛な絶叫がフィールドに響き渡った。


「……あの、何してるんですか?」

 仲間の全滅を嘆く敦賀にそう尋ねたのは、ヴァルキリーズの真由だ。

 ドリフターズは全員、やたらと声がでかくて良く通る。今のやり取りもフィールド中に聞こえていたから、どうやら彼らがピンチらしいと駆けつけてきたのだが。

「ヴァルキリーズか。助かった……こいつを本部まで届けてくれないか」

 真由と葵、そして伊織を見た敦賀がほっとしたように息を吐いた。

「そのつもりで救援に来たんですけど。敦賀さんはどうするんですか?」

「部下を置いて、指揮官一人おめおめと生きて帰るわけにはいかん」

「みんなセイフティに戻りましたけど」

「俺が敵を足止めする。その間に、コイツを頼む……!」

 ポリタンクを差し出して、頭を下げた敦賀を前に真由と葵は困ったように顔を見合わせる。

「あの、ちょっと思ったのだけれど」

「何ですか、葵先輩?」

「これってもしかして、ここは俺に任せてみんな逃げろってやつをしてるんじゃないかしら?」

 葵は背を屈めると、真由に耳うちするようにそう言った。

「……こんな迫真で?」

「ほら、ドリフターズの皆さんは元演劇部だっておっしゃっていたし」

「あー、要するに超なりきりプレイってことですか」

 コソコソと話し合っている二人の横から、伊織が敦賀の前に進み出た。彼女はそこで膝を突くと、そっと敦賀の肩に手を乗せる。

「ドリフゼロワン、私も残ります」

「あれ? 伊織先輩? なんでちょっと泣いてるんですか?」

「私も一緒に戦います。やられた人たちの分まで!」

「ヴァルキリーワン……」

 その言葉に、敦賀が顔を上げた。驚きの表情で伊織を見つめている。顔面を守っているのがヘルメットについている透明なバイザーのおかげで、表情が分かり易い。

「……済まない」

「こういう時は、ありがとうって言うんですよ」

 絞り出すような声で謝った敦賀に、伊織はそう言って手を差し出した。二人はガッシリと握手をする。

「葵ちゃん、真由ちゃん。それを持って先に行って。私も後から行くから」

「それは良いんですけど。なんで先輩までそっちの世界に入っちゃってるんですか」

「いいから行って! 必ず追いかけるから! 早く!!」

「先輩、演技巧すぎません?」

「伊織ちゃんは感性豊かだから……あとたぶん、演技じゃないわ」

「それ単純っていうんですよ、葵先輩。要するに空気に流されてるだけじゃないですか」

「ほら、伊織ちゃん合気道やってるから……」

「関係ないですよ! あと合気道やってる人に失礼ですよそれ!」

 などと、二人が言い合っている間に伊織と敦賀は空気を読んで待ってくれていたSチームの皆さんに武器を構えた。

「ここは断じて通さん!」

「ここは絶対に通さない!」

 そう雄叫びを上げて、迎撃態勢をとる二人。

「あ、もう駄目ですね、コレ。先輩完全に入っちゃってます」

「行きましょう、真由ちゃん」

「はい。あ、タンクは私が持ちますよ」

「ヒットーー!」

「ドリフゼロワン!? そんなっ!!」

「いや早すぎるでしょ! って、ちょっと待って! 助けて葵先輩!!」


 この後。一瞬でヒットされた敦賀の弔いにと奮起した伊織の活躍によって、Sチームは再び全滅することになる。ちなみに物資は無事、真由が本陣まで運び込んだ。

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