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ふじ分遣隊  作者: 高嶺の悪魔
第三話 THE Great War 〜それぞれの戦い〜
22/28

その8

『司令部、こちら偵察。敵が友軍の攻撃を退けました』

『司令部了解。こちらでもその情報は得ている』

『敵は増援を得た模様。先ほどまでとは違い、統制の取れた動きをしています』 

『司令部了解。ふむ。ようやく強豪チームが出張ってきてくれたかな』

『そのようです』

『よろしい。ゴールドチームを出撃させる。引き続き情報収集を続行せよ』

『了解』


 しばらくすると、薄暗い室内の向こう側からヒットコールが連続しだした。敦賀たちドリフターズの後を追わせたプレイヤーたちの声だ。

「来たな」

 自陣内に置かれているポリタンクを見通せる位置に身を隠していた辰巳の呟きに応じるように、無線に通信が入る。

『ブラボーシックス、こちらドリフゼロツー』

 長篠だった。

『Sを発見。四名編成の一個班。右翼側からまっすぐにそちらへ向かってます』

「了解。手は出すなよ」

『分かってます』

「聞こえたか、ヴァルキリーワン。出番が近いぞ」

『了解であります。必ずや辰巳さん、じゃなかった。司令官のご期待に応えてみせましょう』

 張りきった伊織の声に、辰巳はよろしく頼むと返して通信を切る。

「……ほんとに、彼女一人で大丈夫なんですか?」

 自陣に置かれているポリタンクを見張りながら、充希が不安そうに訊いた。

 辰巳がほとんどのプレイヤーを出撃させてしまったから、陣地は空っぽだ。いま陣地を守っているのは辰巳と充希の他、上階で見張りについているタウラスたちのゾディアック、そして物陰に身を隠して迎撃の体勢を取っている伊織たちヴァルキリーズだけだった。

 辰巳はたったこれだけの戦力で元、或いは現役の自衛官や警官で構成されている相手に勝つつもりでいるというが。その先鋒を任されたのが、あの小柄な少女だということが充希には信じられない。

「まあ、見ていろ」

 そんな充希に、辰巳は言った。その声は確信に満ちている。それほど辰巳が伊織のことを信頼しているのが分かって、充希は何となく胸が苦しくなった。

 そこへ。

「ヒットっ!」「うわっヒット、ヒット!」「ヒットー!」「ヒットしましたー!」

 上階から複数のヒットコールが響いた。見張りについていたゾディアックのメンバーたちだ。

「来たぞーー!」

「ほぼ同時に、数はきっちり四人分。思った通りだ」

 警告の叫びに、辰巳が静かに呟く。

「どっちからだ!?」

「分からん! 見えない! ……って、ヒットォ!!」

 騒がしいやり取りに、ヒットコールがさらに連続する。それに辰巳は無線のスイッチを入れた。

「ゾディアックの諸君。隠れてろ。身体を出すな」

 そう指示してみたものの、ただの学生チームであるゾディアックはいまいち纏まりに欠ける。あっという間に十二人中の、七人が退場となってしまった。しかし、それでも。

「いたぞ! あの大きい機械の後ろだ! ええと、右側の……あれなんて言うんだ?」

「プレス機だ! ヒットーーーー!!」

 貴重な情報と引き換えに、一人が元気よく退場していく。

「あーあ」

 騒ぎを聞いていた充希がやれやれといった声を出す。

「まあ、仕方ない。相手が相手だ」

 その横で辰巳は少し悔しそうだった。仲間を如何に最後まで生き残らせるかということにゲームプレイの重きを置いている彼にしてみれば、たとえ即席チームでもメンバーが次々とやられてゆくのを見るのは口惜しいものがあるのだろう。

「それにしても、静かですね。あっちは」

 気にしても仕方がないというように、充希は口を開いた。それに辰巳の作戦は今のところ、順調に進んでいる。

「銃の性能もあるんだろうが。それ以上に各自の役割が明確に決まっているんだろう。様々なシチュエーションで、誰がどう動くかも事前に決めてあるはずだ。それにプロだからな。必要なやり取りはハンドサインでも十分だろうから、声を出す必要もない。徹底したチームプレイってやつだな」

 それを聞いた充希はますます不安になる。

「そんなヤツらの相手を、あんな子に任せて大丈夫なんですか?」

 再びそう訊いた充希に、辰巳はしかし「まあ見ていろ」と同じ言葉を返す。

「相手がチームプレイで来るなら、こっちはまずスタンドプレーだ」

 その信頼が、充希は面白くない。我ながら子供じみているとは思うが、それでもままならないのが恋心というものである。

「それじゃ、お手並み拝見させてもらいましょ」

 誰に聞かせるでもなく、充希は拗ねたように独り言ちた。


『司令部、こちらゴールドリーダー。敵陣に到達。敵影は見えない』

『司令部了解。敵は必ず見ている。気を抜くな』

『ゴールドリーダー了解……と』


「お待ちしてました」

 黒一色の装備に身を包んだ四人の男たち、JAFの精鋭、Sチームの前に伊織は颯爽と立ちはだかった。小柄な身体を可愛らしい装飾のされた戦闘服に包んでいるその見た目は、戦場にはあまりにも場違いだ。だというのに、彼女は目の前の男たちを微塵も恐れている様子がない。

 あまりにも堂々としたその登場に、わずかに面食らったように動きを止めたSチームの面々だったが、彼女の腕に青い腕章が巻かれているのを見てとると、無言のうちに射撃を開始した。

「おっと! 挨拶も無しですか!」

 驚いたようにその場を飛び退いた伊織に、別の隊員が引き金を引く。一射目で躱された場合を想定して、残る三人はその逃避先となるだろう場所へ狙いをつけていたのだ。

 これがチームプレイというものだと教えるようなその動きに、しかし。

「お上手!」

 伊織は褒めるように言いながら身体を捻って、その弾を全て躱した。

「む」

 まさか、これも避けられるとは思っていなかったのだろう。指揮官と思われるワッペンをつけた男がそれを見て、わずかに動きを止めた。

 だが、決して想定外ではない。指揮官が片手を軽く振って合図すると、四人は入れ替わるように射撃しつつ、半円を描くように展開しだした。半包囲して、十字砲火で仕留める作戦なのだろう。だが。

「その手は辰巳さんに教えてもらったことがあります! ふふふ。甘い、甘いです!」

 伊織はくるくると円を描くように動きながら、四人の射撃を完璧に躱していった。大きく動いているわけでもないのに、なぜか走り回っている相手を狙っているかのように男たちの照準は定まらない。

「くそ、なんで当たらない!?」

 遂に我慢できなくなったのか。一人が舌打ちするように声を漏らした。至近距離、それも訓練されたプロ四人による一斉射撃。それがどうして躱されるのか理解できないという声だ。

「馬鹿、無駄口叩く前によく狙え!」

 別の隊員が叱るように言い返す。

「いえいえ。むしろ、狙いが正確過ぎて避けやすいくらいですよ!」

 それに伊織はくるくると、ひらりひらりと飛び交う弾を避けながら朗らかに笑った。その様はいっそ、踊るようだ。

「何者だ、この子……」

 隊員が途方に暮れたように呟く。

「四人でこれだけ撃ちまくってるのに……」

「そうか!」

 そこで、四人のリーダーらしき隊員が合点のいったように声を上げた。

「あの動き、何処かで見たことがあると思った。合気道だ!」

「そのとーり!」

 はなまるをあげましょうと、伊織は片手で空中に円を描く。

「合気道とは天地の気と合する道。天地一体、天人合一。我、即ち宇宙也。その極意はあらゆる力とぶつからず、受け止めず。ただ全てを受け入れること。攻撃は捌いて導き、受け流す。つまり、この私に銃撃は利きません!」

 高らかに宣言する伊織。そんな馬鹿なと男たちは息を呑む。

「さて。そろそろこちらからも仕掛けさせてもらいますよ!」

 言いながら、伊織は両手でそれぞれ一挺ずつ、銃を抜いた。それはピンク色に塗装され、ファンシーなシールでデコレーションされたコンパクトサブマシンガンだ。コンパクトなサブマシンガンの二挺持ち。それが伊織のスタイルだった。

「……スコーピオンか?」

 銃と呼ぶにはあまりにも可愛らしい有様に変貌してなお特徴的なシルエットのそれを見たS隊員の一人がぽつりと零す。その目の前で、少女が突然加速した。

「すみません。ここ、フリーズコールは禁止らしいので。出来るだけ痛くないところを撃ちますね」

 あっという間に隊員の一人に肉薄した伊織は、そう謝った。

「それは、どうも」

 突然、目の前まで迫ってきた美少女の顔を茫然と見つめながらお礼を言った彼に、伊織はにこりと笑って。

「ヒット!」

「ラビット!!」

 自らの戦死を叫んだ隊員に、リーダーらしき隊員が叫ぶ。

「ラビット、ダウン! 一旦退くぞ!」

 彼の判断は素早かった。当然、それに従う隊員たちの動きも早い。しかし。

「おっと、逃がしませんよ!」

 伊織は両手に持ったサブマシンガンを代わる代わる撃ちまくりながら彼らを追う。


「相変わらず、魅せる戦い方だな」

 伊織とSチームの戦いを物陰から見守っていた辰巳が呟く。あれだけ動き回りながら、撃つ際は必ずその方向に視線を向けているのも大したものだった。

「柔よく剛を制すとは柔道でよく使われる言葉だが、合気道では小よく大を制すともいうらしい。幼い頃から父親に技術を叩きこまれてきた技術に、伊織くんの天性の運動能力と抜群の動体視力が加わって、たとえ取り囲んだとしても彼女からヒットを奪うのは難しい」

 そう伊織を褒める辰巳の横で、充希は言葉もない。

「チームプレイには、スタンドプレイってこういうことだったんですね……」

 茫然とした充希の声に頷いてから、辰巳は無線のスイッチを押す。

「さて、敵は崩れた。ヴァルキリーズ諸君、君たちのリーダーに続け」

『アイサー、司令官』『かしこまりました』

 その呼びかけに、二人の戦乙女が応じた。


「隊長! 参戦しますから私を撃たないでくださいよ!」

 そんな声とともに、二挺のマシンガンを手に追いかけてくる冗談のような戦闘少女から、命からがら逃げているSチームへ新たな敵が襲い掛かった。やはり、相手は少女だ。いや、ここにいるのだから十八歳以上なのだろうが、どちらも小柄でフェイスマスクのせいで顔も見えず、声から察する限り少女と呼ぶより他にない。

 手にしているのは、やはり小型の銃だ。ピストルサイズのライフルらしい。少女が引き金を引くと、一瞬でちょっと信じられないくらいの弾幕を吐き出した。

「パトリオット! ハイサイクルカスタムだ!」

 一人が警告するように叫びながら、物陰に急いで隠れる。

「くそっ、ここで増援か」

 Sチームのリーダーは悔しそうに零した。

「どうします? 自分ら、ここへ戻れるのはあと二回ですよ?」

 すぐ近くのコンテナに隠れている隊員からの問いかけに、分かってるよとリーダーは手を振って応じる。

 彼らとて鬼ではない。現役自衛官の自分たちが全力でプレイしてしまえば、普通に遊びたい人たちを押し退けてゲームの主導権を握ってしまうことくらいは想像できた。

 そこで、彼らは店のルールとは別に独自の復活制限を設けていた。一日を通して、復活は三回まで。一度入ったフィールドからは弾がつきてもヒットされるまで出られない。腹が空いた、喉が渇いた、トイレを催したなどの理由でフィールドを出てもヒット扱いになる、といったものだった。

 それでもまだぬるいと思っていたのだが。どうやら、それは敵を甘く見過ぎていたようだ。

「司令部に救援を要請した。レッドチームが来るまでどうにか粘るぞ」

 どうみても絶望的な状況下で、それでもリーダーはそう答えた。レッドチームはJAFの通常隊員だけで構成されたチームだ。ここまで来たところで、あのターミネーターもかくやの女の子相手に勝てるとは思えないが。それは自分たちにも言えることだ。新しく出てきた敵も中々手強い。チームの一人が欠けた状況で、どこまで戦えるだろうか。

 そう考えている彼の尻を、ぱちんと何かが叩いた。言うまでもなくBB弾だった。それは景気よく弾をばらまいている二人の少女とは全く別方向から飛んできたものだ。信じられない気持ちで振り返ると、障害物と障害物のわずかな隙間からもう一発BB弾が飛び込んできた。

「……ヒットォっ!」

 狙撃かっ、と心の中で悔しさを叫びながら、リーダーは力強く野太い声で自らの戦死を宣言して立ち上がる。自分を討ち取った相手をせめて一目でもとフィールドを見回した彼の目に、十メートルほど先のコンテナに隠れながらスナイパーライフルを構えている葵の姿が映った。一切のブレがない、綺麗な射撃姿勢だなと感心しながら、彼は退場した。

 その後、隊長を失ったSチームは、たった二人の女の子相手に為す術なく全滅した。


『ヴァルキリーズが敵の精鋭チームを排除した! 連中が戻ってくる前にありったけの人員を敵陣へ送り込む! ドリフゼロワン、やることは分かってるな!』

「おうともよ!」

 辰巳の合図に、敦賀はホルスターからリボルバーを抜いた。ライフルは重かったので陣地に置いてある。歳には勝てない。

「行くぞ! 敵拠点を強襲して、テロリストに奪われた核物質を取り戻す!」

 それに、彼と同じくGIGN装備に身を包んだドリフターズのメンバーが威勢よく応じる。彼らの中ではいつの間にかそういうストーリーになっていた。

「俺たちも行くぞ、ドロシー。援護してくれ」

「……っ、はいっ!」

 伊織の戦いぶりに見入っていた充希は、辰巳の声に弾かれたように顔を上げる。その内心には、辰巳とともにサバイバルゲームに参加するようになってから感じたことのない感情が渦を巻いていた。

 焦り、不安。いや、そのどちらでもない。

 辰巳から信頼されて一人で戦える彼女と、辰巳の援護しかできない自分。それを心の中にある天秤にかけながら、充希は辰巳の後を追った。

 それが嫉妬という感情であることを、痛いほどに理解しながら。


 ドリフターズが東軍陣地に襲い掛かると同時に、西軍側陣地で待機していたプレイヤーたちが一斉に空中回廊を渡って突撃を開始した。ドリフターズの攻撃によって混乱していた東軍側の防御部隊はこれに対処できず、あっという間に崩壊する。

 退場したSチームが大慌てでフィールドへ戻ってくるまでの間に、西軍は敵陣から四つのポリタンクを奪い去った。

 瞬く間に形勢は逆転した。しかし、それで終わったわけではない。

 再出撃してきたSチームの油断を捨てた逆襲によって、再び物資が奪われ、それをタスクフォース・レインボーが決死の猛攻で取り返す。その戦いが噂となって広まるにつれ、双方のチームに腕の覚えのあるプレイヤーたちが集まり、少し前まで最も不人気だった屋内フィールドは一転して、本日の最激戦フィールドへと変貌したのだった。


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