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止まった時計の針  作者: Tiroro
中学二年生編 本編その1 止まった時計の針
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第96話 巻き戻す時計の針

『君が願えば贈り物(ギフト)は発動する。

 チャンスは一回だ。

 時間が戻った世界でも、それまでに使っていた贈り物(ギフト)の使用回数までは戻らない』


 ギフト……たった一度切り、私に使える最高の切り札。

 それで友達を救えるのなら躊躇する必要なんてない。


 だから……お願い、時間を戻して。

 悲しい事が起こる前に、時間を戻して──────・・・



・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


 不思議な感覚……これが、時間を戻すということ……?

 少しずつ、白んだ景色が左右になびくように歪んでいく。

 神様の優しい顔も、少しずつ霞んでいく。


 本来なら、恵利佳を救うことができなかったとき使うはずだった能力(ちから)

 私はこれまで、それを使うこと無くここまで来られた。


 それは、私だけの力じゃない。

 みんなが私を助けてくれたから。支えてくれたから。

 何より、謙輔が味方になってくれたから。


 あなたは、私を好きだと言ってくれた。

 それを断った私は、ひどく後悔した気持ちになった。

 寂しそうに笑うあなたを見るのが辛くて、私は逃げた。


 本音を言うと、自分の中にあった気持ちから逃げてたんだと思う。

 ……たぶん、私もどこかで、そんなあなたのことを好きになっていたんだろうね。

 悠太郎に申し訳なくて……一瞬でもそんな気持ちを持ってしまった自分が許せないし嫌いだった。


 だから……せめて、私はこの力をあなたの為に使おう。

 それが、私にできるあなたへのせめてものお返し。

 私のこの気持ちは、この感謝(ギフト)に乗せて──── ── ─




・・・

・・・・・・

・・・・・・・・


◆◇◆◇



「だ、大丈夫か? 玲美……?」


 ……瑠璃だ。

 たしか、私達はバス乗ってたはず。

 でも、ここはお世話になってた旅館の中。


「瑠璃、謙輔は見つかった!?」

「いや、まだ見つかってないけど……?

 それより、お前が急に倒れたから保健の先生のところに連れて行こうとしてたんだぜ」

「そう……ありがとう、瑠璃。

 でも、私行かなきゃいけないから」

「行かなきゃって? さっき倒れたばかりなのにどこに行くんだよ!」



 瑠璃が止めるのを振り切って、私は走った。


 今の時間は……午後4時を少し回ったところ。

 きっちり24時間戻ってこれたんだ。


 謙輔が見つかったのは明日の午後2時頃だったはず。

 まだ大丈夫だと信じたい……とにかく、急がなきゃ。

 場所はここから少し離れた山にある小屋。いくら方向音痴の私でも場所はわかる……はず。


 えっと、ここはフォトなんとかで通った噴水だから、左に曲がると広場があって……。





 神様……なんで私に方角に詳しいギフトくれなかったの!?

 やばい、致命的だ……ああああ!!

 広場じゃなくて坂道に出たじゃん!!


 時間は……もう30分くらい経った?

 一度しか使えない力なのに、今度こそ取り返しがつかなくなっちゃう……急がなきゃ……、とにかく走らなきゃ……。


「あれ? 玲美ちゃん、こんなとこで何してんの?」

「……哲ちゃん?」

「おいおい、ただでさえ渡辺が行方不明になってんのに、一応女子のお前がこんなところうろついてたら先生に怒られるぞ」

「小岩井……? 二人こそ、こんなところで何してんの?」

「こいつの学校でも行方不明者出てんだよ。何でも石川の親友だって言うしな。

 渡辺探すついでに一緒に探してやろうかと思ってな」


 小岩井って、見ないと思ったら謙輔を探しに行ってたのか。

 あまり仲良さそうには見えなかったからちょっと意外。

 それにしても、行方不明者が哲ちゃんの親友ってまさか……。


「哲ちゃん、もしかしてその親友って宇月一哉君?」

「そう、かっちゃん。

 あれ? 僕、玲美ちゃんにかっちゃんのこと言ってたっけ?」

「あのいけ好かねえ野郎が行方不明なんて、ぶっちゃけどうでもいいんだけどな」


 宇月君がもう行方不明になってる……犯人が誰かはわからないけど、もう二人に残された時間はあまり無いんだ……。


「あの、さ……私、二人の居場所知ってる。

 理由を詳しく話している時間は無いけど、ともかく知ってるの。

 でも、私一人じゃその場所にたどり着けない……。

 だから、小岩井も、 ……哲ちゃんも、できたら私を助けてほしい」


 もう、こうなったら二人に頼るしかない。

 私だけでは方向音痴過ぎて小屋にたどり着けない。

 哲ちゃんには、虫が良すぎるって取られるかもしれないけど……でも……。


「いいよ!」

「仕方ねえな……じゃあ、二人がどこにいるのか教えてくれ」

「……めっちゃあっさりしてるね」


 哲ちゃんのあまりの軽いノリに思わずそう呟いてしまった。

 私が考えすぎなのかな……ともかく、急がなきゃ。


「場所は旅館のはずれにあった小屋なんだけど、どこだったかわかんなくて……」

「お前、それ反対方向だぞ……ったく、方向音痴治ってねえんだな」

「三人で遊んだ後、いつも玲美ちゃんちに送りに行ってたの思い出すね」


 私の黒歴史をほじくり返さないで。


「さあ、幼馴染トリオが揃ったところで、渡辺捜索隊出発だ!」

「おーっ! かっちゃんも忘れないでね!」


 私がここまで作ってたシリアスな雰囲気を、小岩井達があっさり変えやがった。

 そんなこと言ってる場合じゃないんだけど……ともかく、反対に来てたみたいだし急がないと。


「それにしても、そんなところに二人とも居るのか。

 野郎二人で何やってんだあいつら……」

「まさか……かっちゃんったら禁断の……」


 果たして、この二人に助けを求めたのは正解だったのだろうか。

お読みいただいてありがとうございましたペコリ(o_ _)o))

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― 新着の感想 ―
[良い点] いやいやいや、今まさに禁断過ぎる状況なんですよ……っ!(血を吐く) それどこじゃないけど、小岩井くん出てきたら楽しくなっちゃう。がんばれ、玲美ちゃん!
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