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止まった時計の針  作者: Tiroro
中学二年生編 本編その1 止まった時計の針
92/106

第91話 見 ツ ケ タ

宇月一哉視点です。

 やれやれ……昨日は大変な目に遭った。

 まさか、この俺ともあろうものがあんな連中にペースを乱されるとはな。

 しかし、あんな猿みたいな連中にはもう関わらなければいいだけの事。

 とりあえず今は、石川に日高から手を引かせて、日高からは渡辺の情報を聞き出す事が先決だ。


「かっちゃん」


 振り向くと、そこにはあれだけ探しても見つからなかった石川が居た。


「石川……お前、今までどうしてたんだ」

「普通にキャンプに参加してたけど?」

「いつもならほかっといても勝手に寄って来るような奴が全然現れないから、何かあったのかと思ったぞ」

「心配してくれてたんだね。やっぱりかっちゃんは優しいなぁ」


 俺が優しいだと? 反吐が出る。

 俺はお前達の事を心配した事など一度たりとも無い。

 体良く復讐の為だけに利用してやる、所詮お前達は俺の駒だ。


「俺は、お前に言わなくてはならん事があっただけだ」

「奇遇だ。僕もかっちゃんに言わなきゃいけないことがあるんだ」


 こいつが俺に? 一体何を言うつもりだ。


「僕さ……、んー……」

「言いたい事があるならさっさと言え。ラジオ体操に間に合わんだろ」

「……振られちゃったんだ、僕」

「……そうか」


 振られた……日高に振られたのか、こいつは。

 わざわざ俺が説得するまでも無く。

 それにしては、意外とあっさりしてるな。もっとしつこく行きそうな感じがしたんだが。


「そうかって……俺に任せとけみたいなこと言ってたじゃんか!」

「お前が勝手に動いて勝手に玉砕したんだろ。俺には関係無い所で」

「そうだけどさー……せめて友達として慰めておくれよ!」

「誰が友達だ。お前がそう勝手に思ってるだけだ……って、寄るな、暑苦しい!」

「かっちゃーん……」

「……ほら、ラジオ体操行くぞ」

「やっぱりかっちゃんは優しいね!」


 ああ、まただ。

 また俺はこうやってペースを乱される。


 石川に、河村。

 他にもクラスの連中達。

 復讐の為に転生した俺は、もともと誰とも仲良くする気は無かった。

 なのに、皮肉な事に今の俺には自然と人が集まってくる。

 俺がヤツに憎悪を燃やせば燃やすほど、周りに人が集まってくる。

 今世の宇月(オレ)は、前世の中野(ボク)と比べてこんなにも恵まれている。

 そして、そんな奴らに囲まれていると、ずっとこのままで良いじゃないかとふと思ってしまう事もある。


 俺は、本当に復讐の為に転生したのだろうか。

 時々そんな疑問が脳裏に浮かんでくる。

 まるで、前世で失っていた中野(じぶん)を取り戻すかのように、今の宇月(オレ)は恵まれている。


「かっちゃん、昨日は誰かと踊ったの?」

「ああ……面倒だから全部断った。俺はああいうのは眺めている方が好きなんだ。

 お前こそ、そこそこモテるだろ。ストレス発散に誰かと踊れば良かったじゃないか」

「その時に振られたんだよ僕は……」

「……すまん」


 前世でも、俺が少しでも今の俺のようだったら……少しは変わっていたのだろうか……。


 引きこもって真っ暗な世界で過ごす事も無かった……

 両親を苦しめる事も無かった……

 その結果、両親は家に…………火を………つけ………………ッ!


「うわぁああああああ……っ!!」

「か、かっちゃん!? 大丈夫!?」


 思い出すだけで体が熱くなる……。

 水膨れに塗れた体で、ただ復讐だけを誓ったあの日。

 中野(ボク)が死んだ日こそが、宇月(オレ)の始まりだったじゃないか。


「……すまん。ちょっとスズメバチが目の前を横切った気がした」

「ああ……そう。それはビックリするよね……」


 思わず頭を押さえてしまったが、石川の馬鹿にはこれで誤魔化せただろう。

 あの日の事を思い出すと、今でも発作的に思わず叫んでしまう。

 やはり……、俺には復讐しか考えられないようだ。

 この苦しみから解放されるには、やはり早く渡辺謙輔を見つけなくては……。


「じゃあ、僕はクラスの方行ってくるよ。またね、かっちゃん」

「ああ。またな」


◇◇◇


 ラジオ体操が終わり、朝食を摂る為に宿泊施設へと向かう。

 これが終われば、今日は登山だったか。

 坂道は足腰を鍛えるのに役立つ。

 近所にもこういった登山道があればトレーニングに使えて良いのだが、自宅から富士山へは流石に遠いか。


「朝は澄んでいて良い空気ね」

「河村さん」

「おはよう。昨日は変な事に巻き込んでごめんなさいね」

「ああ……。まさか、君の彼氏があんな……、いや、すまん」

「いいのよ。お馬鹿でしょう、彼」


 そう言いながら、今まで見たことが無い柔らかい表情で笑う河村。

 こいつ、こんな表情ができたんだな……。


「次は絶対に勝つって言ってたわ」

「俺に? まだ誤解してるのかあいつは」

「言わせておいてあげて。彼がああやって騒いでいるのを見ているのが好きなの、私は」

「そうか、幸せそうで何よりだ」


 前世の自分にあったかも知れない、この尊くも感じる中学生時代を今だけは享受しておくか。


「日高さんとも普通に話せた……貴方には散々な一日だったかも知れないけれど、私にとっては素敵な一日だったわ」

「河村さんと日高さんの間に何があったのか、俺は当事者では無いけれど……。それでも、君が前に進む切っ掛けになったのなら良かったと思うよ」

「貴方にも、そういったものが早く見つかるいいわね」

「なかなか見つからないんだ、俺のは……」


◇◇◇


 朝食が終わり、いよいよ登山へと出発か。

 また先生方の長い話を聞く事になるんだろうが……、精神が大人のせいなのか、それほど嫌な気はしない。


「わっ! ごめんなさい!」


 誰かが俺にぶつかってきた。

 見ると、小学生みたいな……いや、中学のジャージを着ているから、障碍者か。


「大丈夫か? すまんな、避けてやれなかった」

「いえ、僕の方こそもっと気を付けていれば……ごめんなさい」

「おい浩太、あんまり走ると転ぶぞ」

「ごめーん、謙輔君」


 ……?

 今、こいつ何て言った?


「あんた、悪かったな。俺が目を離したばっかりに」

「僕が子供みたいなこと言わないでよー」

「実際ガキだろうが! 俺もガキだけどよ!」


 こいつ……、謙輔……?


「じゃあ、俺達は行くからよ」

「待ってよ、謙輔君! 僕足短いんだよ! また走るよ!」


 あの姿……、あの顔……。

 忘れもしない。


 謙輔……。

 渡辺謙輔……────!




 前世の俺を苦しめた存在。

 俺の復讐相手。

 渡辺謙輔。ワタナベケンスケ。わたなべけんすけ。ワタナベケンスケ。渡辺謙輔。わたなべけんすけ。ワタナベケンスケ。渡辺謙輔。ワタナベケンスケ。わたなべけんすけ。ワタナベケンスケ。渡辺謙輔。わたなべけんすけ。ワタナベケンスケ────────…………………………………………













 ────見 ツ ケ タ。 

作者の中で渡辺謙輔がゲシュタルト崩壊。

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― 新着の感想 ―
[良い点] み、見付かったー!? これは……もう玲美ちゃんの力で既に改心(?)してるのだとか言ってもきっと通じそうにない感じが……
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