表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
止まった時計の針  作者: Tiroro
中学一年生編 その4 転校生の少年と幼馴染達の恋事情
69/106

第68話 そして、運動会

 運動会もいよいよクライマックス。

 この日、この瞬間の為に、俺は自分自身を磨いてきた。


 高山と同じ競技に参加し、俺が勝つ。そして、悠希に告白する。

 その事だけを思い描いて頑張ってきたのだが、昨晩ついに気付いてしまった。


 同じクラスだから、戦えねえ────。



 まあいいさ。めいっぱい活躍して、そして悠希を振り向かせる作戦に変更だ。

 “一人騎馬戦”の練習も、無駄にはならないはずだ。


「俺達のクラスが勝てば、赤組の優勝に近付くぞ」


 伊藤が無駄に爽やかな感じで声を掛けてきた。

 てゆうか、やっぱでかいなお前。とてもじゃないが同じ中一とは思えん。

 日高と付き合ってるんだっけ? 見た感じ、完全に大人と子供のカップルじゃないか。


「僕がこのクラスを優勝に導く!」


 高山が意気揚々と声を上げた。

 クラスが勝ったところで、二年や三年が負けたら意味無いんだけどな。

 それより俺は、このハーフ野郎よりも活躍して、俺の方が強いんだって悠希に見せてやるんだ。

 見てろ、絶対負けねえからな。


「なんで俺が馬役なんだ……騎馬戦に関しては俺が最強のはずなのに……」


 そう言って落ち込んでるのは小岩井だ。

 ネガティブな発言をしながらも、奴はどこで手に入れたのかリアルな馬のかぶり物を被り始めた。


「今年こそ、謙輔と決着をつけないとな」


 伊藤は、ストレッチをしながらそう呟いた。

 ケンスケってのは、四組の渡辺謙輔のことか。

 よくわからんが、あいつと伊藤はライバル関係なのか?


「任せろ、伊藤。俺が騎馬をやるんだ、負けはねえぜ」


 間抜け面の馬が何か言った。


******


「いよいよですわ! 高山君の活躍と伊藤様の雄姿が見られるのね!」

「こら女帝! 悠太郎君は玲美の彼氏だって言ってるでしょ!?」


 女帝(笑)と明川さんが何か言い合ってるみたいだけど、それよりも早く運動会が終わらないかなーなんて思ってる私。

 運動はそんなに好きでも得意でも無いし、これなら教室で授業聞いてた方が良かったなって思う。


「二宮さん、楽しんでる?」


 ふと、日高さんが話し掛けてきた。


「ええ、まぁ……」


 とりあえず、そう返すとどこか不満げな顔。


「宮下君が出るんだよ?」

「え? うん……出るね」

「応援してあげないと」

「そうね……うん」


 日高さんにそう説得されて、私も運動会最後のおおとり騎馬戦の観戦をすることにした。

 あれ? ……日高さんに隆弘と私が幼馴染だってこと話したっけ?


「日高さん、あなたもこっちで伊藤様の応援しなさいな。ワタクシは高山君の応援するんだから」

「悠太郎は絶対負けないよ! スロースターターなんだから」


 石野さんに呼ばれて、日高さんは前に行ってしまった。

 スロースターターって、騎馬戦に何か関係あるのかな……?

 女子達も、それぞれ目当ての男子を応援しに行ってしまった。

 私も隆弘の応援でもしようかな。


******


 ついに、決戦の舞台へ。

 俺を乗せた騎馬達が動き出した。

 前を進む高山の騎馬を見て、思わずハチマキを取ってやろうかと思ったのは内緒だ。


「宮下君、頑張ろうね!」


 ハーフ野郎が何か言ってるが、俺はお前に勝つために頑張るんだ。

 俺は俺の為に、頑張るだけだ。


「悠太郎、待ってたぜ」


 四組の渡辺が、騎馬の上で腕を組んで立っていた。

 辺りからはキングコールが鳴り響く。なんだこれ。


「悠太郎、悪いが今回は俺も敵だ」

「琢也……お前は今回も騎馬なのか?」

「俺を乗せれる奴がいなかったんだよ。ところで、そっちの騎馬……っていうか、馬!?」

「俺だよ、西田」

「わかんねえよ!」


 伊藤達が何やらやっているが、そんなことはどうでもいい。

 俺がやることは、高山よりも活躍する────ただそれだけだ。


『それでは、はじめ!!』


 銃声が鳴り響き、競技が始まった。


「六組の奴らから倒すぞ。二組と四組の連中は、なんだか厄介そうだからな」


 下の騎馬達に声を掛け、俺は六組の陣営に突撃した。


***


 試合は進み、俺はハチマキを多く握っていた。

 たぶん、高山よりも多いんじゃないだろうか。

 それにしても、相変わらず女子からの声援は多いな、あいつ。


「宮下君、凄いね!」


 暢気にそんなこと言っているが、俺はお前と勝負する為に頑張ってるんだぞ。


「試合中によそ見をするとは暢気な奴だな……ハチマキはいただいていくぞ!」


 二組のよくわからん奴が、もの凄い勢いで突撃してきた。

 狙われたのは高山だ。


 ぶつかった高山の騎馬は体勢を崩し、そのまま横倒しに倒れかけた。


「高山の騎馬を守れ!」


 思わずそう口に出してしまった。

 仕方ないだろ……目の前で大怪我でもされたらかなわないからな。


「いただきだ!」


 その隙に、白組の奴に俺と高山のハチマキは取られてしまった。


「ごめん……宮下君……」

「……仕方ねえさ。お前に怪我が無くて良かったよ」


 俺の騎馬戦は、ここで終わってしまった。

 だが、まあ……取ったハチマキの数は俺の勝ちだよな。


「隆弘ー! がんばったね、おつかれさま!」


 悠希の声が聞こえた。

 あいつ、ちゃんと見ててくれたんだ。俺は悠希に向かって大きく手を振った。悠希も手を振り返してくれた。

 これだけでも、もう俺は満足だ。

 あとは任せたぞ、伊藤。


******


「残るは俺達だけか……」

「余興は済んだ。そろそろ決着をつけるぜ」


 そう言いながら、謙輔は辺りを見回した。


「よし、小岩井の野郎は残ってないな」

「おい、渡辺! 俺はここにいるだろうが!」


 馬が何か言っているが、それよりも前に集中だ。

 回り込んでハチマキを取ろうにも、奴の騎馬達は今回も精鋭部隊のようだ。

 うちの騎馬達も悪くは無いが、おそらくあっちの方が上手……というか、小岩井の馬が股間に当たってなんか嫌だ。


「どれ、少しだけ俺の本気を見せてやる」


 謙輔は大きく振りかぶると、俺の目の前をその手がすり抜けるように動かした。

 まずい……取られる!?


「イヤーン!!」


 小岩井の素顔があらわになった。

 そう、奴はハチマキではなく小岩井の馬面を狙ったのだ。


「……謙輔!」

「お前が部活を頑張ってる間に、俺はゴム紐をひたすら引っ張る鍛錬を積んできたのだ」

「くそっ……帰宅部め!」


 迂闊に飛び込めば、さっきの技(?)の餌食になる……どうする?


「悠太郎、負けるなー! 謙輔なんてやっつけちゃえ!」


 玲美の応援が聞こえてきた。これで元気百倍だ。

 そして、うろたえる謙輔。あいつにとってはダメージだったか。


「渡辺君、頑張ってー!」


 女子からの声援? と思ったら、違った。

 たしか、校外学習で一緒の班だった新崎って子か。だが、これで謙輔はやる気を取り戻したようだ。


 ああ、そうか……お前はそういう奴だよ。

 小学校の時も、吉田に優勝をプレゼントしてやるって頑張ってたんだったな。

 今度は、あの少年の為に頑張ってやってるってわけか。

 だが……。


「ボウリングも負けて、負けっぱなしでいられるか! いくぞ、お前達!」

「来い、悠太郎!」


 考えても仕方がない、真っ向勝負だ────。


 俺の騎馬達だって、謙輔の騎馬に負けてるわけじゃない。

 小岩井は、こう見えて水泳は誰も勝てないし、石塚だって山には詳しいんだ。


「いただくぞ!」


 謙輔のハチマキ目がけて手を伸ばす。

 それをあいつはさらりと交わし、今度はあいつの手がこっちに伸びてきた。


「怯むな! 前に突っ込め!」


 俺は懸命に騎馬への指示を出した。

 だが、ここで石塚の動きが一手遅れた。


 『飯食った後に動いたから、横腹が痛かった』と、後に石塚は語る。

 ああ、俺……なんでこいつを騎馬に選んじゃったんだろうな。


 ──という、走馬灯のようなものが一瞬頭を流れた。

 だが、俺には決定的にあいつより有利なものがあった。


「俺の方がリーチが長いんだ!」

「しまっ……!?」


 大振りになってガラ空きの謙輔の頭上に手を伸ばす。

 騎馬達が慌てて下がろうとしたが、俺の伸ばした手がハチマキに届いた。


「うぉおおおおっ!!」


 そのままの勢いで、謙輔のハチマキを奪い取った。

 沸き上がる歓声……ああ、俺……勝ったんだ!


「負けたぜ、悠太郎……」

「まあ、これでイーブンってとこだな」


 俺と謙輔は固く握手を交わし、騎馬戦一年生の部は終わった。

 あとは先輩方、頼みます。

お読みいただいて、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ