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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第十七章

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第八話 布石


 やはり彼は、月龍に好意的なのだろう。有力諸侯の令息と聞いて恐れないのは、今までの月龍に対する言動がなんら恥じるべきものではないからだ。

 月龍は自嘲気味に笑う。


「知ったのはつい、先日のことなのです。それに私は薛侯に捨てられた身。その私が薛とのつながりを口にすることは、侯がお許しにならないでしょう」

「捨てられた?」

「双子とは縁起が悪いという理由で」

「それはまた――なんというか――」

「ええ、朱公殿も同じことを言っておりました」


 二の句を継げずにいる扁に、月龍は続ける。


「そのような理由で我が子を捨てる薛侯を信用できぬ、と。それで長年反発し、反抗し、この度の乱を機に朝廷への庇護を求めてやって来たのです」


 かすかに眉をひそめ、沈痛を装った表情が蒼龍の目には奇異に映る。発言の内容も、事実とは違っていた。

 唖然とし、否を唱えることすら忘れる。


「乱に加担する姿勢を見せる薛侯を見限ってのことですが――このままでは、薛家は反乱に加わった罪で断絶されるでしょう」


 朝廷が勝てば、確かにその通りだ。勝つ見込みなど、皆無に等しいけれど。

 それを承知しているはずなのに、月龍はあくまでその前提にのっとって話を進める。


「しかしここに、心ある令息が逃れてきたのです。見捨てるには忍びない。閣下はそう思われませんか?」

「まあ、それはたしかにな」


 それが事実であるならば。

 そう続けたいのか、商寄りの諸侯である薛を、また得体の知れない蒼龍を疑っているのか、扁の言葉尻はやや曖昧だ。


「そこで閣下、お願いがあるのです」

「――ほう、貴官が願いか。珍しいな」

「是非、この朱公殿を薛家の跡取りとして認めていただけるよう、陛下にご進言いただけませんか。それも、朱公殿の立場を考え、できるだけ内密に」

「――――!」


 扁と蒼龍、双方の顔色が変わる。おそらく扁は託された責任の重さに、そして蒼龍は月龍の思惑を理解したが故に。


 天乙の乱で朝廷が滅ぶのは、ほぼ必至。その場合、蒼龍は薛侯の元に戻り、家を継げばいい。

 だが万が一、朝廷側が勝利する可能性もある。王が滅し、亮が正式に王となれば、そのわずかな可能性もまた高くなるだろう。


 そうなったときに備えて、蒼龍に朝廷側との接点を持たせようとしたのだ。

 無論、順当にいけば朝廷は滅びる。それを踏まえたからこそ、内密に進めてくれと言ったのだろう。

 もっとも、もし公にされたとしても「内情を探るために潜り込んだ」などと弁明もできる。どちらに転んでも、蒼龍の身は安泰だった。


 その上月龍の説明を鵜呑みにすれば、蒼龍は捨てられた兄弟を思うが故に薛侯に反発し、放蕩は反抗の発露だったことになる。蒼龍の悪評を、兄弟思いの優しい男に仕立て上げた。


 愚直な月龍がこのような小細工をしたことに、驚きを隠せない。政治の中で揉まれてきた結果、否が応でも身につけざるを得なかった能力なのだろうか。


 あるいは、蓮を守るための手段を必死で考えた成果なのかもしれない。

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