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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第十六章

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第十三話 憎んで当然


「――生きている」


 安堵などという言葉で表現できるものではない。あの状況で月龍が蓮の命を奪っていたら、それは間接的に蒼龍が手を下したことになる。

 自分が蓮を殺したなどとは、冗談でも思いたくなかった。


 だが、生きていてくれた。苦しめたことに変わりはないが、それでも生きていてくれさえすればなんとでもなる。

 脱力する蒼龍を見て、月龍がわずかに口元を緩めた。


「やはりお前ならば任せられるか」


 口の中で呟かれたのは、理解不能なものだった。

 問い返そうとする蒼龍を遮るように、月龍が続ける。


「近々、蓮と結婚することが決まった」


 突然と言えば突然すぎる宣言だった。

 唖然とし、すぐに納得する。蓮との正式な結婚が、月龍の心に安定を与えたのだろう。だからこうして、落ち着いていられるのだ。

 二人はすでに誤解を解き、仲睦まじく暮らしているのだろう。


 頼みとやらも想像がついた。これ以上邪魔をするな、もう二度と姿を現さないでくれと念を押しに来たのだろう。

 ごねてやろうかとは思った。皮肉の一つや二つ言って、困らせてやろうかと。


 ――もう二人の邪魔をする気など、消え失せていたけれど。


「そこで、頼みだ」


 月龍が、穏やかな笑みのままに口を開く。


「蓮を――幸せにしてやってほしい」


 耳は月龍の言葉を受け止めていた。けれど意味を把握しかねて、呆然とする。

 蓮と結婚するのは月龍のはずなのに、幸せを蒼龍に託すとは、どう考えてもおかしな話だった。


「なにを言っている。蓮は――」

「蓮は、お前を愛している。亮からの求婚を断るほどにな」


 静かに告げる顔にはやはり、笑みが浮いている。


「本来であれば、おれが身を引くべきなのはわかっている。だがおれは、彼女なしでは生きて行けない。そこで慈悲に縋った。君の夫という名が欲しい、実を伴わなくていいから傍に居させてほしいと」


 結婚が決まった、と言っていた。ならば蓮は、その条件を呑んだのだろうか。

 慈悲を施したのではなく、蓮自身が月龍の傍を選んだということではないのか。


「代わりに約束した。戦地へと赴き、できるだけ早く武功を立てた後に死ぬことを」

「蓮があなたの死を望んだと?」


 あり得ない。あの蓮が誰かの、まして月龍の死を望むなどと。


「そうだ。なにせ彼女自ら、おれを殺そうとするほどに思いつめていた」

「――まさか」

「おれを懐剣で刺そうとした。死を望まずにやることではないだろう」


 唇には笑みを刻んだまま、わずかに眉が曇る。

 けれど表情の動きはそれだけだった。心情を読むことができない。


 それは蓮に関してもそうだ。月龍の死を望む、自ら手を下そうとするなど考えられない。どのような心の動きが、蓮を凶行に駆り立てたのか。


「無理もない。我が子を殺されれば、相手を憎んで当然だ」

「蓮の子が――死んだ――」


 もたらされた事実に、愕然とした。

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