第十一話 蓮の死
結果は、予測通りだった。
そうだろうとわかっていたはずなのに、目前に突きつけられて自分でも信じられないほどの衝撃を受けていた。
それで月龍に毒のある言葉を投げつけた。和解に向かいかけているだろう二人の間に、溝が生まれればいいと――存分に苦しめばいいと思って。
出て行った月龍の後をつけたのは、首尾よくいったのかを確認したかったためだ。
気の短い月龍のこと、事実も確認せずに怒り狂って蓮を追い出すかもしれない。
身重の女を追い出すのが躊躇われたとしても、自制も効かず、月龍が飛び出す可能性もある。
蓮が追い出されれば保護を、月龍が出て行けばその留守をついてつけ入る隙ができるのではないか。
けれど、しばらく待っても月龍も蓮も出てこなかった。
月龍もそこまで単純ではなかったのか、さすがに期待通りというほどにはことがうまく運ばなかったらしい。
まあいいかと思い直す。これで月龍が欲していた「完全な幸せ」は彼の手からすり抜けていった。二人の間には、永劫に消えぬわだかまりが居座り続けるだろう。
それを打ち込んだのが自分だと思えば、陰惨な喜びに胸が震える。
満足して、その場を後にしようとしたときだった。にわかに邸宅が騒がしくなる。
なにか起こったのかと物陰から様子を窺って、言葉を失った。
姿を現した月龍は、なにやら慌てた様子で門衛に喚いている。血相を変えて何処かへ走って行く兵士を見守る月龍の衣服が、血に濡れていた。
月龍に怪我をした様子は見えない。だとしたら、返り血だろう。
――誰の血だ?
考えるまでもない。邸内には、月龍の他に蓮しかいない。
月龍が蓮に対して、並々ならぬ怒りを募らせていたのを知っている。詳細はともかく、中でどのようなことが起こったのかは、容易に推察できた。
そう、推察できたはずだった。
月龍は以前から、蓮に暴力を振るっていた。刃を突きつけたことすらあった。極限の混乱状態に陥ればどのような言動をするのか、推測は難しくない。
その推測を怠った。仲違いをするだろうとは思った。だがまさか、流血騒ぎにまでなるとは思い至らなかった。
常識では考えられぬ行動ではあるが、常識が通じる相手ではないことを失念していた。
一時の感情で、言ってはならぬことを言ってはならぬ人物に放ってしまったのだと、初めて気づいた。
月龍の邸宅には、医師と思しき男が呼び入れられた。彼もやはり血相を変えて飛び出し、すぐに戻った。
その後、憤怒の形相の亮が登場したのを見て、いよいよ事態が緊迫しているのを知った。
今や王太子殿下となった亮が王宮を抜け出してくるほど、蓮の容体は悪いのだろう。
怪我を負った、などという生温さではなく、おそらくは生命に危機が及ぶほどの――否、もしかしたらすでに死んだのかもしれない。
――蓮の、死。
ぞわりと背筋が寒くなった。蓮が月龍の子を身籠ったと知ったときよりも、激しい衝撃に襲われる。
蓮が死ねば、月龍は絶望の底に叩きつけられるだろう。仮に愛情が伴っていなかったとしても、「公主」を死なせた、その一点だけですべてを失う。
喜ばしいことのはずなのに、蓮が死ぬと想像するだけで呼吸すらできなくなりそうだった。
本当に死んだのかと、確かめることもできなかった。
怖かったのだ。
蒼龍は文字通り逃げるようにその場を後にした。




