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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第十六章

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第七話 役者


 悲しいのか、辛いのか、憤っているのか、悔しいのか――憎いのか、愛しいのか。

 複雑に、感情が渦巻いている。


「君は優しいから、こうやって顔を突き合わせては厳しいかもしれないとは思っていたが――君の手にかかれるのであれば、本望だろうと」


 視線に耐えられなくなったか、月龍は苦笑を刻んだまま顔を背けた。


「君は憎い男を殺し、子供の仇も打てる。おれは君の望みを叶えてあげられて、なおかつこの――君に嫌われた状況から逃げ出せる」

「――私を愛しているとでも?」


 やっと、絞り出した言葉だった。みっともないほど、唇が震える。歯の根が合わないとは、このことだろうか。

 背けていた顔をこちらに向けて、月龍はゆっくりと目を伏せる。


「心の底から、君ただ一人を」


 悲しげに眉をひずませ、目尻には涙まで見える。けれど唇の両端はかすかにつり上がっていた。


 ――ああ、そうか。

 蓮はここに至ってようやく、月龍の企みを悟る。

 流産のあと、異様なほどに優しかったのはこのためか、と。


 蓮は復讐のために月龍の傍に居ると言った。邪魔をするために残るのだと。

 月龍の想いが蓮に向いているのならば、成り立たない弁明だった。月龍とて、それくらいはわかっている。その上で、芝居を打っていたのだ。


 過去はともかく、今の言動だけを見ていれば、月龍は蓮を愛しているように見える。そう信じ込ませて、蓮を出て行かせようと――自らの自由を得ようとしたのだ。


 そう考えれば、月龍にとって最も有利な行動をとってしまったことになる。蓮が彼を殺そうとした、その望みを叶えるために死のうとした、それほど愛しているのだと見せつけたかったのだろう。


 けれど、本気で殺される気があったとは思えない。「君には厳しいかもしれないと思っていた」と月龍は言った。蓮が本当に手を下せるわけがないとわかった上で、死んでやるという演技をして見せたのだ。


「あなたの気持ちは、よくわかりました」


 もう、嫌と言うほどに。


 口の中で小さく含んだ独り言は、月龍の耳に届いたかどうかはわからない。ただ、その口の端から笑みが消える。はっと息を飲み、上げた顔には不安の影が見えた。

 これが演技だとしたら、大したものだ。武官ではなく、役者になっても十分にやっていけるだろうと、皮肉な思いに駆られる。


 否、もしかしたら本当に不安なのだろうか。血迷った蓮が、「愛してくれているのならば傍に居させて」などと言い出す危険性も皆無ではないのだから。

 一層のこと、そう言ってやろうか。そうしたら怒りに歪んだ顔が見られるかもしれない。


 ――けれどもう、これ以上嫌われたくはなかった。

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