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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第十六章

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第二話 最初から


「でしたらどうぞ、お好きなように。抵抗などしませんから」


 すっと目を閉じ、仰向けた顔にはやはり、表情はなかった。

 月龍の目線とため息の意味を誤解したのだろうとは理解できる。とはいえ、蓮が月龍に身を任せる理由にはならなかった。


 蓮の怪我は確かに、回復してきてはいる。けれど命を失った子供を排出するために、胎内は深く傷つけられた。目に見えていた表面的な傷よりもなお、酷い状態のはずだ。

 その状況で体を重ねれば、想像を絶する痛みが蓮を襲う。自分の体のことだから、蓮とてそれくらいはわかるだろう。


 にもかかわらず抱けなどと言うのは、月龍が蓮の苦痛になど構わない、自分の悦楽のために蓮を犠牲にすると思っているからだ。


 ろくでもない男だな。


 蓮が考える月龍の有り様を突きつけられた気分だった。

 一層のこと、なりふり構わず蓮に泣いて縋れたら楽になれるのだろうか。


「――違う」


 誘惑に駆られるも、辛うじて堪える。蓮にとって加害者である月龍が、楽になることなど考えてはならなかった。


「君を害することはしない。誓う」


 驚きに瞠った目を向けられ、月龍は笑みを作って見せた。


「だから安心してほしい」


 桶に汲んだ湯に手拭いを浸し、絞る。首筋、肩、腕――ゆっくりと拭いていく手つきは、純粋な介護そのものだった。そうあるように、務めた。


「私の体にはもう、興味はないと?」


 体を拭き、衣服を蓮の肩に戻す。乱れを正すために一度ほどいた帯を締め直す月龍に、蓮が静かに問いかけてきた。

 月龍が心痛を表さないことに苛立ったのか。皮肉らしきものを発する蓮に、小さく笑って見せる。


「一度くらいは、君を抱いてみたかったが」

「――はっ」


 歪む眉を自覚しながら言うと、蓮は呆れを含んだ失笑を洩らす。


「おかしなことを。あれだけ散々犯しておいて」

「そう、おれは君を犯しただけで、抱いていたわけではない」


 なにを言っているのか。非難に満ちた瞳を見ていられなくて、目を伏せる。


「望まれたから仕方なくではなく、おれの気を引くためでもなく、君自身がおれを求めてくれたことが一度でもあったか」


 責めるつもりはない。責は、蓮をそのような心持ちにすることができなかった月龍にある。


 初めてのとき、泣く蓮を力ずくで押さえこんだ。その後も度々、腕力にものを言わせて奪い取った。

 別れ話をして、縋ってくれるのが嬉しかったのは、公主である蓮よりも上の立場になれたからではなかったのか。


 暴力と甘言で奪うことが、支配欲を満たしてくれた。


 その一時的で愚かな欲を満たしたせいで、蓮の心を失った。本当に望んでいた「睦み合う」という行為ができなくなった。

 体を重ねていれば、少なくとも繋がっている間だけは確実に自分のものにできる。

 蓮が月龍の気持ちを誤解していても構わない。嫌われていてもいい、傍に居て、肌に触れて、そうしていればいずれわかってくれるかもしれない――否、信じてもらえずとも離れたくはない。

 自分勝手な感情を押しつけ、止まることをしなかった結果がこれだ。


 ――最初から、すべてが間違っていた。


「おれ達は何故、出会ってしまったのか」


 ため息に乗ったのは、心の底からの本音だった。

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