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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第十五章

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第七話 范喬


 范喬は、月龍の頼みを聞き入れた。それはまさしく、范喬が提案しようとしていたことと一致していたのだ。


 用意するのは荒縄と無人の部屋。部屋は邸宅の、使われていない客間の一室を選んだ。臥牀以外のすべてを運びだして、準備する。

 縄は家畜用の、特に丈夫なものを誂えた。それで月龍の頑強な体を縛りつけ、さらに臥牀の柱にくくりつける。禁断症状からくる暴力衝動を抑えるための手段だった。

 こうでもしなければ周りの物を壊し、さらには自分まで傷つけてしまう恐れがある。舌を噛まないようにと、猿轡も嵌ませた。


 これは、月龍の体に染み込んだ薬を抜くための所業だった。中毒になった今、本人の意思だけではもはや無理な状況になっていた。


 范喬はここを訪れたとき、一目見て月龍が薬物中毒になっていることに気づいた。その瞬間、すべてを察した。

 以前、月龍に多量の薬を求められたことがある。尋常ではない量だったので断ったのだが、それ以来、訪ねて来なくなった。


 月龍の精神状態は回復と悪化をくり返していた。多量の薬を要求したのは悪化したから、訪問が途切れたのは回復したからなのだと考えていたのだけれど。


 実際はそうではなく、他の者から薬を調達していた。薬をやめ、回復したことを期待していたけれど、真逆の状態だったと知る。

 容量をはるかに超えて摂取していたのは、姿を見ればわかった。中毒のせいで湧き上がる暴力衝動に抗えず、蓮に乱暴していたのだろう。


 そしてとうとう行き過ぎた暴力を振るい――蓮が死地を彷徨っていることで我に返り、范喬を呼びに来た。


 たとえ助かったとしても、自分を殺そうとした月龍を蓮が許せるかはわからない。

 けれど、少なくとも動かせるくらいに体が治るまでは、蓮をここに置いておくしかなかった。

 その間、月龍が再び暴力行動を起こさないように見張る必要がある。薬を抜くことができれば、なおよかった。

 范喬が提案するより早く、月龍から申し出てくれたのは、嬉しい誤算だった。


 薬を抜く作業は、荒行と言うべきものだ。禁断症状からくる発作時は、常人でさえ並外れた怪力をもって暴れることがある。

 自分の痛みにさえ構わなくなったとき――自分の体が壊れ、傷つくことを恐れなくなったとき、無意識下に働く力の制御も行われないからだ。


 月龍の場合、元々が腕力、体力共に常人以上だった。通常は体を縛るか柱に縛りつけるかのどちらかだけれど、併用した理由はそれだ。

 しかし、それでも激しく暴れるときの剛力によって、縄が千切れかけていることもあった。発作が鎮まり、月龍が失神する度に縄で拘束する。

 一体幾度、それをくり返しただろうか。


 三日三晩かかった。この間、范喬はほとんど眠ることができなかった。

 月龍の発作はいつ始まり、いつ終わるのか予測できない。また、蓮も意識が回復したとはいえまだ予断を許さぬ状況だった。

 日に何度も何度も二つの部屋を往復し、食事もまともに取れず、合間を見てうたた寝程度の仮眠を取る。


 やつれた范喬でさえ、荒行を終えた月龍の衰弱にはほど遠かった。この四日間、月龍は食事はおろか、水もほとんど口にしていない。

 にもかかわらず、尋常ならざる力で暴れ続け、吠え続けていた。時折とれる休息も失神という状態であり、まともに休めたはずもない。


 身に纏っていた衣服は、縄とこすれてぼろぼろに破れ、裂け目から直接触れたであろう皮膚にもかなりのかすり傷がついていた。中には深い傷もあり、所々、滲むだけではなく流れ落ちるほどの出血も見て取れる。

 目は落ちくぼみ、頬もこけ、顎には無精髭がまばらに点在し、自慢の黒髪も艶を失い、乱れていた。

 この姿を見て、誰が(ショウ)飛羐(ヒユウ)とわかるだろうか。


 しかし、柱に戒められたまま項垂れる瞳に、悲壮感はなかった。

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