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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第十五章

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第六話 殺して


 沈黙は、長くは続かなかった。


「――残念でしたわね。私を、殺し損ねて」


 深いため息に乗った、消え入りそうな程にか細い蓮の声が告げる。


「え――」


 過激な発言に、咄嗟に反応できなかった。間の抜けた声がただ、洩れる。

 昨夜の蛮行を見れば、たしかに今の状況は「殺し損ねた」と思えるだろう。理解できるだけに、鋭利な刃物よりもその言葉が月龍の胸をえぐる。


「――どうぞ」


 絶句する月龍への追い打ちは、さらに冷たさと鋭さを増す。

 虚ろな瞳を天井へと向けたまま、蓮は続けた。


「今なら傷の一つや二つ、増えても気づかれません」


 目的を遂げてください。


 か弱い声が、途切れ途切れになりながらも意思を伝えた。


 蓮を殺せと言っているのか。


 思い至るのと同時、ぐっと息を飲む。

 蓮は本当に、月龍が彼女の死を望んでいるとでも思っているのだろうか。

 月龍の本心を知りながら、いたぶっているのではないか。


 たとえ後者だとしても、責める権利などあるはずもない。わかっていてもなお、感情が乱れる。

 俯き、顔を背けた月龍の肩は震え、両の拳は暴れ出そうと蠢き始めていた。

 この凶暴な衝動に負けてはいけない。狂乱を抑えるため、爪が食いこむほどに握りしめた拳を太腿に押しつける。


「――できない」

「できない?」


 絞り出した月龍に、蓮が聞き返す。


「昨日はできたのに――薬の助けが必要なの? なら飲んで――」


 人払いをした理由はこれか。否応なしに思い知らされる。


「君に――死んでほしくない」


 昨夜の言動から一転した発言は、しかし月龍の本心だった。


「生きて、幸せになって欲しい。だから――今はただ、体を治すことを考えてくれ」


 たった一日前、殺しかけた男が言っていい台詞ではない。

 なんと身勝手なとでも思ったのか、蓮の隻眼に驚きが宿った。すぐに悲痛な色が広がる。見る見るうちに、涙が溢れ出した。


「――どう、して――」


 そんなこと言うの。問いは声にならず、唇の動きと洩れ出た息だけでようやく理解できた。

 涙は、悲しみと怒り、どちらの発露なのだろう。


「お願い――殺して……」


 再度、嘆願するように呟いて――月龍が否を唱えるより先に、蓮の瞼が閉じる。力が抜け、こちらを向いていた顔がかくんと角度を変えた。

 意識を失ったのか、あるいは――


「あぁ……(ハン)殿! 蓮が――!」


 月龍の目には、死んだようにも見えた。恐怖に駆られて、上ずった叫びを上げる。

 医師――范喬(ハンキョウ)は、叫び声で異変を察したらしい。扉の前に待機していたのだろう、慌てて駆け込んでくる。


「大丈夫です。気を失っておられるだけで……ですが今日はもう、このままお休みになられた方がいいでしょう」


 范喬の言葉に、ひとまずは安心する。だが気絶したまま眠りに落ちる容体が、芳しいものではないことくらいはわかる。


 これが、月龍の所業。


「邵殿――」

「范殿」


 范喬を遮って、呼びかける。


「あなたに、頼みがある」

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