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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第十四章

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第七話 帰途


 愕然と、そして慄然として睨みつける月龍の視線を軽く受け止めながら、ああいや、と蒼龍は笑う。


「蓮は優しいから、そこまでのことはしないか。だがああ見えて、鋭いところがある。女の本能とやらで、子の父親を察しているかもしれない」


 自分である可能性が高いと言いたいのか。怒鳴りつけたいのに、うまく口が開かず、喉の奥に声が張りつく。


「たとえ双子の兄弟とはいえ、違う男の子供を知らずに育てさせられるとは哀れなものだ。それを嘲笑ってやるつもりだったとしたら、こうやって知らせてしまっては、蓮に悪いことをしたか」

「――うる、さい」

「ああ、それとも蓮は、やはりおれのことを一番に考えてくれているのかもしれないな」


 なんとか声らしきものを発する月龍を無視して、蒼龍はさらに続ける。


「おれの元々の望みは、あなたを廃して成り代わること。おれがあなたになったとき、より有利に働くよう、あなたの地位を高めておいてくれるつもりなのかもしれない」


 あえて逃げずに留まるのは、月龍のためではなく蒼龍を想うあまり、ということか。

 そのようなことはない、蓮はおれを愛してくれている――そう口にすることも、思うこともできない。ずっと蓮を虐げてきたというのに、思えるはずがなかった。

 蓮に憎まれている、その前提で考えれば、蒼龍が語る内容は信憑性が高い。


「おれのためにと尽力してくれる気持ちは嬉しいが、そのせいで、好きでもない男との生活を強いてしまうのは心苦しい――」

「黙れ!」


 これ以上、聞いていられなかった。立ち上がり、身を乗り出す。右手で胸倉を掴み上げて、左手を振り上げた。

 拳を、蒼龍の顔に叩きこむつもりだった。なのに易々と左手を掴まれ、蒼龍は涼しい顔で月龍を見返す。


「防がれたことが、意外か?」


 にやりと、目の前にある口元が歪む。


「前は、わざと殴られてやっただけだ。蓮の前だったからな。だがもう、彼女の同情を買う必要ない。もっと強い感情――愛情を得られたのだから」

「うるさい」

「ああ、殴られてやってもよかったな? 想い人を殴られたと知れば、蓮はよりあなたを恨むだろう」

「――うるさい」

「ほら、手は放してやる。殴ったらどうだ? もっと蓮に嫌われるために」


 言葉通り、左手は解放される。

 けれど再び、拳を振り上げる気にはなれなかった。たとえ蒼龍に打撃を加えたところで、気が晴れるわけもなく、ただより強い虚無感に襲われるだけなのは目に見えている。

 掴み上げていた胸元を押して、離れると同時に踵を返した。


「おれはここにいる」


 背中にかけられた声に、振り向くことはしない。声音と同じ余裕に満ちた表情など、見たくもなかった。


「いつでも会いに来るといい」


 まるで親しい相手にでもかけるような台詞は、月龍の神経を逆撫でるためのものだろう。

 答えもせず、振り返りもせず、だが蒼龍の意図通りに腸を煮えたぎらせながら、月龍は帰途につく。

 ――感情に任せ、足音を荒立たせながら、蓮の元へ。

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