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冥合奇譚 ~月龍の章~  作者: 月島 成生
第十二章

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第九話 責任転嫁


「公主にお話しました。私と邵様の、あの夕刻の出来事を」


 あの夕刻とは、などと訊き返す必要はなかった。

 蓮に触れたくて、けれど触れることができなくて、欲求をこの女で吐き出したことがある。


 蓮があのことを知っていた。

 一気に血の気が引いていく。


 蓮が初めて別れを切り出してきたのは――常ではあり得ない、強引な誘惑をしてきたのは、紫玉とのことがあった数日後だった。


 あれは、蓮が見せてくれた初めての嫉妬だったのかもしれない。


 悟った瞬間、思い違いにも気づかずにいられなかった。

 蓮と出会う前の女関係を責められたことはない。それは彼女が寛容だからだと思っていた。行為はただの行為、愛情とは別の話だと割り切る月龍と同様、気にしないのだと。


 けれど蓮は嫉妬した。怒りの発露の仕方が、月龍と違っただけだ。

 月龍を責める代わりに、愛情を確かめようとした。腕に抱かれて安堵を得たくて、あれほど求めてくれたのではなかったか。

 別れを口にしたのも、蓮に縋られて嬉しかった月龍がやっていたのと同じことだったのかもしれない。


 ならばあのとき、蓮の気持ちは月龍に向いていたのか。

 対応を誤ったのは、月龍だ。蓮の想いを受け止め、抱きしめていればよかったのだ。

 過ちを告白し、許しを請うていれば許してくれていたかもしれない。不信感を完全に拭えなかったとしても、ここまで拗れることはなかった。


 蓮の心を、殺さずにすんだ。


「何故だ」


 ぎり、と噛みしめた奥歯の間で、低く呻く。


「何故そこまで、おれと蓮の間を邪魔する。別れたと言って、おれがお前を選ぶとでも思っているのか」

「まさか」


 憎々しさを隠す気もない低い声に、紫玉の返答は明るい否定だった。艶然とした目つきで月龍を見上げ、紅を引いた赤い唇を吊り上げる。


「私はただ、私を弄んだあなたと奪っていく公主が幸せになるのが許せなかっただけ。――いい気味。公主にもいずれ捨てられ、あなたはまた孤独に逆戻りですわね」


 くすくすと、軽快な笑い声が続く。

 頭がくらくらと揺れた。酷い怒りが、全身の血を逆流しているのではないかと思うほどだった。


 この女のせいだ。


 過ちを重ね続け、蓮を心身ともに傷つけたのが自分であることも忘れ、紫玉が全ての元凶であるような錯覚にみまわれていた。


 宮中での暴力沙汰は許されない。月龍がいくら粗忽とはいえ、知らぬはずがなかった。正気であれば怒鳴りつけるくらいはしただろうが、手を出すことはなかっただろう。

 けれど今、月龍は通常の状態ではなかった。薬の効果が切れかけたことによる禁断症状が出始めている。精神が苛立ち、理性も薄れていた。

 その状況でさらに感情を揺さぶられて、耐えられなかった。

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