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運命の錬金術師  作者: 夜行
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第参拾漆話 それから


 それから数日後。


 ヴァンガル国はいつも通りの日常が戻っていた。すべてが元通りとはいってないが、それでも徐々に回復をしている。


 そしてこの国にはもう結界は張られていなかった。


 ヴァンガル国城内の広場では大きな催し物が開かれていた。そこに居るのは人間と魔者。今後についての話し合いと親睦を深める為にここに集っている。



「いや~、一時はどうなることかと」



 もぐもぐと口を高速で動かしながらまるで他人事のようにファルは呟いた。



「まぁ、うまくいって良かったんやない。さすがアルさん」



「でっしょー」



「あんまり調子に乗らないの」



 三人で言い合いをしているとそこに一人の人物が声をかける。



「その通りだ。その力に身体がついていかないだろうからな。慣らす事が大事だ」



「じゃ、もう一回死んでよ」



「それは断る。あまりいい気分ではなかったしな」



「さすがの魔王ギリも何回も死ぬのは嫌か」



「お前たち二人が被検体になればよかろう。私とクラウを巻き込むな」



 そこに居たのは魔王ギリ。ファルが運命を捻じ曲げてみせたのだ。成功するかはわからなかったが、三日間不眠不休で取り組んで見事にその運命を手繰り寄せた。


「しかし、死の運命を書き換えるとは。生前のお前には出来なかったことだ」



「そうなの?」



「人間の、心というものがそれを可能にしたのだろう」



 何が足りて、何が足りてなかったかは不明だ。それはあやふやで言葉には出来ないだろう。その感覚はあってないようなものだ。



「それで一つ、相談があるのだがな」



「なに?」



 三人は食べる事をやめてギリへと向き合う。



「人数が足らんのだ。相手は五人。こちらからはお前たち三人とクラウ。あと一人が足らぬ」



 三人はいぶかしげな顔をする。



「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、ギリ様。なんで俺が入ってんすか」



 クラウがやって来て抗議する。



「人数が足らんのだ。それにお前が参加するのが一番良い」



 それは命令に近い。何を言っても覆ることがなさそうな事を理解してクラウはシュンとする。



「いやいや、ちょい待ちギリ。あんたも参加すればちょうど五人になるやろ」



 それが当たり前の選択肢だ。黒の心臓を持っているし、強さも申し分ない。参加しない理由はどこにもないだろう。


「それは無理だ」



「なんでや」



「私は殿を務めることになるだろう。最後の殿だ。お前たちが負けてしまった時、この世界を護るためにこの命を相手に差し出すのだ」



「それって……」



「殺すも奴隷にするも相手次第だ。私の命一つで他の民が守られれば御の字よ」



 相手がそれを受け入れるかどうかはわからない。そもそも負けたときの可能性の一つだ。その可能性はどれほどあるのかは不明だが、さまざまな出来事に対応しなければならない。



「だからあと一人足りぬのだ。リャーカも無理だぞ。あれは自然のようなものだからな。万が一の事が起これば裏で動く必要がある」



 言いたいことは理解できた。だからと言って問題が解決するのはイコールではない。


 四人が頭を悩ませていると陽気な声が割って入ってきた。



「はいはい。私やりまーす」



「おコウ」



 元気よく手を挙げて狗飼の後ろから飛び出してきたのはフコウだった。



「お前か」



 ギリは手を顎に当てて考える。ただの人間にしては根性がある者だ。



「おコウ。遊びじゃないんやで」



「ナク先輩が行くなら私も行きますっ」



 眼をキラキラと輝かせながら言う。まるでピクニックにでも行くかのようなウキウキぶりだ。



「まぁよいだろう。補欠という枠でよいのであればな」



「ちょっと」



 狗飼はさすがに無理があると主張するが、お上が首を縦に振るのならば仕方がない。



「お前たちが鍛えてやればよい」



「あっ、ナク先輩。あっちにおいしそうなものがありましたよ」



 そう言ってフコウは狗飼の手を引っ張って行ってしまった。まるで嵐のように来て突然去っていってしまった。ファルとリアは顔を見合わせてぽかんとしてしまう。


 狗飼がいなくなったところでギリが一つ、昔話をしてやろうと言い出した。



「狗飼はお前たちの事を今とは違った名で呼ぶだろう」



「え? あぁ、あだ名、みたいな感じで呼ぶかな」



「生前の名だ」



「え?」



「あいつが呼んでいるのはお前たちの生前の名だ。あいつはまだ昔を忘れられないのだ。こんな事を言うと怒り狂ってしまうが、この場に居ないのならいいだろう」



「そうだったんだ。ナクちゃんらしいっちゃらしいかな」



「あいつはたった一人で待ち続けたのだ。再会してからまだ二十年も経っていないだろう。待ち続けた時間の十分の一程度だ。まだあいつの中ではお前たちは人間ではなく、生前の面影を追っている。その内に今の思い出が増えれば過去と決別できよう。それまでその名で付き合ってやれ」



「うん、わかった」



「かー、狗飼も素直じゃないなー」



 二人は嬉しそうに笑った。



「ギリ様ー、なんか王様が話たいらしいっすよ」



 クラウがギリを呼びにきて入れ替わる。今後を相談するのだろう。



「王様同士って大変だねぇ」



「何言っての。リアも王族なんだから関係ない話じゃないでしょ」



「私が王位を継ぐことはないよ。他の兄弟に任せる」



 まるでめんどくさい事を押し付けるような笑みを見せる。



「まぁ、王様の仕事ってめんどうっすよ。ギリ様を見てたら絶対にしたくないって思いますし」



「どこの世界も仕事って大変なんだな……」



 三人は憐れむようにため息を吐いたのだった。


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