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運命の錬金術師  作者: 夜行
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第参拾陸話 真実


 結局のところギリの本意はわからなかった。どうしてこんな事をしたのだろうとファルは倒れているギリを見つめる。当然ながら返事が返ってくる事はないが、それでも眼を放すことが出来なかった。


 これもすべては芝居だ、と今にも立ち上がりそうな雰囲気もある。


 その場を動こうとしないファルに二つの影が並んだ。



「狗飼、リア……リアだよね?」



 思わずそう聞いてしまう。今のリアはどっちのリアなのだろうか?



「え? なにが?」



 ファルの言いたい事が理解できずに聞き返したが、どうやらそれがファルにとって返答になっていたらしい。いつも通りのリアの反応にホッと胸を撫でおろす。



「胸はないけどな」



「あん?」



 ファルの心情を感じた狗飼はとりあえず場を和ますためにファルを刺してみた。



「ィアちゃん、覚えてる?」



「まぁまぁ」



「え? 覚えてんの?」



「覚えてるよ。あれも私には違いないし。私の意思で動いてたし。なんてゆーか、ただ破壊衝動が強くなった感じ」



「は、はかいしょーどーね……」



 リアを怒らせるの今後やめようとファルはこの時誓うのだった。



「それはそうと」



 リアは視線を落とす。



「ほんと、なにがしたかったんだろ」



「わからへん。ただ、ひとつ言えるのはこいつにはこいつの目的があって、今叶ってるってことぐらいじゃない」



 三人は沈黙し考えるが、答えはでそうもなかった。



『では、私から話してやろう』



「え?」



 聞き間違えるはずがない。これはたしかにギリの声だ。



「違うわよ。これは言葉を残しているだけ」



 いつのまにかチャーカが近くにいた。視線はゆっくりとギリに集まる。



『私はすでに死んでいる。これは私が死んだあとにお前たちに伝えるために残したものだ』



 ギリのつけていたペンダントからゆっくりと淡い光が放たれている。これはきっとそういうアイテムなのだろう。



『先に言っておくが、これは私が一方的に話すことになる。お前たちの声は聞こえない。前もって録音したにすぎない』



 三人は軽く頷いて続きを待つ。



『結論から言う。近い将来、別の世界より五つの巨大な勢力がこの世界に訪れる事になる』



「巨大な勢力!?」



『私の黒の心臓によりその時の未来が視えたからだ』



 端的に、無駄な事を言わずに述べていく。



『その未来が視えた時、私は決断を迫られた。それは人間として生きていくと決め、その道を歩んでいるお前たちをこちらの世界に戻す必要が出て来た』



『別世界の勢力に対抗するには赤の心臓と青の心臓の力が必要不可欠だった。だから目覚めさせる事にした。お前たちには申し訳ない事をしたと思っている。そして、クラウにも』



『クラウに最初に命じたのは、青の心臓を命を賭して護り抜く事。そして必要とあれば自らの命を投げ捨ててでも覚醒させること』



 その命令は見事に遂行されることになった。



『問題は、赤の心臓の宿主が見つからなかった事。確信はなかったが、馬鹿な三人がいつも一緒にいたのでそれに賭ける事にした』



「……馬鹿は余計じゃない?」



 ファルが小声で抗議するも、シッとリアにお叱りを受ける。



『これからの事を伝えておく。お前たちの力は一度覚醒した。あとは自分たちでその力をコントロールして取り戻すのだ。正確な時間はわからないが、早ければ一年と立たずに五つの勢力は侵略してくるだろう』



『五つの勢力とは、海賊団船長、騎士団団長、ハーフエルフ、ネクロマンサー、そして兎』



「うさぎ?」



「うさぎってあのうさぎ?」



「あの可愛い兎やろな」



『兎と言って侮るな。あちらの世界では人を滅する兎、人滅暴兎と恐れられている』



「でもうさぎでしょ? 狗飼なら」



「まぁ、ぺろりやな」



『そして、海賊団船長はファル・リュミーナ、お前と同じ赤の心臓を持っている』



「えっ」



『能力はさすがに違うがな。それに五人の総戦力はお前たち三人の総戦力のおよそ四倍にも及ぶだろう』



「いっ!? よ、四倍……」



『厳しい事態になるのは目に見えている。本来ならそこにクラウを……いや、言っても仕方がない』



『あとはリャーカに聞け。最後に、どうかこの世界を護ってくれ』



 その言葉を最後にペンダントの光は失われ、宝石は砕け散った。



 言いたい事は山のようにある。まだ聞きたい事もやまのようにある。だが、それを出来る術はなくなってしまった。これからどうすればいいのか頭を悩ませるほかない。



「とりあえず、倒れた二人をここに残しておくことはできへんし」



「そうね。ヴァンガル国に戻って埋葬もしましょう」



 リアと狗飼は今後の方針をテキパキと決めていく。



「ファル?」



 ひとりで何かを深く考えこんでいるファルにリアは声を掛けると、ファルはパッと視線を二人に投げた。



「ねぇ、二人とも。ちょっと提案があるんだけど」



 その瞳は希望に溢れていた。


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