第弐拾漆話 音
大剣を振り回すのに前ほどの力が必要なくなっていた。気が付いたのはいつからだろうか。意識をせずに扱えている気がした。それでもやはり、多少は重いので身体が持っていかれそうになるが、そんな事を意識できる余裕などはなかった。故に軽く感じる。
大剣を軸にして自分の身体を振り回し、自分の身体が止まればその勢いを大剣に移し振り回す。それの繰り返しだ。流れるように、止まる事がないように繰り出していく。
だが、それは相手も同じ事で、長引けばこちらが不利になるだろう。相手は吸血鬼でこちらは人間だ。体力のゲージが違う。だからといって、途中で起死回生のような一発が出るかというと、世の中はそんなに甘くはない。それをキッチリと潰してくるあたり、相手の強さが伺える。隙なんてもは存在しなかった。そんなものに頼ろうとしている時点で負けているのだ。
勝利への渇望が強い方が勝つ。だたそれだけの事だった。
先に限界を迎えたのはリアだった。大剣を握る手に握力がなくなり弾かれてしまった。素手ではどうする事もできない。そんな事を考える前にクラウはリアの首を締めあげた。
「リア!」
助けに入ろうとするファルをリャーカが止めた。
「なんで!」
「危険よ。巻き込まれる」
「そんな事言ってる場合じゃ――」
リャーカの表情を見て、ファルは言葉を続けることができなかった。その表情は一切の余裕がなく、何かを恐れているように見えたのだ。
「……来る」
リャーカはそう呟いた。
「限界っすか。案外、あっけなかったっすね」
「くっ」
喉が閉まる。息が出来ないし、血管も押さえられて意識が朦朧としはじめた。
「こんなもんじゃないでしょ。ほら、頑張ってくださいよ」
うっすらとクラウの言葉が耳に入るが理解が出来なかった。
「自分の心臓の音を聞くんです。ほら、青の心臓はなんて言ってます?」
心臓。青の心臓。魔の心臓でありながら、人間の自分にある心臓。
もうクラウの声が届かなくなっている中で、リアは聞いた。それが最初はなんなのかは分からなかったが、その音は次第に大きくなっていく。
ドクン、ドクンと脈打つ音が確かに聞こえる。まるで卵の殻を破くように、その音は人間の枠を破壊したのだった。




