第弐拾肆話 かくして
ギリの元に戻ったクラウは、またすぐにリャーカの元に戻ることとなる。その事はなんとなく予期していたのでたいして驚きもしなかった。
ただ、ついにきたか、と。それだけを思った。最初にこの命令を受けてからどれほどの月日が経ったのかわからない。ただ、それを目標に生きて来た。それがもうすぐ、終わりを迎えようとしているのだ。
「最後の命令だクラウ」
ギリは一度言葉を切り、重い口を再び開く。
「かつて命令したことを遂行しろ」
「はい」
それ以上は言葉を交わさなかった。必要がないことはしなかった。ただそれだけだった。クラウが去ったあとでギリは頭を抱える。今ならまだ――。いいや、と頭を振って冷静さを取り戻す。自分が決めた事だ。それを曲げてしまってはならない。すべてが無駄になってしまう。それはクラウを裏切ることにもなってしまう。それだけは出来ない。自分も覚悟を決めなければと強く思いなおしたのだった。
今から行くから首を洗って待ってろ。そんな古めかしい時代の言葉などはなかった。
理由があるとすれば、ただなんとなく。
今日、この日、この時間に現れるんじゃないかと、根拠もなくただそう思っただけだった。ただ、自分一人だけがそう思ったのなら、それはただの勘違いだろうとそんな思いは斬って捨てられるが、相方も同じ事を思っていたのだからきっとそうなのだろうとお互いが納得した。
日が落ちる寸前。
昼と夜が入れ替わる瞬間。
黄昏時。
夕焼けは、ただ眩しく、三人を照らしていたのだった。
「っす」
「けっこー怒られた?」
「あの人はそんな事で怒んないですよ」
「なんか悪い事しちゃったなぁって」
「別にあんたがそんなこと思う必要ないっすよ。それよりどっすか?」
「うん、まぁ、形にはなった気がする」
「へぇ、それは楽しみっすね」
「じゃあ」
「そっすね。はじめますか」
「ぐだぐだ話しても仕方ないしね。見てもらうのが一番」
「お手並み拝見」
それ以上言葉が続く事はなかった。ファルは少し下がって地面に触れた。リアはゆっくりとクラウに近づく。クラウもまた、リアにゆっくりと近づく。お互いの距離は二メートルもない。
リアは持っていた大剣を大きく振り上げてピタリと上段で止める。あとはこれを振り下ろすだけだ。振り下ろせば確実に当たるだろうその距離。だが、簡単に当たるはずもない。
クラウは期待していた。この先に自分の知らない事が起こるのか。きっとキーマンはファルになるだろう事もわかっているが、そちらを先に攻撃するという無粋な真似はしなかった。
空気が張り詰める。
いったい硬直してからどれほどの時間が経ったのだろうか。これからどれほどの時間が過ぎていくのだろうか。まだ一秒ほどしか経っていないのではないだろうか。
時間と言う概念がその場所から消えていた。再び時間が動き出すのは、リアが大剣を振り下ろした瞬間だ。
そしてその時は唐突に訪れる。
かくして、時間は再び動き出したのだった。




