第弐拾弐話 ダメ
自分の身の丈ほどもある大きな剣を振りかぶって相手に向かって振り下ろす。当然ながらそれが当たる事はなかった。
「全然ダメっすね。なんでダメかわかるっすか?」
地面にめり込んだ剣を必死で抜こうとしているリアにクラウは問いかける。
「え? なんだろう」
と言いながら必死で剣を引き抜こうとするが抜けない。クラウはため息をついて軽く剣を持ち上げてみせた。
「まず、この剣を振るうための力が足りない。ただの当たらない一撃必殺になっている」
「当たらない一撃必殺?」
「力がないから振り下ろしておしまい。二撃目がないってこと」
「あーなるほど」
しかも振り下ろした直後は完全に無防備になっている。そんな事ではカウンターを貰っておしまいだ。
「一撃に全て賭けるってゆーのは男のロマンですけど、現実的にはそんな事言ってられんっすよ。もっと先を考えないと」
「まぁ、たしかに」
「まず、その剣を使うのであれば自分が力をつけないと話にならん」
「……まぁ、たしかに」
納得したくないが、納得せざるおえなかった。クラウの言うことはもっともだし理解もできる。だが、力を、筋力をつけるというのはそんな簡単な話ではない。そんな数日で出来るようになるはずがない。ようは手詰まりなのだ。
頭を悩ませているリアをファルは遠くから見守っていた。手助けをしてあげたいが、自分に出来ることはないだろう。それがモヤモヤする。敵であるクラウに教えを乞うているこの状況もそんな存在が今この場にいるという違和感もすべてが気持ち悪かった。
「今は我慢なさい」
後ろからリャーカに言われる。頭ではわかっているが、心がそれを拒絶しているのだろう。
「いつまでこの状況は続くんですか」
「わからない。どの答えを言ったところであなたはきっと納得しない」
そうかもしれないとファルは下を向く。
「あなたは何もしないのかしらね?」
自分? 自分は何をすればいいのだろうか。この状況で何ができるのだろうか。しばらく一人になってからも考えてみたが、一向に答えは見つかりそうになかった。




