第弐拾話 事実
ファルとリアは同時にリャーカの顔を見た。今までそのような事を考えもしなかった。普通に考えたらたしかに自然にその答えにたどり着く。自分以外の色の心臓の持ち主。
「……お兄様、本当に?」
「事実よ」
別に隠す必要性はどこにもない。ただ言う機会もなかったし、聞かれなかったから言わなかっただけだ。
「じゃ、じゃあ、リアが小さい頃によく会ってたっていうのは、同じ心臓を持っていたから?」
「それだけじゃないけどね。半分当たりってとこ」
そこで言葉を切った。それは残りの半分の理由は話さないと言っているようなものだった。これはまだ話せる内容ではない。
「まぁ、この話はここまでにして、クラウ、あんたちょっと稽古をつけておやりなさいよ」
「……は? 誰が誰に?」
「あんたがリアに」
「なんで俺が!」
声を荒げて抗議の意を示す。
「そうですよ! 仮にも敵ですよ! そんな人相手に稽古って」
同じくファルも反対なようだった。しかし、ここでファルの意見はまったく必要性がない。大事なのはリアとクラウの合意だ。
「私は、兄上がそう仰るなら」
「ちょっとリア!」
「大丈夫よファル。兄上は絶対に間違った事も私を危険な目に合わせる事も絶対にしない」
それだけは言い切れる。リアはそう続けた。
残るはクラウのみ。三人の視線はクラウに注がれる。約一名のみ絶対に断れという視線を向けている。
「ちょっ、なんか圧が……」
クラウはファルの視線を手で制した。
「俺になにもメリットがない。それにそんな命令は受けてない」
命令とはもちろんギリから、という意味だろう。ファルだけが小さくガッツポーズをしている。
「ちょっとこっち来なさい」
リャーカは太い腕をクラウの首に回して二人に背を向ける。そしてファルとリアに聞こえないように小さな声で話す。
しばらくごにょごにょと話していて、なんいやら反論があったり落ち着いたりと忙しそうだった。二人がこちらに向き直った時、ファルはがっくりと肩を落とした。
「しょうがねぇ。ちょっとだけだぞ」
どうやらリャーカはクラウの説得に成功したようだ。脅したのか、何か取引をしたのかはわからないが、ファルはたしかに緑の心臓の持ち主は厄介だなぁと感じたのだった。




