第拾玖話 緑の
森の中にある小さな小屋。真新しく中に這入ればそこは森とは違った木の匂いに包まれていた。おそらくリャーカがリアの為に人間用の家を用意したのだろう。それだけでリアのことをどれだけ大切にしているかがわかる。
四人用のテーブルに椅子。そこに三人は座り休憩を挟む。一人だけサイズが合っていないのだが、二人は何も言わなかった。
「もうすぐ客が来る」
リャーカは唐突にそう言った。
「私たちはここに居てよろしいんですか?」
「うむ。問題はない。むしろ、いた方がよいだろう」
リアはリャーカを信頼している。間違った事は絶対にしないと言い切れる。そんな相手がそう言っているのだから、それに従うまでだ。
そしてドアが開く。もちろん三人はテーブルを囲っているので、ドアを開けたのは三人ではない。リャーカが言っていた『客』なのだろう。
自然に、意識する事なく、全員の視線が四人目に向いた。
「うぃっす~。リャーカさん、なんの用……」
そこに現れたのは、白髪の吸血鬼。クラウがそこに立っていた。
眼を見開き、驚いたのは二人。ファルとクラウだ。二人は同時にリャーカを見た。二人は同じことを思った。
『裏切られた』
リアだけが静かにコップに口をつけて飲み物を飲んでいた。
「リア! なんで冷静に座ってんの!」
「裏切ったんすか!」
冷静さを失っているファルとクラウが声を荒げる。対照的にリアとリャーカは冷静だった。
「落ち着きなさい二人とも」
「お兄……兄上がそう仰っているでしょう。だから大丈夫よファル」
言い直した……と心の中でつっこむファル。きっとお兄様呼びは他人がいないとき用で今はしっかりと皇女様モードなのだろうと勝手に解釈する。
「ふざっ――」
再びクラウが声を荒げようとした時だった。これまでにない圧がその場を支配した。それは紛れもなく、大妖精の波動だった。
「同じことを何度も言わせないでくれるか」
有無を言わせない威圧感。クラウは歯を食いしばって眼を閉じて、己の心を落ち着かせる。再び眼を開けた時は心は凪いでいた。それを感じとったリャーカは椅子に座るように視線を送る。
「お茶でも淹れてあげようではないか」
四人用のテーブルに四人が着席してお茶に口をつけた。
「あんた、何考えてんすか」
「色々」
ぴりぴりしているのはファルとクラウだけ。リアとリャーカは落ち着いている。
「……どこまで、どこまでわかってんすか?」
聞くべきではない質問をクラウは問いかけた。なぜ、聞くべき質問ではないかというと、この場にファルとリアがいるからだ。二人にだけは真意を知られてはならない。それはギリからの最優先事項だった。
「私は全てわかっているよ」
「絶対に――」
「――口には出さない」
先読みしたリャーカは言葉をかぶせた。
「安心しなさい。ギリの目的は理解できる。その為の其方の覚悟も」
「……やりにくい。非常にやりにくい。これだから――」
そしてクラウはファルとリアが言葉を失う言葉を言う。
「これだから、緑の心臓の持ち主は厄介だ」




