第拾捌話 エゴ
たしかに訓練は必要だとファルは思う。だが、それよりも今は優先させたい事があった。せめて自分だけでもと思っているとリャーカが言う。
「あっちは大丈夫よ。もうすぐ解決する」
「?」
ファルは最初なにを言われているのかが分からなかった。当たり前だが、人間は心を読む事は出来ない。しかし、相手は大妖精。そんなものは呼吸をするに等しいのだろう。
「私の考えている事がわかるって言うんですか?」
「まぁね。あなたの心は狗飼の身の安全がどうなっているのかでいっぱい」
一刻も早く助けに行きたい。そう思うのは自分が甘い人間だからだろうか。
「もうすぐ解決するってどういう事ですか?」
「そのままの意味よ。心配なのはわかるけどそれは杞憂に終わる。まぁ二人とも無事よ」
「二人?」
狗飼は単独で乗り込んだはずだ。誰かと一緒に行っていないはず。途中で仲間と合流したのだろうか。
「なんでわかるんですか?」
「私はなんでもわかるのよ」
さも当然のように話す。嘘をついている雰囲気はない。
「妖精は嘘はつかない」
どうも心を読まれているのは会話しづらいものがある。バツの悪そうなファルの顔を見て、リャーカはご満悦だ。
「あなたはあなたの出来る事をしなさい。今出来ない事をできるようになりなさい」
それ以上詳しい事は教えてくれそうになかった。それは自分で気がつけと言われている。
「中々聡い人間ね」
その眼差しは自分に向けられているようで、そうでないように思える。どこか昔の記憶を見られているような感覚だった。
今の自分に出来ない事。そんなものは無限にあるだろう。それを手当たり次第に試していくのは時間がかかりすぎる。それではダメだ。
「大丈夫。もうすぐ客が来るから、それに教えてもらいなさい」
「客?」
この人はどこからどこまでわかっているのだろうか。未来そのものが視えているのではないだろうか。仮にそうだとしたら、すべてを教えてもらいたい。リアの守り方を教えてもらいたい。そう思うのは人間のエゴなのだろうか。
「人間なら自然な事よ」
その言葉を残してリャーカは消えていった。
リアの方を見ると懸命に剣を振っていた。その表情は真面目なもので一切の迷いがなく感じる。自分の所為でこんな状況になっていているのだから、責任も感じているのだろう。その責任を少しでも背負いたいと思う。そうすれば多少はリアの肩の荷もおりるのではないか。
「これも人間のエゴですか」
返答は何もなかった。




